花咲徳栄、伝統の強打は健在 個性派集団が同じ方向を向いて2度目の日本一へ

大利実

5年ぶりの甲子園を目指す花咲徳栄。昨年は決勝、一昨年は準決勝でいずれも浦和学院に敗れたが、今年は「本命」として夏の埼玉大会に臨む 【YOJI-GEN】

 花咲徳栄はこの夏、県優勝に最も近い位置にいると見られる。伝統の強打は健在で、今春は圧倒的な攻撃力で昨秋に続いて埼玉大会を制した。2019年夏以来の甲子園、そして2度目の日本一も見据える強豪校は、どんな戦いを見せるのか。夏の大会を前に、岩井隆監督や生田目奏主将、プロ注目の大型遊撃手・石塚裕惺らに話を聞いた。

「一人」ではなく「全員」で戦う

 昨秋、今春と埼玉大会を制し、この夏はAシードから2019年以来の甲子園を目指す花咲徳栄。中軸にはU-18日本代表候補の石塚裕惺が座り、投手陣は最速148キロのストレートが武器の上原堆我が牽引し、県内三冠を狙える力を十分に持っている。

 ただ、今年の埼玉は例年以上の激戦で、浦和学院、昌平、山村学園、春日部共栄など、ライバル校が「打倒・徳栄」に燃える。

「秋春に比べると、まったく違う戦いになるのが夏の大会。『一度負けたら終わり』という恐怖心や緊張感が襲ってくるものです」

 就任24年目を迎えた、岩井隆監督の言葉である。「まったく違う夏」に勝つために必要なことは何か。

「一人にならない、ということだと思います。メンバーだけではなく、スタンド、学校、応援してくれる方々、そういう人たちの気持ちがうまく選手に伝わっていけば、力以上のものを出せると思います」

 一人で戦うのではなく、チームで戦う。そして、周りの支えを力に変える。

 岩井監督に、「石塚が注目されていますが」と話を振ると、印象深い言葉が返ってきた。

「打線の中でたまたま4番目に石塚がいるだけで、逆に石塚が目立つようでは1点しか入りません。全員でつなぐ意識をどれだけ持てるか。“一人”よりも“全員”です」

「飛ばない」とされる新基準バットになっても、伝統の強打は変わらない。冬には5人一組で戦う綱引きを取り入れ、例年以上に握力を鍛えてきた。「バッティングは、グリップに近いところから鍛える」が岩井監督の持論である。

 今春の県大会決勝では、23安打20得点で昌平に快勝。続く関東大会の初戦でも、生田目奏の満塁本塁打などで、5回コールド10-0で日大明誠を下した。

 齋藤聖斗、目黒亜門、生田目、石塚で形成する上位陣はバットコントロールに優れ、的確にミートする力を備える。

生田目と石塚が務めたキャプテンの意味

個性派揃いのチームをまとめるのが生田目主将(左端)だ。「いいキャプテンなりました」と岩井監督も厚い信頼を寄せる 【YOJI-GEN】

 一塁側ベンチにあるホワイトボードに、2024年のチームテーマが書かれている。

『変革』――。

 その意味を、キャプテンの生田目が教えてくれた。

「バットが低反発に変わることで、チームとしても、一人の選手としても変わっていかなければいけない。今まで通りにやっていたら、夏は絶対に勝てない。そういう意味での『変革』です」

 仲間にも強く指摘できるリーダーシップを持つ。「クールな男だけど、にじみ出るものがある。周りがよく見えるようになって、いいキャプテンになりましたよ」とは、岩井監督の評価である。

「チームを作るうえで大事にしてきたのは、徹底力です。岩井先生にもよく言われることで、誰か一人でもできないことがあったら、チームはうまくいかない。バッティングで言えば、練習のときからバットの芯でボールを捉えて、低い打球を徹底していく。夜の自主練習でも、22時の点呼まで打ち込んでいます」

 じつは、新チームから秋までは生田目、冬の間は石塚、そして春からは生田目が再びキャプテンに就いた経緯がある。

 指揮官が「優しい性格」と語る石塚にキャプテンを任せることで、取り組む姿勢や言葉でチームを引っ張ってほしい、という狙いがあった。

 石塚にとって、キャプテンを務めたことでどんな学びがあったのか。

「なかなかチームが同じ方向に向かなくて……、すごく大変でした。仲間に厳しく言うのが苦手で、でも、中心選手としてそれをやっていかないといけない。今はキャプテンを経験したことで、生田目が強く言ったあとに自分がサポートに回れるようにもなって、チームがいい方向に進んでいる感じがあります」

 性格も個性も十人十色。それぞれの長所が生かされ、がっちりと噛み合ったとき、チームはさらに強くなっていくはずだ。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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