花咲徳栄、伝統の強打は健在 個性派集団が同じ方向を向いて2度目の日本一へ
5年ぶりの甲子園を目指す花咲徳栄。昨年は決勝、一昨年は準決勝でいずれも浦和学院に敗れたが、今年は「本命」として夏の埼玉大会に臨む 【YOJI-GEN】
「一人」ではなく「全員」で戦う
ただ、今年の埼玉は例年以上の激戦で、浦和学院、昌平、山村学園、春日部共栄など、ライバル校が「打倒・徳栄」に燃える。
「秋春に比べると、まったく違う戦いになるのが夏の大会。『一度負けたら終わり』という恐怖心や緊張感が襲ってくるものです」
就任24年目を迎えた、岩井隆監督の言葉である。「まったく違う夏」に勝つために必要なことは何か。
「一人にならない、ということだと思います。メンバーだけではなく、スタンド、学校、応援してくれる方々、そういう人たちの気持ちがうまく選手に伝わっていけば、力以上のものを出せると思います」
一人で戦うのではなく、チームで戦う。そして、周りの支えを力に変える。
岩井監督に、「石塚が注目されていますが」と話を振ると、印象深い言葉が返ってきた。
「打線の中でたまたま4番目に石塚がいるだけで、逆に石塚が目立つようでは1点しか入りません。全員でつなぐ意識をどれだけ持てるか。“一人”よりも“全員”です」
「飛ばない」とされる新基準バットになっても、伝統の強打は変わらない。冬には5人一組で戦う綱引きを取り入れ、例年以上に握力を鍛えてきた。「バッティングは、グリップに近いところから鍛える」が岩井監督の持論である。
今春の県大会決勝では、23安打20得点で昌平に快勝。続く関東大会の初戦でも、生田目奏の満塁本塁打などで、5回コールド10-0で日大明誠を下した。
齋藤聖斗、目黒亜門、生田目、石塚で形成する上位陣はバットコントロールに優れ、的確にミートする力を備える。
生田目と石塚が務めたキャプテンの意味
個性派揃いのチームをまとめるのが生田目主将(左端)だ。「いいキャプテンなりました」と岩井監督も厚い信頼を寄せる 【YOJI-GEN】
『変革』――。
その意味を、キャプテンの生田目が教えてくれた。
「バットが低反発に変わることで、チームとしても、一人の選手としても変わっていかなければいけない。今まで通りにやっていたら、夏は絶対に勝てない。そういう意味での『変革』です」
仲間にも強く指摘できるリーダーシップを持つ。「クールな男だけど、にじみ出るものがある。周りがよく見えるようになって、いいキャプテンになりましたよ」とは、岩井監督の評価である。
「チームを作るうえで大事にしてきたのは、徹底力です。岩井先生にもよく言われることで、誰か一人でもできないことがあったら、チームはうまくいかない。バッティングで言えば、練習のときからバットの芯でボールを捉えて、低い打球を徹底していく。夜の自主練習でも、22時の点呼まで打ち込んでいます」
じつは、新チームから秋までは生田目、冬の間は石塚、そして春からは生田目が再びキャプテンに就いた経緯がある。
指揮官が「優しい性格」と語る石塚にキャプテンを任せることで、取り組む姿勢や言葉でチームを引っ張ってほしい、という狙いがあった。
石塚にとって、キャプテンを務めたことでどんな学びがあったのか。
「なかなかチームが同じ方向に向かなくて……、すごく大変でした。仲間に厳しく言うのが苦手で、でも、中心選手としてそれをやっていかないといけない。今はキャプテンを経験したことで、生田目が強く言ったあとに自分がサポートに回れるようにもなって、チームがいい方向に進んでいる感じがあります」
性格も個性も十人十色。それぞれの長所が生かされ、がっちりと噛み合ったとき、チームはさらに強くなっていくはずだ。