井岡一翔、中谷潤人、田中恒成、那須川天心も登場! 群雄割拠の国内ライト級にも注目!【7月のボクシング注目試合】

船橋真二郎

挫折を乗り越えた両雄のライト級“因縁の再戦”に注目

左から奥村健太トレーナー、鈴木雅弘、田部井要トレーナーの“チーム鈴木” 【写真:船橋真二郎】

 7月19日、東京・後楽園ホールで注目の東洋太平洋ライト級タイトルマッチが行われる。昨年10月にフィリピン・マニラで臨んだ王座決定戦で引き分けたロルダン・アルデア(比)に対し、後楽園ホールで初回TKO勝ち。今年1月に王座に就いた鈴木雅弘(角海老宝石/29歳、10勝7KO1敗1分)が元日本王者の宇津木秀(ワタナべ/30歳、13勝11KO1敗)を挑戦者に迎え、初防衛戦に臨む。

 鈴木がプロ唯一の黒星を喫したのが宇津木だった。2022年2月、日本同級王座決定戦で2度倒された末に9回TKO負け。「この2年半で自分がどれだけ強くなったのか、答え合わせの試合になるので楽しみ」と笑顔で語る。

 3年前、1階級上のスーパーライト級で日本王者となったが、王座を返上。駿台学園高校時代の主戦場がライト級で、タイトル奪取を果たせなかった階級での戴冠にこだわってきた。2度目のチャンスも引き分けで逃したときは「自分はライト級のベルトは獲れない人間なのか……」と一時は進退を考えるぐらい気持ちが落ち込んだ。

「未来を見て、絶対にチャンピオンになるんだ、じゃなくて、今日1日を頑張ろう、今日1日を頑張ろうの繰り返しだった」。そうしてたどり着いたアルデアとの再戦でついにタイトルを奪取。「日本のベルトも嬉しかったんですけど、(東洋太平洋の)赤いベルトのほうが僕の中では価値が高い。チャンピオンになれたんだという自信がある」と胸を張る。

 鈴木自身が「感性とタイミングで戦ってきた」と言うように瞬間的な爆発力には定評がある。が、アルデアを痛烈に沈めた右の一撃は試合前から思い描いていたもので、イメージを自分の手で形にできたという感覚が確かな手応えになりつつある。「(この自信は)まだ出たばかりの芽。花を咲かせて、もっと色濃いものに育てていきたい」と宇津木への雪辱を期す。

左から小林尚睦トレーナー、宇津木秀、“兄貴”と慕う京口紘人 【写真:ボクシング・ビート】

 昨年4月、宇津木は日本王座3度目の防衛戦で3回KO負け。鈴木との王座決定戦で戴冠して以来、2連続TKO防衛で評価を上昇させていたところで仲里周磨(オキナワ)の強打に屈した。手痛い陥落となったが、「あそこで負けて、よかったのかなと思う」と屈託なく笑う。

 日本チャンピオンというプレッシャーを必要以上に大きくし、自分で自分を追い込んでいたと宇津木は振り返る。

 当時日本1位の仲里に「力の差を見せつけて、さらに上に行けると見せたい気持ちが強かった」という。また周囲から「宇津木はスロースターターで後半に強いと言われるのが嫌で、違う自分を見せたい欲が出た」とも。「絶対に倒す」と力が入り、ボクシングが雑になった。

 今は心に落ち着きがある。プレッシャーから解放されたわけではない。練習に復帰後はパンチで効かされる、倒されることへの恐怖心が少なからずあったと認める。昨年12月の再起戦では「負けられない怖さ」に襲われた。総合力で戦う本来の丁寧なボクシングを徹底して意識した。最終的には「効いたら効いたで、立て直して勝つだけ」と心が定まった。

 鈴木に挑戦するタイトルマッチが決まっても「気負いも、焦りもない」という。負けられない怖さは変わらない。それでも平静な自分がいる。心の部分に自身の成長を実感している宇津木が戒めるのが、完勝と言える内容で勝利した相手に対し、知らず知らず心が緩むことだ。

 恐れず、驕らず、侮らず――。あらためて母校の花咲徳栄高校、平成国際大学ボクシング部の部訓を噛みしめ、いかに「守りに入らずに自分を抑えられるか」をポイントのひとつに挙げる。「(鈴木は)前より確実に強くなってるし、リベンジの気持ちも強いと思いますけど、こいつとは何度やっても勝てないと思わせるように圧勝したい」と意気込む。

 両者は高校、大学時代にも対戦経験があり、1学年上の宇津木が2勝1敗。「勝つのも負けるのもKO」(鈴木)。「どっちが倒すか倒されるか」(宇津木)。挫折を乗り越え、成長してきた実力者同士の“因縁の再戦”は「U-NEXT」でライブ配信される。

群雄割拠の国内ライト級戦線

7月9日、保田克也はWBOアジアパシフィック王座3度目の防衛戦 【写真:ボクシング・ビート】

 7月9日の後楽園ホールではWBOアジアパシフィック・ライト級王者の保田克也(大橋/32歳、13勝8KO1敗)がプレスコ・カルコシア(比/28歳、12勝9KO3敗1分)を迎える。国体優勝経験のある中央大出身のサウスポーは、これが3度目の防衛戦。また宇津木を下した仲里を判定で退け、この4月に日本ライト級王者となった三代大訓(横浜光)の初防衛戦も8月に内定している。保田の中央大学の2学年下の後輩にあたる三代はスーパーフェザー級時代、6戦目で東洋太平洋王者となり、元世界王者の伊藤雅雪を下した実績もある。

 さらに7月18日の後楽園ホールでは「アジア最強ライト級トーナメント」準決勝が行われ、アマチュア通算10冠のサウスポーで日本同級5位の今永虎雅(大橋/24歳、5勝4KO無敗)がマービン・エスクエルド(比/28歳、17勝11KO3敗1分)、日本同級3位で習志野高校、駒澤大学出身の猛ファイター、齊藤陽二(角海老宝石/28歳、7勝7KO3敗2分)がウー・ハンユン(中国/21歳、4勝1KO1敗)と決勝進出をかけて激突する。

 6月17日に1年2カ月ぶりに戦線復帰した元ライト級3冠王者の吉野修一郎(三迫)、保田、鈴木、三代、仲里、宇津木がトップグループを形成、多士済々の国内ライト級だが、ここから先、さらに上への道筋をつけるのが難しいのがこの階級。それは保田が現在の唯一の世界ランカーであり、米国でビッグネームと拳を交えた吉野、中谷正義の立った舞台があくまでも挑戦者決定戦で、世界戦ではなかったところにも表れている。

 直接対決の鈴木と宇津木の今後への希望は分かれる。チャンスがあるなら海外で戦い、海外で評価を高めて世界につなげたいというのが鈴木。「日本を獲り返して、WBOアジアパシフィックを獲って、最終目標の世界に行きたい」とライバル対決も辞さない姿勢を示すのが宇津木。特にアマチュア時代に1勝2敗、元ワタナベジムの同門と親交も因縁も深い三代に対し、「ライバルと思うからこそ、お互いにベルトを持った状況でやりたい」と対戦に意欲を示す。

 ここから国内ライト級戦線がどう動くのか。本格的な夏の到来とともにライト級の戦いが熱を帯びる。保田の防衛戦は「FOD」で、今永、齊藤が出場するアジア最強トーナメントは「Lemino」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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