古典堂安からモダン堂安へ 日本代表10番が見せた「アジア最強」のための進化形

川端暁彦

「意外に器用」な堂安という選択

フライブルクではこの日と同じウイングバックで主にプレー。「自分のポジション」にしている 【Photo by Alex Grimm/Getty Images】

 堂安は所属のフライブルクでもこの右ウイングバックでプレー。「フライブルクでは守備の選手より守備がうまい」と自認するとおり、高い位置からプレッシャーをかけるプレーも得意としており、先のカタールW杯でも見せたようにコンタクトプレーの強さを活かしてボールを奪う術(すべ)にも長ける。

「意外と器用なんですよ」とうそぶく「10番」は、「そこはもうベースというか、最低限のこと」というハードワークも試合を通して継続してみせた。「もしかすると、自分の最適なポジションなのかもしれない」と言うほど、ウイングバックでの出場に手応えを得ている。

 もちろん、同人数で対戦するサッカーの戦術的メリットはデメリットの裏返しにもなる。「堂安タイプ」をウイングバックに置く難しさはこの試合の中でも見え隠れしてはいた。

「相手のサイドハーフの21番が途中から(堂安を)ピン留めしてきた」

 ここで言う「ピン留め」というのは、攻撃の選手が高い位置にポジションを取り続けることで守備の選手のポジショニングを限定する戦術的なプレーのこと。ここではウイングバックの堂安と右CBである冨安の間に立つことで、堂安のポジションが押し下げられる形だった。

「ちょっと5-4-1で守る形になった」と言うように、前半の途中からは逆にクラシックな「ウイングバック」の役割を強いられる時間帯も出てきていた。こうなると「ロングボールへの対応とかになると自分の弱みも出る」と堂安が認めるように、「サイドバック」としての守備の質を求められると、また難しさもある。

「勘違いしちゃいけないのは、この日の相手がそれほど強い相手ではなかったということ」

 他ならぬ堂安が強調したように、ウイングバックに「ウイング」を置く魅惑の布陣が攻撃的に機能する時間帯があったからと言って、「このシステムでいける!」といった単純な話ではないだろう。ただ、例えば右に堂安を置きつつ、左にサイドバックタイプを置いてバランスを取るといったバリエーションもあり得るだろうし、時間帯や戦況、対戦相手によってシステムを使い分けられるのはチームとしての強みになる。

 森保監督が新しい選択肢を手に入れたのは間違いない。

「アジア最強」を目指して

「もう悔しい思いはしたくない」。アジア最終予選へ、油断はない 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 試合後、選手たちに慢心した様子は皆無だった。堂安も彼らしい生きの良いコメントは残しつつ、同時にこうも語っている。

「これで調子に乗っているとアジアカップのときみたいにやられちゃう。その痛さを自分はホントにわかっているし、もう悔しい思いはしたくない」

 9月に始まるアジア最終予選へ向けてテレビのインタビューで「アジア最強を見せつけるために」と豪語していたのも、アジアカップでの屈辱を忘れていないから。日本の10番は新たな進化を示しつつ、勝って兜の緒を締め直していた。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント