中学時代にグローブを吹っ飛ばした仰天エピソードの剛腕ボクサー “ハマのタイソン”田中空がプロデビュー

船橋真二郎

互いを高め合うライバルの存在

2024年4月2日、プロテストを受けた東洋大学同期で横浜光ジムの堀池空希、大橋ジムの田中将吾、田中空 【写真:船橋真二郎】

「自分は打ち合いが得意なので、見ている人が『あいつの試合は面白い』と思ってもらえるような選手になりたい」(空)

「(打ち合いは)リスクもあるけど、打ち合いの中で駆け引きもできるし、リスクを恐れず勝負に行けるところは見ている人を惹きつけると思うので、空のスタイルはプロのほうが生きる」(強士トレーナー)

 親子が口をそろえて「修行」と呼ぶアマチュア時代の通算戦績は67戦58勝(48KO・RSC)9敗。試合に負けて悩んだとき、壁にぶつかって迷ったとき、いつも立ち返ってきたのが将来を見据えたマイク・タイソンのボクシングだった。

 修行の場というだけではなく、東洋大学ではかけがえのない仲間もできた。中退して先にプロデビューした山崎裕生、田中将吾の同門の2人を始め、堀池空希(横浜光)、由良謙神(志成)、宮本陽樹(パンチアウト)、階級の異なる仲のいい同期6人がプロに転向し、誰がいちばん早くチャンピオンになるか、競い合おうと話しているのだという。

 その中でも1階級上のライトミドル級だった堀池とは大学時代、毎日のようにスパーリングをした。「何でもできるテクニシャン」と田中が堀池を評すれば、「接近戦がピカイチの強い選手」と堀池が田中を評する対照的な2人は互いを高め合う関係だった。

「一緒に練習しなくなっただけで、プライベートでは一緒に遊ぶし、変わらず仲はいいですけど、ライバルはライバルなので負けたくない」という堀池の言葉は、彼ら全員の思いを代弁するものであり、「誰がいちばん早くチャンピオンになるか」は互いを高みへと突き動かす合言葉にもなるだろう。

 もうひとり、田中には「意識する」という同い年の“ライバル”がプロにいる。WBOアジアパシフィック・ウェルター級王者で、この5月16日に東洋太平洋同級王座も獲得した佐々木尽(八王子中屋)。すでに何度かスパーリングをしたこともある。

佐々木尽は“ライバル”を歓迎

 一足先に「日本人初のウェルター級世界王者に輝く男」をキャッチフレーズにし、プロの実績では、はるかに先を行く佐々木に田中について尋ねると「実際に手を合わせて、強いし、巧さもあるんですけど、攻めるタイプで、自分と同じ雰囲気を持ってるので面白いなと思います」と拍子抜けするぐらいの笑顔で返ってきた。

 佐々木が本格的にボクシングを始めた中学3年のとき、U-15の大会に出場し、「今、めっちゃ強い子がいる」と聞かされた名前が「田中空」だったという。エントリーした66.0kg級には他に出場選手がいなかったため、佐々木は東日本、全国大会ともに不戦勝の認定優勝で終える。60.0kg級に出場の田中は、わずか31秒で全国優勝を果たすとともに2年続けてMVPにあたる優秀選手賞にも選出された。

 どこかで「自分が初心者の頃から有名だった選手」という意識が残っているようで、「(田中と)比べられるところまで来たのか」と屈託がない。佐々木らしいポジティブな言葉で“ライバル”を歓迎した。

「いちばんの理想ですけど、お互いにウェルター級の世界チャンピオンになって、日本人同士で統一戦をやれたら面白いですよね」

 まずは6月25日。キム・ドンヨン(韓国/29歳、3勝3KO4敗1分)との6回戦で、田中空はどんなパフォーマンスを見せるのか。小学生の頃から関東大学リーグ戦まで、数々の思い出が刻まれてきた後楽園ホールで新たなスタートを切る。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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