シャビ・アロンソ監督は何をどう変えたのか バイエルンの12連覇を阻んだレバークーゼンの強さの秘密

中野吉之伴

違いを生み出してチームのレベルを引き上げるヴィルツ

シャビ・アロンソ監督の下で飛躍的に成長したヴィルツ。天才と称される21歳のアタッキングMFは、躍進レバークーゼンの象徴的存在だ 【Photo by ANP via Getty Images】

 アロンソはオフェンス時におけるスペースの作り方と見つけ方を選手たちに植え付けた。素晴らしいのは、いつ、どこで、どんな時に相手にずれが生じ、ずれが生じたら、いつ、誰が、どこへ動くことで、そのずれを最大限に活かすことができるのかをチームとして共有できていることだ。

 複数の相手選手に斜めの位置取りでスペースを埋められると、そこを通そうとするパスは引っかかるリスクが高くなる。だからそういう時はドリブルで運んで敵を引き出す。また相手選手が並んでポジションを取れば、その後ろのスペースをほぼ必ず誰かが突こうとする。

 それに加えてビルドアップでは、近くの味方を使いながらパスを回しつつ、常にもっと前にいるオフェンスプレーヤーの動きに合わせてクサビのパスを送っていく。それがトリガーとなり、落としのボールを受ける選手、そこからの縦パスを引き出す選手、逆サイドで準備をしておく選手がハイスピードで動き出す。原則ごとのプレービジョンが深いところまで浸透しているので、タイムロスがほとんどない。

 そして、アタッキングサードでの最後の部分で違いを生み出すのがフロリアン・ヴィルツだ。

 ブンデスリーガのトップレベルの選手が、ボールに触ることさえできないほどあらゆるプレーの実行スピードが滑らかで速い。うまいだけではなく、スピードがあり、パワーもある。ドリブルだけではなく、パスがあり、シュートがある。そして自分で持ち運ぶだけではなく、味方を使いスペースを創出することができる。

 アロンソの下でヴィルツの資質はこれまで以上に引き出された。アロンソが作り上げたチームのレベルをさらに引き上げる能力を持った選手と言えるだろう。

アロンソの銅像を作ろうという動きも

クラブ創設120年目のシーズンに、初のリーグ優勝をもたらしたシャビ・アロンソ。早々と続投を表明した指揮官は、この先レバークーゼンをどれほどの高みへと導いていくのか 【Photo by Jörg Schüler/Bayer 04 Leverkusen via Getty Images】

 適材適所と原則の徹底、そして枯渇することのない情熱。言葉にすればなんともシンプルだが、これこそがアロンソ・レバークーゼンの強さの源だ。自身の考えを一切の妥協なくチームに求め続け、そしてチームがそれを一切の疑いもなく追い求め続ける関係性を築き上げたアロンソのマネジメント能力こそ、最大限に評価されるべきものだろう。

 リバープールやバイエルンが次期監督に迎えようと動いていたなか、「私にはまだこのクラブでやるべきことがある」とレバークーゼン残留を表明したことも素晴らしい。ファンはこの決断に泣いた。

 120年というレバークーゼンのクラブ史において、初のリーグ優勝に導いたアロンソの功績を称え、ファンは銅像を作ろうと動いている。本拠地ベイアレーナへと続く道を《シャビ・アロンソ通り》にしようという計画もある。

 優勝しても謙虚で、どんな時もサッカーを愛し、試合に対して誰よりも貪欲。そんなアロンソとともに、これからレバークーゼンがどんな成長を遂げるのか。楽しみでしかない。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)を持つドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成指導キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガはもちろん周辺諸国の現地取材も精力的に行っている。著書として『3年間ホケツだった僕がドイツでサッカー指導者になった話』(理論社)、『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツの育成メソッドに学ぶ サッカー年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。1977年7月27日生まれ、秋田県出身。

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