男子サッカー、五輪ならではの事情 マリとウクライナに見る「メダル候補」の条件

川端暁彦

パリ五輪最終予選前の最後の準備試合、日本は2-0でウクライナに快勝した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

パリ五輪予選前、最後の試合

 パリ五輪を目指すU-23日本代表が3月22日に同マリ代表と、25日に同ウクライナ代表と国際親善試合を実施。それぞれ1-3での敗戦、2-0での勝利という結果に終わった。

――と書かれたところで、あまりピンと来ない方が多いのではないかと思う。

 まず前提として五輪の男子サッカー競技は「U-23(23歳以下)」の競技として開催されるという知識が必要だ。つまり、これは五輪に向けた準備試合なのだが、そもそも男子サッカーのアジア予選はまだ終わっておらず、来月に行われる予定だ。つまり日本視点で言えば、その予選に向けた最終準備試合という位置付けだった。

 一方、マリとウクライナからすると、この試合は「五輪に向けた準備」(U-23ウクライナ代表、ルスラン・ロタン監督)の大会である。これはこの2カ国がそれぞれアフリカと欧州の出場枠をすでに確保しているから。ウクライナは今回の日本遠征に本大会で3人まで起用可能となるオーバーエイジ選手も帯同していた。

 そんな相手との2試合は、五輪出場権を目指す日本にとって貴重な機会だったと言える。勝って自信を得たいタイミングではありつつ、しっかり課題を洗い出したいところでもあっただけに、マリに敗れてウクライナに勝利という流れを含めてポジティブなシリーズだったのは間違いない。

 同時に対戦した2カ国が持つポテンシャルの高さもあらためて実感する機会だった。サッカーの世界では、まだ「強豪国」に分類されていない2チームだとは思うのだが、あらためて「パリ五輪のメダル候補」だと確信できた。

 それは五輪における男子サッカーという競技の特殊性とも関連する部分である。「戦う理由」の問題だ。

マリに思い出す8年前の驚異

U-23マリ代表を率いるバダラ・アル・ディアロ監督 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

 対戦前は「マリってどこ?」みたいな声も聞かれた。確かにアフリカの小国であるというだけでなく、サッカーの世界でも国際的な知名度は今一つだろう。イングランドのプレミアリーグやスペインリーグで活躍する選手もいるものの、特段に多いわけでもない。

 ただ、アンダーエイジにおける近年の躍進は目覚ましい。2015年のU-20W杯では3位、19年のU-20W杯では8強入り、15年のU-17W杯は準優勝、17年のU-17W杯は4位、23年のU-17W杯では3位と、コンスタントに世界大会上位に顔を出してきている。

 個人的に大きなインパクトを受けたのは、2016年のこと。鳥取県で開催されたインターナショナルドリームカップU-16に参加したマリは、圧倒的な強さを披露。FW中村敬斗、MF久保建英、DF菅原由勢、GK谷晃生といった後のA代表選手をズラリと揃えた日本を試合内容で圧倒。「このチームがこんなに何もできないのは初めて」(森山佳郎監督・当時)という衝撃を与えた。

 アフリカ勢を相手にしたときに出てくる常套句である「身体能力」のすごさも確かにあったが、それ以上に印象的だったのは一つの試合、一つのプレーに懸ける情熱の強さ。「生まれて初めて飛行機に乗って、生まれて初めて外国で試合をする選手たち」(ヨナスコク・コムラ監督、当時)が見せる、ひたむきな姿勢自体に、日本の選手たちも「やっぱりハートなんだな、と感じるモノがあった」(菅原)と刺激を受けたものだった。

 マリはアフリカでも最貧国の一つに位置付けられる国で、サッカーは貧困を脱するための「自分と家族を生かすための手段」(コムラ監督)である。100円ショップに彼らを案内した日本人ガイドが「高すぎて買えない」というリアクションを返されたと言えば、何となく彼らの置かれた状況が想像できるかもしれない。逆に言えば、サッカーはその状況を打破できるまさに金脈だった。

 そんな国で「ストリートサッカーで育ってきた選手に集団で戦うことを教えるのが私の仕事」と言うコムラ監督は、何より教育を重視。練習前に国歌斉唱するなど、「国」というものを意識せずに育ってきた子どもたちに「どれだけ代表のユニフォームのために汗をかけるのか」を叩き込んでいると語っていた。

 貧しい国であるゆえにトップリーグの環境には問題があり、育成からトップに選手を繋げるのが難しさは感じている様子だった。また、プロになった選手たちが、その反動でハングリーさを失ってしまうことも多いと言い、「だからこそ教育が大事」とも強調していた。

 今回来日したU-23マリ代表は当時と年齢は一つ違いなのだが、そうした環境で育ってきたという意味では共通しているだろう。では、ハングリーではなくなっていた? タフではなくなった? いや、そんなことはまるでなく、8年前と同じく日本チームに強烈なレッスンを与えてくれた。

 ストリートサッカーの匂いを感じさせる確かな技術と、パワフルでサイズも十分の肉体、そしてプレーする情熱を感じさせてくれるプレーぶり。試合後、日本のチームスタッフの1人が「マリみたいなチームとやれて良かったです。本当に」という言葉を漏らしていたように、「五輪でメダルを狙うチームの最低ライン」のようなものを日本に提示してくれることとなった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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