男子サッカー、五輪ならではの事情 マリとウクライナに見る「メダル候補」の条件

川端暁彦

戦禍の中で来日したウクライナ

球際で激しく競り合う松木玖生(右)とウクライナのシュリアンスキー 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 続く第2戦の相手はウクライナ。この国の現状について詳細な説明は要らないだろう。ロシアの侵攻を受け、いまも戦火の中にある国だ。

 国内サッカーの活動も大幅な制限を受けざるを得ず、代表チームの練習も国外で行われているという。ただ、「だからこそ全員で最大限の努力をしている」(ロタン監督)チームでもある。

 試合前日の会見でロタン監督は「まず日本国民の皆様に、ウクライナ国民を代表し、これまで大変な支持、援助をいただいていることについて感謝を述べたい」と切り出した。「国の代表」としての発言である。日本にいるとどうも鈍感になりがちだが、ナショナルチームが世界でどう位置付けられるものなのかをあらためて考えさせる言葉でもある。

「われわれは戦争の中にあります。その中で選手自身が最大限努力しようと頑張って五輪の出場権も手にしました。これはウクライナという国や国民にとって、とても大事なことでした。五輪という舞台で素晴らしいプレーをして、より良い結果を残すことで、戦禍にある国民を励ますことができる。そのための努力を尽くしたい」(ロタン監督)

 男子サッカーの欧州の五輪出場枠はわずか「4」。そのうちの1枠は開催国フランスのものなので、「3」のうちの「1」を戦争の最中に行われた大会でつかみ取った形だった。

 五輪本大会は欧州のシーズン開幕直前である7月に行われ、男子サッカーに関しては各国協会に選手招集の権限がない。このため、日本を含めた各国は「一つ一つのクラブと話し合っていくしかない」(山本昌邦ナショナルチームダイレクター)。マリもウクライナも今回の来日メンバーはベストではないのだが、それは男子サッカーの「五輪代表」では標準的な現象にすぎない。

 逆に言えば、そういうチーム編成の中でも結果を出せるような選手層なりモチベーションなりを持つチームが結果を出す大会と言えるだろう。例外となるのは開催国と、スペインのような国内法によって五輪への選手招集権利がある国くらい。その意味で、代表チームへの情熱という基盤のあるマリとウクライナはやはり「候補」だと思うわけだ。

問われるのは、培ってきた「厚み」

U-23日本代表、ウクライナ戦の先発メンバー 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本も4月に開幕するAFC U23アジアカップ(パリ五輪アジア最終予選)に欧州でプレーする選手はほとんど招集できない。A代表に選ばれている久保やGK鈴木彩艶はもちろん、この世代の代表でプレーしてきたFW小田裕太郎、福田師王、MF鈴木唯人、斎藤光毅、三戸舜介、福井太智、佐野航大、DFチェイスアンリといった、いち早く欧州に出て行った選手たちの多くは選外となっている。仮に予選を突破して本大会に出たとしても、自由に選考できるわけではない。これは一部例外を除き、各国共通の事情である。

 もちろん、こうした事態に備えて元より準備をしてきたという経緯もある。「セカンドチーム」と揶揄(やゆ)された昨年10月に行われたアジア競技大会のメンバーがこの3月のメンバーに多く含まれているのも偶然ではない。

 2戦目で先発したDF関根大輝(柏レイソル)のように代表歴が浅い中で「目処が立った」と感じさせるパフォーマンスを示した選手もいる。チームとしての準備はどうしても不十分になるかもしれないが、それは結局、欧州でプレーする選手を多数抱える国に共通する事情である。

 来たるアジア予選、あらためて日本サッカーの培ってきた選手層の厚み、そして五輪という大会への情熱が問われることになるだろう。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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