【インタビュー】競争を勝ち抜き「絶対的守護神」へ! エスコン9回のマウンドには田中正義が立つ

前田恵

昨季、FA移籍の人的補償として北海道日本ハムに移籍した田中正義は守護神として25セーブを挙げるなど新天地で飛躍を遂げた 【写真は共同】

 2023年、新本拠地・エスコンフィールドHOKKAIDO開業の年に、北海道日本ハムファイターズへ移籍。4月末、クローザーに転じると、水を得た魚のようにマウンドで躍動した。4月26日のプロ初セーブも、5月7日のプロ初勝利も、舞台はエスコンフィールド。スタンドの大声援を味方に、今季も“正義執行”のマウンドに上がる。(取材日:3月6日)

「この景色を見るために、投げ続けたい」

――初めてエスコンフィールドに入ったときの印象は覚えていますか?

 あのグラウンドに初めて足を踏み入れたときの感動は、今も忘れられません。メジャーリーグのスタジアムを手掛けている方が設計したと聞いてはいましたが、まさに自分がテレビ中継で見ていたメジャーのスタジアムそのもの。ブルペンから直に試合を見ることができる点もいいなと思いました。日本の球場はだいたい、ブルペンが室内にありますから。それに、ロッカールーム。広いし全体的な雰囲気が、とにかくいいんですよ。食事会場となるサロンに仮眠室、温泉とサウナ付きのお風呂……どのスペースも文句の付け所がないというか、逆に贅沢しすぎなんじゃないかという気持ちになりました。

――仮眠室まであるんですね!

 リクライニング・チェアが数台、置いてあるんですよ。僕は試合前、仮眠室で少し一人になる時間を作ることもあります。ロッカーだとみんなが着替えなどでしょっちゅう出入りしますが、仮眠室はそこまで出入りが激しくないので、音楽を聴きながら気持ちを高めるのにもってこい。あとはストレッチルームも同じ目的で試合前に使っています。どちらも自分にとっては、試合前の準備をするのにありがたい場所です。

――昨季、4月26日のオリックス戦で初セーブを挙げ、エスコンフィールドで初のお立ち台に上がりましたね。嬉し涙と共に、フィールドを見渡して「最高の景色」とおっしゃいました。どんな景色が見えていたのでしょう?

 2万人近いお客さんに囲まれ、みんなに祝福してもらえた。チームの勝利をあれだけ多くのみなさんと分かち合える空間には、誰もが人生でそうそう巡り合えるものではないと思うんです。あまりに嬉しく、あまりに光栄で、「またこの景色を見るために、一軍で投げ続けていきたい」と思えた場面でした。

伝説クローザーの登場演出にあこがれて

クローザーへの熱い胸の内を語ってくれた田中正義は、今季もエスコンフィールドのマウンドでの躍動を誓う 【写真:山下隼】

――エスコンフィールドで応援するファンに、今季はどんなところを見てもらいたいですか?

 リリーバーとしてマウンドに上がるからには、一番後ろで投げたいと思っています。今季はブルペン内の競争も激しいですが、なんとか勝ち抜いて、最後の、勝利の瞬間にマウンドにいられるように。僕が試合の最後を締める姿をお見せできるよう、頑張りたいと思います。

――昨季、9回に田中投手が登場すると、エスコンフィールドの大型ビジョンに「JUSTICE」「田中正義」とクローザームービーが流されましたね。あれはどんな気持ちで見ていましたか?

 (NPBでもMLBでも)歴代のクローザーたちに対する演出を見ていたときは、まさか自分がこんなふうにムービーを流してもらえる選手になれるとは思っていなかったので、とても嬉しかったですね。同時に「絶対、勝ちで終わらせないといけない」と、より気が引き締まる感覚もありました。ずっとあのムービーを流してもらえるような活躍をしていきたいです。

――それまで、どんな演出にあこがれていた?

 サファテ(元福岡ソフトバンク)の、「THE KING OF CLOSER」の演出ですね。『The King Is Coming』という登場曲も、めちゃくちゃカッコよかったです。彼のように絶対的な存在になれるようにと思っています。

理想の守護神に求められること

ブルペンでの投げ込みを終えた田中正義。その後のインタビューからも、開幕に向けて順調な仕上がりがうかがえた 【写真:山下隼】

――理想の“守護神”像は? そのために田中投手がすべきことはなんでしょうか。

 空振りを取れる率が高いことは、リリーバーとして非常に大切な要素だと思っています。なるべく多く空振りが取れる、相手打者のバットに当てさせない球を投げるのがベスト。そのためにはストレートが軸になるのは間違いないので、ストレートの強さや質を高めていきながら、決め球のフォークも磨いていきたいですね。フォークはキャンプ、オープン戦とだんだん良くなってきているので、あとは試合でしっかり空振りを取れるようなクオリティーを目指します。

――クローザーとして心身にわたり、いつもどんな準備をしていますか?

 離脱しないこと、そのためにもケガをしないことが一番大切だと思いますので、そのための準備をしています。昨季、建山(義紀=投手)コーチから「無事是名馬」の言葉をいただき、まさにそれだなと思いました。マウンドに上がれば成功することも失敗することもありますが、離脱さえしなければ失敗を次に生かし、自分をより成長させることができる。もっと野球がうまくなれると思うんです。でもケガをしてマウンドに上がれなければ、その機会すら失ってしまう。とにかく心身とも元気に、継続してマウンドに上がり続けることを第一に考えています。

――まだまだ野球がうまくなれる。その伸びしろをご自身の中に感じている?

 伸びしろはあると思っています。日々、「ここをもっと、こうできれば」と考えながら練習をしていますから。少しでも自分の力を伸ばして、伸びしろがほぼない状態で引退できたら最高だなと思いますね。そのためにも練習を継続してマウンドに上がっていきたいです。僕が常に意識しているのは、将棋の羽生善治さんの「才能とは、努力を継続できる力」という言葉。失敗すると、どうしてもやめたくなることがある。それでも一日一歩でもいいから、前に進み続けていきたいと思っています。

田中正義の“推し”チームメートは?

山本拓実:昨季途中に中日からトレードで移籍すると、主に中継ぎとして26試合に登板し、防御率1.50と存在感を示した 【写真は共同】

――最後に田中投手から、今季のイチオシ・チームメートを教えてください。

 僕はそんな偉そうなことを言える立場ではないんですが、山本拓実投手を推したいですね。投げるボールの素晴らしさはもちろん、練習量も非常に多く、それこそ継続してトレーニングや技術練習を行っている。その「継続力」には、いつも感心させられています。それが167cmという身長でも、プロの世界で活躍できる要因なのだと思います。

(構成:株式会社スリーライト)
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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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