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遠藤航、「世界最高峰のNO.6」の証明! デ・ブライネを潰し、至高の舞台で見せた存在感

森昌利

遠藤とマック・アリスターのダブルボランチを敵将ペップも称賛

遠藤との実質的なダブルボランチとして機能し、攻守両面で存在感を示したマック・アリスター(右)。後半5分には同点に持ち込むPKを冷静に決めた 【写真:ロイター/アフロ】

 試合開始直後はリズムが噛み合わず、マンチェスター・Cにボールを支配され、チャンスを作られたが、徐々にテンポが上がり、リバプールらしい攻撃を見せ始めた。

 いかにも練習していましたという感じで、前半23分にデ・ブライネのコーナーキックを起点にして、ニアに飛び込んだ元エヴァートン選手のジョン・ストーンズが右足で押し込み、マンチェスター・Cが先制点を奪った。しかし主将のフィルジル・ファン・ダイクが試合後、「前半の半ば過ぎくらいから、試合を楽しめるようになった」と話したように、先制点を奪われたことで逆に開き直ったのか、この後はリバプールがのしかかるように優勢になった。

 愉快だったのは、試合前にキーンとリチャーズが揃って「不安だ」と言った若手選手が全く怖気付いたところを見せず、エネルギー満点のパフォーマンスを見せたこと。そして「たった4回しかプレーしていない中盤」と言われたリバプールのMF3人が素晴らしい連係を見せたことだった。

 特に、この試合の後半にダブルボランチ気味にプレーした遠藤とマック・アリスターの2人が際立って良かった。驚いたのは敵将のペップ・グアルディオラがこの2人を名指しで褒めたことだった。

「相手には遠藤、そしてマック・アリスターというボールを失うことなくクオリティの高いパスを供給する選手が2人いて、以前よりトランゼッション(攻守の切り替え)が早くなり、よりダイレクトな攻めをしてくるようになっていた」

 その通り。さすがペップ、分かっている。前節のノッティンガム・フォレスト戦でも遠藤、マック・アリスターのダブルボランチが良かったと記したが、今季リバプールに加入した2人のMFは、マック・アリスターがNO.6を務めることで守りの幅を広げ、遠藤はこのアグレッシブなチームに移籍してきたことで攻めの幅を広げた。

 そしてその2人が中盤でタッグを組むことで、異様に守備範囲が広く、しかも攻撃の起点となる危険なダブルボランチが誕生したのである。

 後半、韋駄天のダルウィン・ヌニェスが敵センターバックのナタン・アケの中途半端なバックパスに襲いかかるように飛び出し、GKエデルソンの反則を誘ってPKを奪い同点に追いついてからは、完全にリバプール優勢の試合になった。

 その中心にいたのが、遠藤とマック・アリスターだった。2人がマンチェスター・Cの攻撃陣を止め、ボール奪い、そこからすかさず反撃のパスを繰り出した。

 遠藤は現在プレミアで随一のボランチと評されるスペイン代表ロドリと五分以上に渡り合った。そして試合後に論議の的にもなった後半24分でのデ・ブライネの交代も、いわば遠藤とマック・アリスターの壁を破れなかったことが原因だった。

 さらに遠藤と最終ラインの守りの連係も素晴らしかった。「ワタルと一緒に守りをオーガナイズした」とファン・ダイクが語ったことでも、日本代表主将の重要性が伝わってきた。

遠藤はいったいどこまで上り詰めるのか

遠藤は世界中が注視するビッグマッチで自身の実力を見せつけた。30歳を過ぎても進化が止まらないMFは、いまや世界トップクラスのNO.6と言っていい 【写真:ロイター/アフロ】

 リバプールがマンチェスター・Cを凌駕したことは、後半の試合データを見れば一目瞭然だ。マンチェスター・Cを相手に53%のポゼッションを記録したことも異例なら、シュート数はリバプールの12対3、ペナルティエリア内でのタッチ数がリバプールの21対8。さらにクロスの供給数もホームチームが19対3と完全に圧倒した。

 こうなると、試合前にマンチェスター・Cの優勢を予言したキーンも「特に後半、リバプールのパフォーマンスが良かった」と話すしかなかった。ただし「ディアスのミス(後半18分、カウンターからの決定機でシュートを外し、逆転のチャンスをふいにした)はシーズン終了後に悔やまれることになるかもしれない」と付け加え、そこはアンチ・リバプールたる真骨頂を見せつけていた。

 1-1の引き分けだったが、試合後の両監督の表情は明らかに勝者と敗者に分かれていた。クロップ監督は「後半はシティとの対戦で我々のベストパフォーマンスだった。あんなに苦しんだシティは見たことがなかった」と話して、3連覇中の王者を明らかな劣勢に追い込んだことに自信を漲らせていた。

 一方のグアルディオラ監督は、試合終盤のダグアウトで怒り心頭のデ・ブライネをたしなめたシーンについて聞かれ、「次の試合で私が間違っていたことを証明するチャンスがある」と語ったが、エースを潰された試合に苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 この結果、リバプールは前日の試合で暫定首位に立ったアーセナルと勝ち点64で並んだが、得失点差で7点上回るアーセナルが、“暫定”が取れて首位を堅持した。この状況をクロップ監督は笑みを浮かべて、「The most important information is we are right there. We go the distance(最も重要な情報は、我々が優勝争いのど真ん中にいるということ。我々は最後の最後まで戦い抜くだけだ)」と語ると、最後のリバプール・シーズンをとことん楽しむという心境を垣間見せた。

 さて、最後に我らの遠藤だが、この地球上最大のクラブサッカーのリーグ戦に先発フル出場したということだけでも偉業だというのに、ここでさらに存在感を見せつけた。

 ちなみに筆者が好むBBCの視聴者投票の採点でも、ディアス7.6、ケレハー7.58に続くチーム第3位の7.55をマークした。同点弾となったPKを決めたマック・アリスターの7.42をも上回っていた。

 確かに一般のファンの投票なので、人気にも左右されるかもしれないが、それなら遠藤の人気はマック・アリスターをしのぐことになる。

 いったい、この日本男児はどこまで上り詰めるのだろう? 現在、欧州5大リーグの中で最も資金力があり、競争が最も苛烈なリーグであり、世界で最もテレビ観戦されるリーグでもあるプレミアリーグで、首位を争うリバプールとマンチェスター・Cの一戦のピッチに先発として立ち、敵将に褒め称えられるプレーをして90分フル出場を果たした。

 確かに遅咲きの大輪だ。しかし今、この試合でこの存在感を示したことで、遠藤航が世界でも超一流のNO.6であると証明されたのは間違いないことである。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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