ファームに新規参加 新潟&静岡が描く未来構想

「三度目の正直」に賭けるオイシックスのサブマリン 奇跡の飛躍を経てドラフト指名なるか?

中島大輔

オイシックスに加入して飛躍的な成長を遂げた下川隼佑。NPB入りに向けて今季はさらなる成長を誓う 【写真:球団提供】

 今季からイースタン・リーグに参加するオイシックス新潟アルビレックスBCのドラフト候補で、最も注目を集める一人がアンダースローの下川隼佑だ。昨季はBCリーグで26試合に投げてチーム最多の11勝。大学までまったくの無名投手だったが、自ら「奇跡」と言うほど飛躍を遂げた。下川はどんなポテンシャルを秘めているのか。そして今秋のドラフトで、三度目の正直で指名を受けるにはどんな上積みが必要なのだろうか。

“上から投げる”アンダースロー

下川隼佑の武器は最速137km/hのストレート。どんな意識で投げているのだろうか? 【写真:球団提供】

 昨季のBCリーグでは26試合に登板して11勝1敗、防御率2.38。

 2023年秋のドラフト会議を前に下川隼佑は抜群の成績を残しただけに、2年連続の指名漏れという現実を橋上秀樹監督も簡単には受け止められなかった。

「正直何が足りなかったのか、はっきりわからないところです。言い方は悪いですけど、育成なら獲っておいて損はないかなと思っていました。大化けする可能性もあるので」

 最大の魅力は希少性の高いアンダースロー。下手投げ独特の浮き上がるような軌道からストレートは最速137km/hを計測する。

 原石として、磨けば光る可能性を秘めている。だが、まだNPBの即戦力とは言えない。それが現時点の橋上監督の見立てだ。

「評価できるのはまだストレートだけなんですよ。アンダースローで130km/hを超えるとNPBの一軍でも通用する球威になります。昨年の下川はアベレージでも130km/hを超えていたので、可能性は十分にある。あとは変化球。ここが伸びしろの部分ですね」

 数多くいるドラフト候補のなかで、下川のキャリアは独特だ。横浜で生まれ育ち、小学生になる少し前から野球を始めた。中学生では内野手だったが、ゴロもろくに捕れないから試合にはなかなか出られない。湘南工科大学附属高校に進み、投手になればチャンスがあるかもしれないと転向した。

「体も小さかったので、何か特徴があれば可能性はあるかなと思ってアンダースローにしました」

 誕生日は3月22日という早生まれで、現在176cmの身長は高校に入ってから大きく伸びた。卒業後は指定校推薦で神奈川工科大学に進んだが、「1イニングを抑えられるどうかもわからないくらいで、ピッチングもままならないような感じでした」。

 4年生の春になって神奈川大学リーグで初登板を果たしたが、その前に大きな転機があった。今ではメジャーリーガーやNPBのトップ選手、ドラフト候補も通うほど手腕が評判の「DIMENSIONING」の北川雄介トレーナーをYouTubeで知り、セッションを受けにいった。

「もっと上から投げなよ」

 初めて訪れた際、そうかけられたアドバイスが自分を変えたと下川は言う。

「アンダースローで投げなきゃという考えが自分の中に無意識であって。今も気を抜くと、どんどん下がっていっちゃうんですけど。でも腕を強く振れる位置で投げないと、球が弱くなってしまうので」

 トップから腕を振り下ろすくらいの感覚でリリースに持っていけば、腕の長い下川には遠心力がうまく働き、力がロスなく伝わるはずだ。北川トレーナーはそう考えて「もっと上から投げなよ」と伝えると、リリースポイントが地上15cm以下の適度なアンダースローになった。下川自身は、「自分の感覚的にはすごく上から投げているけど、出所はちゃんとアンダースローの位置だった」と振り返る。

きっかけを与えた野間口貴彦コーチの言葉

野間口貴彦コーチとの縁について話す下川隼佑 【写真:スリーライト】

 球速が上がって4年春に神奈川大学リーグでデビューを飾ったものの、目立った活躍はできなかった。大学限りで野球をやめることも頭をよぎったが、やっぱり続けたいと思い直し、「野球を続けられるところを探してください」と神奈川工科大の監督に頼んだ。そうして縁をつないでもらったのが、当時BCリーグに所属していた新潟アルビレックス・ベースボール・クラブだった。

 独立リーグの大きなメリットは、試合数が多いことだ。単純に比較すると、大学のリーグ戦は年間30試合に満たないが、独立リーグは70試合近くある。下川は新潟に入団して1年目から21試合に登板し、「試合で投げることで慣れていきました」。4勝6敗、防御率4.72、73奪三振はリーグ5位で、アンダースローという希少性もあって徐々に注目され始めた。

 入団2年目の飛躍を目指し、シーズンオフから「どうやったら強い球が行くか」と模索した。2023年春になってオープン戦、そして公式戦が始まっても「冬場はこうやったら良かったんだけど」と考えすぎて、思うような投球ができなかった。

 そんな折に救ってくれたのが、チーム強化アドバイザー兼投手コーチの野間口貴彦だった。じつは、下川を新潟に導いてくれたのは野間口コーチだった。大学時代、他の選手の視察で訪れていた際、神奈川工科大の監督が下川の存在を知らせてくれたことが入団に至る発端となった。

「もっとテンポを上げて投げてみれば」

 2023年4月、野間口コーチにもらったアドバイスをきっかけに下川は波に乗った。

「野間口さんに言われてテンポを上げて投げると、無駄な考えがなくなりました。細かいコントロールが上がったというより、安定してストライクをとれるようになったという感覚です。フォアボールが減ったことで1イニングにかける球数が減り、自分優位に試合を運ぶことができるようになりました」

 ピッチクロックの導入で余計なことを考えずに済むという投手がいるように、下川はストライクゾーンで積極的に攻めていけるようになった。結果、改善されたのが与四球だ。1年目は87回2/3で28個だったのが、2年目は106回で19に減少した。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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