なでしこジャパン、現時点での「五輪金メダル」までの距離は? 最終予選を通じて得た収穫と課題
北川に救われた左サイドだが手薄感は……
第2戦ではケガの遠藤に代わって追加招集された北川が、左サイドを活性化した。ただし、日本の生命線でもあるサイドには、さらなる人材の台頭が必要だ 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
これまでのように多くをキャプテンに委ねるのではなく、厳しい戦いを経験して選手個々がたくましく成長し、互いに助け合える関係性へと確実に変化した。この先、熊谷があらゆる感情や批判を1人で背負い込むことはもうないだろう。なでしこジャパンは、また新たなフェーズへと一歩踏み出したのだ。
一方、最終予選では課題も残った。その最たるものは、やはりケガによって宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)と遠藤純(エンジェル・シティFC)を欠いた左サイドだ。初戦では4バックを採用したこともあり、守備に定評のある古賀塔子(フェイエノールト)をほぼぶっつけ本番で左サイドバックに据えた。左ウイングには、こちらもセンターフォワードが本職の植木理子(ウェストハム・ユナイテッド)を配置。彼女たちも懸命にこなしてはいたが、左サイドの停滞感は否めなかった。
日本のサイド攻撃は好不調のバロメーターである。3バックが採用された第2戦では、遠藤に代わって追加招集された北川ひかる(INAC神戸レオネッサ)が左ウイングバックに抜擢された。1月の皇后杯でも左サイドを何度も駆け上がり、得点にも絡むなど調子の良さをアピールしていた北川は、その負けん気の強さを前面に、大一番にも怯むことなく序盤から持ち味を発揮した。
左サイドが活性化された恩恵は右サイドにも及び、両翼が機能したことで、日本の攻守のバランスは保たれたと言っていい。
ただ、今回は北川に救われたが、左サイドの戦力が手薄なのは明らかだ。生命線であるサイドからのビルドアップが滞れば、タレント揃いの中盤も生かしにくい。第2戦の後半にはそれまで右で起用されていた清家貴子(三菱重工浦和レッズレディース)が左に入る時間帯もあったが、やはり本職と呼べる左サイドアタッカーが不可欠で、少なくとも3枚は揃えておきたい。足首を骨折した宮澤の回復具合を見極めつつ、本番(7月25日開幕)までの残り5カ月でさらなる人材の台頭が求められる。
3バックの成熟と4バックの質の向上
W杯優勝国のスペインなど強敵がひしめくパリ五輪。W杯ではそのスペインに宮澤(右)のゴールで勝利した日本だが、メダル獲得のためには質の向上が不可欠だ 【写真は共同】
昨年のW杯の出場国が「32」だったのに対し、五輪の出場枠は「12」。ヨーロッパ王者のイングランドや、W杯の準々決勝で日本を破り、3位に入ったスウェーデンが出場権を逃していることからも、近年女子サッカー全体のレベルが急激に上がっていることは明らかだ。出場を決めた国々は軒並みFIFAランク上位国で、どんなグループに組み込まれても、決勝トーナメントに勝ち上がるのは容易ではない。
現時点で優勝候補を挙げるなら、意外にも今回が五輪初出場ながら、昨年のW杯を制してFIFAランク1位に躍り出たスペイン、女子サッカー界の盟主の座に返り咲きを狙う強豪アメリカ、東京五輪で初の金メダルに輝いたカナダ、そして開催国フランスあたりだろうか。W杯でそのハイインテンシティのサッカーを評価された日本も、もうワンランク上へとチーム力を高めることができれば、メダルに手が届く可能性は十分にある。
そのためには、おそらくベースとなる3バックを成熟させること、そして強力なオプションとして機能するところまで4バックのクオリティを引き上げる作業が必要となる。4月(7日と10日)にアメリカで行われる『SheBelieves Cup』で、池田監督がどこにテコ入れの重点を置いて試合に臨むのか、そのあたりにも注目したい。
池田監督が「金メダル獲得を目指す」と公言するパリ五輪の本番まで、あと5カ月──。予定されている2回の海外遠征(4月1日~11日、5月27日~6月6日)と、約2週間の大会直前キャンプを通じて、どこまで戦力を積み上げられるかで、メダルまでの距離は決まってきそうだ。
(企画・編集/YOJI-GEN)