南国・宮崎での“オリックス・フィーバー” 多くのファンを前に改めて感じる「勝つこと」の大切さ

三和直樹

大勢のファンが宮崎でのオリックスキャンプに訪れ、2月11日は過去最多の3万人近い人であふれた 【写真は共同】

春季キャンプで合計24万人超が来場

 近頃、宮崎における“勢力図”が変わったという。球春到来から1カ月、プロ野球の各球団が着々と新シーズン開幕へ向けた準備を進める中、現地でひとつのニュースになっていたのが“オリックス・フィーバー”だった。

 キャンプ地を沖縄・宮古島から宮崎・清武総合運動公園に移したのが、2015年のこと。そこから今年がちょうど10年目。2月1日のキャンプインから第1クールは生憎の雨模様だったが、6日の第2クールからは天候にも恵まれた中で大勢のファンが訪れ、10日からの3連休は計7万1196人が来場。11日は宮崎キャンプ過去最多となる2万9196人が訪れたという。

 その直後に宮崎の地を訪れた筆者も、以前とは異なる“空気感”を感じることができた。宮崎市内から車で30分弱。コロナ禍以前の繁華街“ニシタチ”ではほとんど見かけることがなかったオリックスのユニフォーム姿のカップルを横目にタクシーに乗り込むと、宮崎弁を話す年配の運転手も「最近はオリックスの人気がすげぇんですよ。オリックスファンのお客さんをいっぺ乗せるんじゃ」と語る。

 宮崎市では、巨人、ソフトバンク、オリックスの3球団がキャンプを張っている中、九州全体が地元のソフトバンクの人気は不変とは言え、タクシーの運転手曰く「今は巨人よりオリックス」と言うのだ。

「ファンの方が堂々とユニフォームを着てくれている」

ファンたちは“推し”のユニフォームに袖を通してキャンプの雰囲気を楽しんでいた 【写真:筆者提供】

 その“前評判”通り、到着した清武総合運動公園には、練習開始の10時を待たずに小雨が降る中でも多くのファンが“入り待ち”していた。感覚的には「以前の土日が、今年の平日」。キャンプ用に特設された球場正面のバファローズタウンには時間を追うごとにファンが増え、天候の回復とともにグッズショップやフードコーナーには人だかりができ、実に活気にあふれていた。

 気温15度を超える中、オリックスのユニフォームを思い思いのコーディネートに織り込むファンたち。大阪から1泊2日で訪れたファン歴10年の男性は「今年で4回目ですね。毎年来られている訳じゃないですけど、年々、ファンの数が増えているのはすごく実感しますね」とうなずき、「オリックスはどんどん新しい選手が出てくるのでキャンプでも見どころがたくさんある。選手との距離感も近いのがいい」と語る。偶然、球場から飛んできたファウルボールをワンバウンドで素手キャッチ。球団職員から特製シールと交換してもらうと「いい記念になりました」と笑みを浮かべた。

 宮崎を訪れる方法は、空路に加えて神戸港発着の宮崎カーフェリーで行く『春季キャンプ応援見学プラン』なども用意されているが、中には福岡から車で駆け付けたファンもいる。東晃平と紅林弘太郎のユニフォームを着た20代の女性2人組は、「昨日の夜10時に出て、高速を使わずに8時間かけて来ました」と照れ笑い。キャンプ地限定の『バファローズガチャ』で“当たり”を引いて大喜びするとともに「オリックスはイケメンの選手が多いんですよ!」と自慢気に話す。

 この活況を、現役引退後の2014年から広報部(現広報宣伝部)に所属する町豪将さんも喜ぶ。

「ファンの数は明らかに増えていますし、女性のファンが多くなりましたね。何より、ユニフォームを着てキャンプに来てくれる方が年々増えているのがうれしい。宮崎市内でもユニフォーム姿のファンを見かけるようになりましたし、ファンの方が堂々とオリックスのユニフォームを着てくれているのがうれしいですね」

選手とファンの“いい距離間”

練習後、ファンからのサインに応じる平野佳寿。「遠いところから来てくれているので」と頭を下げる 【写真:筆者提供】

 山岡泰輔や山崎颯一郎ら、所属する選手のキャラクターはもちろんあるが、女性ファンの取り込み、増加に関しては球団としての売り込み方も“うまかった”と言える。

 成績低迷が続いた中、「カープ女子」から始まったフィーバーに「オリ姫」のネーミングで流れに乗り、ペナントレース中には「オリ姫デー」と銘打ったイベントを開催。そこで「オリ姫が選ぶバファローズの推しメン」を投票で選ぶ「オリメンランキング」も実施。女性ウケするグッズも多く作り、親しみやすさをアピール。アイドルのコンサートのような京セラドーム大阪での“ライブ感”の演出にも取り組み、ファンの数は急激に伸びた。

 選手も協力的だ。キャンプ期間中は主力選手による即席のサイン会を何度も実施してファンサービスに励んだ。他球団でも行っていることだが、頻繁に、選手が自主的に、しかも約1時間もペンを走らせる姿はそうそうない。また、キャンプ敷地内にはメイン球場から第2球場、室内練習場、ブルペンが近い距離にまとまっていることも“密着感”を高め、柵によって選手用の通路が設けられてはいるが、その垣根を越えて、選手たちは気軽に記念撮影やサインに応じている。その柵の作り方に関しても「選手の方からファンが並びやすいようにして欲しいとの要望があった」(町広報)という。

 今年の3月8日に40歳となるベテラン・平野佳寿は言う。

「やっぱり以前のキャンプ地の雰囲気とは全然違いますね。ファンの方が多く来てくれているのは一目瞭然ですし、平日でもたくさんの方に来てもらえているのは選手として本当にありがたい。遠いところから来てくれいる方もいると聞くので、そういう方のお土産として、僕たちがサインをして、喜んでくれたらうれしいですね」

 選手たちはコロナ禍を経験したことで、ファンの大切さも再認識している。それはファンの方も同じ。選手とファンの“いい距離間”が、宮崎での“オリックス・フィーバー”を支えているのだろう。

「やっぱり勝つことが一番。勝つことで注目度が上がる」

ファンの願いは日本一奪回。オリックスの黄金時代は続くのだろうか 【写真:筆者提供】

 だが、“フィーバー”と銘打たれたものには必ず“終わり”が訪れる。宮崎まで来訪するファン増加の起因がオリックスのリーグ3連覇であることは明らかであり、「勝っているからこそ」の盛り上がりであるとも言える。

 それは現場の球団スタッフも重々承知している。「選手、スタッフも含めて勝てなかった時期を知っていますからね」と町広報。そして「結局は“勝つことが一番”というところがある。優勝する前もいろいろとファンを増やす工夫や取り組みはしていましたけど、負けている時だと“そんなことしてないで練習しろ!”って言われますから。ただ、もちろん勝つことが一番ですけど、広報としては勝てない時でもファンが離れてしまわないようにしたい」と続ける。

「チームが勝てなくても応援してくれるファン」は非常に重要だが、プロ球団が目指すべきは“勝利”であり、それがファンへの最大の“恩返し”である。平野は「みんなが頑張って、強いチームになったからこそ、多くのファンがキャンプに来てくれるようになった」との言葉に続けて、「勝つこと」の大切さを説く。

「やっぱり勝つことが一番。勝つことで注目度が上がる。そうしたら露出も増えて、ファンの方にも好きな選手が見つけてもらえて、その選手にサインをもらうためにキャンプにも来てくれるようになるんじゃないかと思う。だから僕たち選手ができることは、まずは勝つこと。そして今年も優勝することだと思います。僕自身も結果を出して、もっともっと盛り上げていけたらと思います」

 オリックスには2004年の球団再編の渦の中で近鉄と統合した過去がある。その“事件”によって、心が離れたファンがいたことも確かだ。しかし、あれから20年が経過し、リーグ3連覇を果たした中で、球団への印象は大きく変わった。

「近鉄とオリックスが統合した球団ということではなく、新しい球団になったという実感は持っています。昔から応援してくれている方にはいろんな想いがあるとは思いますけど、それも踏まえて、また新しいチームとして応援してもらえたらうれしいですね」(町広報)

 セ・リーグでは巨人のV9(1965~73年)以来、パ・リーグでは黄金時代の西武の5連覇(1990~94年)を最後に、4連覇を果たしたチームはない。果たして、オリックスは新たな黄金時代を高らかに宣言できるのか。宮崎でのフィーバーを謳歌しながらも、浮足立つことなく、勝って兜の緒を締めて新シーズンに向かうオリックスを、頼もしく思う。
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著者プロフィール

1979年1月1日生まれ。大阪府出身。学生時代からサッカー&近鉄ファン一筋。大学卒業後、スポーツ紙記者として、野球、サッカーを中心に、ラグビー、マラソンなど様々な競技を取材。野球専門誌『Baseball Times』の編集兼ライターを経て、現在はフリーランスとして、プロ野球、高校野球、サッカーなど幅広く執筆している。

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