24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

町田は躍進の可能性も!? 柏や湘南は意地を見せたい キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【後編】

青山知雄

東京Vは若さと野心による伸びしろに期待

千葉から東京V に加入した見木(左)は、J1初挑戦。他にもJ1でのプレーが初めての選手が多く、楽しみでもあり、未知数でもある 【(C)J.LEAGUE】

──ここからは皆さんがCクラスに予想した4クラブについて。北から順に見ていきましょう。まずは柏レイソルです。

飯尾 やっぱり昨シーズン、下位に低迷して、17位でギリギリ残留したわけですけど、それなのにストーブリーグの動きが芳しくなかった。中心選手の椎橋慧也(→名古屋)が移籍して、後半戦の活躍で残留の立役者となった山田康太(→G大阪)もチームを去って、代わりに獲得したのが、J1経験の浅い選手たちばかり。白井永地(←徳島ヴォルティス)は柏のアカデミー出身で、J2で実績を積んで古巣に帰還するストーリーはすごくアツいんですけど、J1でどれだけやれるかは未知数なところがある。17位に沈んだ名門が今オフにすべきは大幅な戦力アップだと思うので、大丈夫なのかなと思ってしまって。

 柏って僕からすると、日立台のスタジアムはすごく見やすいし、柏熱地帯のサポーターの作り出す雰囲気とか、そもそもの予算規模とか、魅力がたくさんあるクラブだと思うんですよ。でも、毎年のように主力選手やアカデミー出身者が出ていってしまうし、こうして移籍マーケットで苦戦している現状を見ると、選手にとっては魅力やビジョンが感じられなくなっているのかな、選んでもらえなくなっているのかなって。すごくもったいないなと。

河治 ちばぎんカップを見ていて思ったのは、オーバースペックなサッカーをやろうとしてしまっているなと。自陣からしっかりビルドアップしていこうとしていたんですけど、千葉にハメられていた。お互いに非公開練習が多くて、ほぼ初見な状況なのに、それでも千葉に上回られて、なかなかボールを前に運べない。そこで引っ掛けられてカウンターを食らうシーンが見られた。昨年の天皇杯のときのように、割り切って守りを固めて、研ぎ澄ませながら狙っていくしか道はないのかなと。つなぐスタイルをやりたいなら、もっと下地を作らなければいけないし、そういう選手を集めないと難しい。現状では、少ないチャンスを細谷真大が決めるような形を徹底するしかないのかなと。

 新加入の木下康介(←京都サンガF.C.)はボールを収められるタイプではないし、ちばぎんカップでも実際に基準点にはなれていなかった。千葉にやられたことを受けて(千葉が2-1で勝利)、開幕戦に向けてどれだけチューニングできるかですよね。柏が生き残るためには、今は背伸びをしないほうがいいと思います。背伸びをするなら覚悟を持ってやるしかないですけど、それにはチーム設計が足りていない。その事実をちばぎんカップで千葉に突きつけられた。ちばぎんカップの結果は当てにならないと言われますけど、内容でここまでやられることってなかなかない。Cクラスを抜け出すためには、自分たちの現状を知って戦うことが大事かなと。あとは夏の移籍期間でブーストをかけられるかどうかですね。

舩木 僕も印象としては河治さんと一緒ですね。昨シーズンのチーム総得点が33で、そのうちの14点が細谷。でも、そのエースは夏に海外移籍してしまうかもしれないわけですよね。

飯尾 4月にはパリ五輪アジア最終予選で約1か月近く、チームを離れる可能性があるわけだしね。

舩木 そうなんですよ。細谷をどれだけ起用できるか分からない。新たに獲得したセンターフォワードの木下はJ1での実績に乏しい。残留したフロートは昨シーズン1点しか取れていない。課題だった攻撃力をどうにかしないといけないのに、大丈夫なのかなと。結局、攻め手がなくなって、マテウス・サヴィオ頼みになることが予想されるんですけど、すでに彼に掛かる負担はすごく大きくなっていて、千葉も当然のように彼を潰しにきた。激しく削ってイライラさせられた結果、マテウス・サヴィオが徐々に良さを出せなくなっていく可能性もありますよね。だから、今シーズンの柏は方向性が心配です。

──では、16年ぶりのJ1に臨む東京ヴェルディはいかがでしょう?

河治 現時点での戦力値を考えたんですけど、バランスの悪さでは柏が一番下だと思う一方、“サカつく”みたいに足し算的にチーム総合力を考えると、ヴェルディが一番低いと思っています。ただ、城福浩監督の引き上げる力って、磐田の横内さんにも通じるものがあるんですけど、やっぱり監督力はすごくある。例えば、新戦力は大半が成長枠なんですよね。見木友哉(←千葉)は計算できる戦力ですけど、山田楓喜(←京都)や山見大登(←G大阪)とか、そうした選手たちに新しい気づきを与え、成長を促していく可能性がある。もともと育成畑の指導者だったこともあるけれど、昨年はシーズンを通してチームが成長していた。現状ではCクラスですけど、そのなかで残留以上の成績を残すことができたら、ヴェルディの歴史が先につながっていくと思います。

舩木 全体の印象は若いチームだなと。J1で100試合以上の経験を持っているのは宮原和也だけ。50試合を超えているのも袴田裕太郎(←大宮アルディージャ)しかいない。個の力で勝負するのは難しいと思うので、チームの総合力で勝負するしかないんですけど、その総合力はおそらくJ1の中で下から5番目までに入ってくると思います。現状ではかなり厳しい戦いになるのは否めないですけど、若い選手は多いし、野心もあってすごくアグレッシブなチームなので、J1の舞台に慣れていく過程で、チーム全体が大きく底上げされる可能性はあるかなと思います。

飯尾 僕は河治さんが言うほど戦力的に厳しいとは思っていないんですけど、それはキャンプで城福さんと強化部長の江尻篤彦さんにじっくり話を聞かせてもらって、なるほどと思ったことが多かったから、すでにひいき目で見ているのかも(笑)。宮原もそうだし、新加入の翁長聖(←町田)もかなりいいサイドバックだと思いますね。昨シーズンは町田で主戦の左サイドバックでしたし。あと、未知数の不安があるなかで、森田晃樹、見木友哉、齋藤功佑で組む中盤のちょっとしたワクワク感がある(笑)。

舩木 夢がありますよね。

河治 分かる、分かる(笑)。

飯尾 とにかく若いチームで、ようやくJ1でやれるという喜びを強く感じながらのシーズンになると思います。後ろからつなぐサッカーにトライしながら、チーム全体でハードワークできる。開幕からマリノス、浦和、セレッソの順で対戦するんですよ。これは正直、苦しい。ただそのあとは、新潟、京都、湘南、柏と続いていく。最初の3連戦で9ポイント中、3ポイントくらい拾って、J1でやれる手応えと自信を掴めたら、その先の4試合につながっていくのではないかと。平均年齢はJ1で一番若いし、舩木くんが言ったようにJ1経験者も少ないけど、J1に慣れてきたときの伸びしろは大きいと思いますね。

舩木 GKのマテウスはひょっとしたらJ1でも上位に入るような実力者ですしね。後ろに信頼できる守護神がいるのは、若いチームにとって本当に心強いと思います。

河治 そうそう。外国籍選手はマテウスだけだけど、彼のセーブはSNSで「残念そこはマテウス」っていうハッシュタグが相当はやりましたからね。

山口監督、曺監督による継続性の強みを出せるか

京都に加わったブラジル人FWのマルコ・トゥーリオ。得点源だけでなく、原や豊川を活かす存在としても期待がかかる 【(C)J.LEAGUE】

──残るは、湘南ベルマーレと京都サンガF.Cです。

飯尾 湘南に関しては、昨シーズンの新体制発表会見を取材したんですね。そのとき、山口智監督と坂本紘司GMが目標順位を5位だと宣言したんですね。それもいわゆる目標といった感じではなく、話を聞いた限り、継続性と補強に相当の自信を持っていて、本気も本気という感じで。でも、結局は残留争いに巻き込まれてしまった。これはかなりの見誤りだと思うんです。もちろん、勝負の世界なので、思い描いた通りにいかないことは多々あるんですけど、なぜ、見誤ってしまったのか。それをどう修正して今シーズンに活かすのか、補強と編成を見る限りではあまり感じませんでした。

 チーム得点王の大橋祐紀(→広島)と、以前キャプテンを務めた生え抜き中の生え抜きの石原広教(→浦和)が移籍してしまった。戦力としては間違いなくダウンで、柏ほどではないものの戦力アップはできていない印象です。あと、近年の成績も踏まえてCクラス予想にしましたけど、平岡大陽、田中聡、鈴木章斗、石井久継といったポテンシャルの高い若いタレントもいますし、より魅力的なチームになる可能性を十分秘めていると思います。そういう意味でも、就任4年目の山口智監督の真価が問われると思います。22年の鳥栖や去年の新潟のように躍進できるかどうかは、智さんの手腕に依るところが大きいかなと。

舩木 前線に福岡からルキアンを取りましたけど、セレッソのレオ・セアラのようにJ1で毎年コンスタントに二桁得点をマークするような選手ではないんですよね。補強ではないですけど、レンタル加入だったキム・ミンテと奥野耕平が残留したのは大きいですが、そもそも近年ずっと残留争いをしてきたチームなので、昨シーズンよりもジャンプアップするイメージが持てませんでした。

河治 湘南は坂本さんが強い胆力で、監督と一蓮托生の覚悟を感じます。智さんは理想が高く、ハードワークという軸は変わらずにあるんだけど、それも強みというより最低限だと。クオリティを高めていくことにトライしながら、相手よりも一歩でも早く、少しでも正確に攻撃を構築して攻め切りたい。ただ、今やろうとしているサッカーを突き詰めるんだったら、もっとクオリティを上げないと正直、相手に食われるというか。

 本当にやばくなったとき、頑張って粘って跳ね返す、みたいな形になっていて、結局、ゴールを割れてしまっている。昨シーズンの開幕戦では鳥栖に大勝ちして、「俺たち、行けるんじゃないか」となったところに落とし穴があったかなと。大量得点で勝つのは理想だけど、そうならない試合のほうが日常だと想定してやっていかないと。理想と現実をしっかり見つつ。

 あとは智さんが去年と比べて戦力アップしていると考えているのかどうか。既存戦力の成長もそうですけど、新戦力で言うなら、右ウイングバックに入るであろう鈴木雄斗(←磐田)は、石原ほど守備強度がないぶん、得点に絡む能力は高いです。ルキアンとは磐田で一緒にやっていたので、その関係性でどんなプラスをもたらせるのか。鈴木雄斗はそんなにクロスがうまいタイプではないし、ルキアンも高さで圧倒するターゲットマンではなく、幅広く動きながらポイントで入ってくるタイプ。少し近い距離感で、鈴木雄斗とルキアンで合ってきたらもしかしたら、そこの麻雀のコンビ打ちじゃないけど、そういうのはできるかもしれないなってちょっと楽しみですけどね。

――では最後、京都についてはどうですか?

河治 京都に関してはネガティブな要素がそんなにないんですよ。ただ、チーム体力を考えると、Bクラスに入っているチームよりも推せる要素が少ないというのが正直なところ。補強の部分では、守備面で鈴木義宜(←清水)を獲得できたのが大きい。清水で絶対的存在だったディフェンスリーダーですから。これで守備の安定は期待できるので、攻撃陣はより前向きにアクセルを踏めるようになって、川崎颯太や金子大毅が頑張って、結果的にゴールが増えるような形になればいいですね。強調して推せる要素が少ないので、他チームとの比較でCクラスにさせてもらいました。

舩木 新戦力としては、曺貴裁監督のことをよく知っている鈴木冬一(←ローザンヌ)と宮本優太(←浦和)のふたりが入ってきた。これは監督にとっても、再起を図るふたりにとっても、良かったのではないかと思います。ただ、井上黎生人(→浦和)やパトリック(→名古屋)、木下(→柏)といった、昨シーズン多くの試合に出ていた選手がチームを離れ、彼らの穴を明確に埋めるような補強は鈴木冬一だけ。マルコ・トゥーリオ(←セントラルコースト)は年々地盤沈下しているオーストラリアのAリーグでやっていた選手なので、そこまでJリーグで活躍できる予感がしないんですよね。

 そうしたなかで原大智は昨年から京都でプレーしていますけど、半年しか在籍していないので新戦力のようなものですし、さらに迫力を出せたら大化けする可能性は十分にありそうですよね。豊川雄太も昨シーズンはキャリアハイの10ゴールをマークし、パフォーマンスが良かった。マリノスが昨シーズンの最終節で京都にボコボコにされているのでCクラスにするのはどうかなと思ったんですけど(苦笑)。ク・ソンユンが完全移籍になったのもプラスですけど、僕としてはCクラスの上位かなと。そこから上に食い込んでいくような下剋上は難しいかなと思っています。

飯尾 僕も河治さんと近くて、ネガティブな要素はあまりないけれど、自信を持ってAクラスやBクラスに推せる理由もちょっと見当たらなかったですね。井上黎生人以外の主力の放出がなかったのは大きいですけど、戦力を大きく上積みできたわけでもない。原大智と豊川雄太をより輝かせるために、センターフォワードの選手に誰を起用するのか。山崎凌吾でいくのか、マルコ・トゥーリオがハマるのか、そこは大きな焦点だと思います。

 曺さんのサッカーって、湘南ベルマーレ時代もそうでしたけど、選手を選ぶところがあるじゃないですか。素直で、愚直で、頑張れて、闘えてっていう。だから、それにハマらない選手は、ヴェルディに移籍した山田楓喜なんかがそうだと思うんですけど、他クラブなら輝けそうでも、なかなか起用されない。逆にハマる選手は重用されるから、教え子が集まってくる。金子大毅、三竿雄斗、松田天馬、山﨑凌吾、武富孝介(現・甲府)……今年で言うと、鈴木冬一や宮本優太。イズムを知っている選手を集めるのは悪いことではないですけど、大きな化学反応も起きにくいというか、既視感のあるチームになってしまうというか。もちろん、曺さんは毎年のようにヨーロッパのサッカーを勉強して、新しい刺激をチームに持ち込んでいるんですけど、どうしても似たような選手たちの集団になりがちで、安定した力は発揮できても、上位へと顔を出せない要因になっているのかなと思うんです。なので、しっかり残留してくると思いますけど、Cクラスに予想しました。

(企画・編集/YOJI-GEN)

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

飯尾篤史(いいお・あつし)

明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、『週刊サッカーダイジェスト』編集部に配属。2012年からフリーランスに転身。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

舩木渉(ふなき・わたる)

大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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著者プロフィール

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、2017年から2023年までDAZNで各種コンテンツ制作に従事。現在はフリーランスとしてJリーグ、日本代表を継続取材している。

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