「らしさ」を出せず引き分けた町田のJ1開幕戦 谷晃生が古巣・G大阪を相手に苦しみつつ得たもの

大島和人

町田はGK谷晃生が古巣相手に奮闘した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 初のJ1に挑むFC町田ゼルビアは、2月24日に町田GIONスタジアムでガンバ大阪との開幕戦に臨んだ。前半は優勢に試合を運び、相手のハンドで得たPKを17分に鈴木準弥が決めて先制。しかし60分に退場者を出してからは防戦一方となり、84分に失点して1-1で試合を終えている。

 町田が運に恵まれない試合だった。先発を予想されていた主将のセンターバック(CB)昌子源が、負傷により大事を取って欠場。背番号10を背負うFWナ・サンホも前半23分に膝を痛めて交代を強いられた。そもそもエースのエリキは長く戦列から離れている。退場者が出て数的不利を追い込まれたことも、アクシデントといえばアクシデントだ。とはいえ「もどかしいプレー」「もったいないプレー」が、勝負どころで出てしまった印象も否めない。

不用意だった退場劇と失点

 前半のPK獲得は平河悠が左サイドを突破し、クロスからハンドを誘ったことから生まれた。その後も前半の町田は相手の手薄な守備を突いて平河や林幸多郎が左サイドを破り、エリア内に3人目、4人目が走り込む厚みのある「形」を何度も作り出していた。

 しかしそれを得点につなげられなかった。クロスの狙いどころ、走り込むタイミングなどに「ズレ」があるとゴールは生まれない。前半にあれだけの決定機を作りながら、PKの1得点にとどまった理由はそこにある。

 60分には仙頭啓矢が2枚目のイエローカードを受けて退場になった。2人が寄せて奪い切り、速攻につなげようとした中で「偶発的に足が上がってしまった」流れだったが、警告を覚悟して止めに行くほどの局面ではなかった。彼が既に警告を受けていたことを踏まえれば、不用意だった。

 仙頭とボランチを組む柴戸海はこのような反省を述べる。

「啓くん(仙頭啓矢)がイエローをもらっていたことも含めて考えれば、もう少し自分がボールへアタックに行かなければいけなかったかなと思いました。僕自身もチームも、そこを未然に防ぐ危機管理能力もこのリーグを戦っていく上では必要になります」

 G大阪の同点弾となった宇佐美貴史の直接FKは文字通りスーパーゴールだった。黒田剛監督はこう振り返る。

「J1、J2という差はやはりここかなと感じました。あの1本中の1本を、あれだけの精度で決めてくる宇佐美選手はやはりさすがです。映像で見ても、壁がどうこうというのはなかったと思いますが、その上をいってくる彼のキックには称賛を送るべきだと思います」

試合を救ったGK谷晃生

町田は60分に仙頭啓矢が退場に 【写真は共同】

 もっともその直前のファウルは不用意だった。宇佐美がDFラインの手前でパスを受け、1タッチ2タッチと運んでいく場面だった。町田は一番危険なスペースを閉められず、センターバックも間合いを詰められなかった。そうなったらもうファウルで止めるしかない。せめて守備陣がチャレンジ&カバーの関係を作れれば、そこまで危険な状況にはならなかっただろう。

 そんなもどかしい試合を救ったのがGK谷晃生だった。黒田監督は振り返る。

「谷が頑張ってくれて、危ないところも救ってくれた。退場者も出ながらも1対1で引き分けて、勝ち点1を取れたことを今はポジティブに捉えて、来週の名古屋戦に向けてしっかり準備をしたい」

 23歳の谷はジュニアユースからのG大阪育ちで、今季は町田に期限付き移籍(レンタル)で加わっている。2020年からの3シーズンは湘南ベルマーレで活躍を見せ、2021年夏の東京オリンピックでもベスト4入りに大きく貢献している。しかしG大阪に復帰した昨季は出番を失い、シーズン半ばで移籍したベルギーのクラブでも本領を発揮できなかった。

ガンバサポーターを背にしのいだ後半

 期限付き移籍は一般的に、移籍元との対戦における「出場制限条項」の付くケースが多い。そのような中で谷の強い希望もあり、今季のG大阪戦は出場が可能になっていた。その谷が後半、劣勢の中でビッグセーブを連発した。宇佐美にFKを沈められ、91分には遅延行為で警告を受けるなど「ほろ苦さ」もある町田デビューだったが、マン・オブ・ザ・マッチを両チームから選ぶなら彼だろう。

 谷はこう試合を振り返る。

「特別な90分間でした。結果的に1-1という結果で、申し訳ない気持ちはあります。失点してしまったので悔しい気持ちもありますけど、ただあれは宇佐美くんを褒めるしかないと思います。遅延行為という形になってしまい、あとでガンバの選手には謝りました。でも自分にとっては特別な90分でした」

 後半は青黒の「圧」を感じながらのプレーだった。

「ユニフォームを背負っている選手たちもそうですけど、後ろにいるサポーターに何とも言えない威圧感があって、敵に回すと嫌だなと今日はすごく感じました。それも含めて、開幕戦をすごくいい雰囲気でできたかなと思います」

 ビッグセーブの連発についてはこう口にしていた。

「あんなに時間を稼いで、負けられないですよね。それだけです」

 リードしている、もしくは同点でも劣勢の時間帯に「賢く時間を使う」こともサッカーの一部だ。とはいえカードを受けてしまえば自分が損をするわけだし、古巣を相手に後ろめたさがなかったはずはない。ただ谷はそんな状況で手を尽くし、最少失点で切り抜けた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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