「らしさ」を出せず引き分けた町田のJ1開幕戦 谷晃生が古巣・G大阪を相手に苦しみつつ得たもの
町田はGK谷晃生が古巣相手に奮闘した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
町田が運に恵まれない試合だった。先発を予想されていた主将のセンターバック(CB)昌子源が、負傷により大事を取って欠場。背番号10を背負うFWナ・サンホも前半23分に膝を痛めて交代を強いられた。そもそもエースのエリキは長く戦列から離れている。退場者が出て数的不利を追い込まれたことも、アクシデントといえばアクシデントだ。とはいえ「もどかしいプレー」「もったいないプレー」が、勝負どころで出てしまった印象も否めない。
不用意だった退場劇と失点
しかしそれを得点につなげられなかった。クロスの狙いどころ、走り込むタイミングなどに「ズレ」があるとゴールは生まれない。前半にあれだけの決定機を作りながら、PKの1得点にとどまった理由はそこにある。
60分には仙頭啓矢が2枚目のイエローカードを受けて退場になった。2人が寄せて奪い切り、速攻につなげようとした中で「偶発的に足が上がってしまった」流れだったが、警告を覚悟して止めに行くほどの局面ではなかった。彼が既に警告を受けていたことを踏まえれば、不用意だった。
仙頭とボランチを組む柴戸海はこのような反省を述べる。
「啓くん(仙頭啓矢)がイエローをもらっていたことも含めて考えれば、もう少し自分がボールへアタックに行かなければいけなかったかなと思いました。僕自身もチームも、そこを未然に防ぐ危機管理能力もこのリーグを戦っていく上では必要になります」
G大阪の同点弾となった宇佐美貴史の直接FKは文字通りスーパーゴールだった。黒田剛監督はこう振り返る。
「J1、J2という差はやはりここかなと感じました。あの1本中の1本を、あれだけの精度で決めてくる宇佐美選手はやはりさすがです。映像で見ても、壁がどうこうというのはなかったと思いますが、その上をいってくる彼のキックには称賛を送るべきだと思います」
試合を救ったGK谷晃生
町田は60分に仙頭啓矢が退場に 【写真は共同】
そんなもどかしい試合を救ったのがGK谷晃生だった。黒田監督は振り返る。
「谷が頑張ってくれて、危ないところも救ってくれた。退場者も出ながらも1対1で引き分けて、勝ち点1を取れたことを今はポジティブに捉えて、来週の名古屋戦に向けてしっかり準備をしたい」
23歳の谷はジュニアユースからのG大阪育ちで、今季は町田に期限付き移籍(レンタル)で加わっている。2020年からの3シーズンは湘南ベルマーレで活躍を見せ、2021年夏の東京オリンピックでもベスト4入りに大きく貢献している。しかしG大阪に復帰した昨季は出番を失い、シーズン半ばで移籍したベルギーのクラブでも本領を発揮できなかった。
ガンバサポーターを背にしのいだ後半
谷はこう試合を振り返る。
「特別な90分間でした。結果的に1-1という結果で、申し訳ない気持ちはあります。失点してしまったので悔しい気持ちもありますけど、ただあれは宇佐美くんを褒めるしかないと思います。遅延行為という形になってしまい、あとでガンバの選手には謝りました。でも自分にとっては特別な90分でした」
後半は青黒の「圧」を感じながらのプレーだった。
「ユニフォームを背負っている選手たちもそうですけど、後ろにいるサポーターに何とも言えない威圧感があって、敵に回すと嫌だなと今日はすごく感じました。それも含めて、開幕戦をすごくいい雰囲気でできたかなと思います」
ビッグセーブの連発についてはこう口にしていた。
「あんなに時間を稼いで、負けられないですよね。それだけです」
リードしている、もしくは同点でも劣勢の時間帯に「賢く時間を使う」こともサッカーの一部だ。とはいえカードを受けてしまえば自分が損をするわけだし、古巣を相手に後ろめたさがなかったはずはない。ただ谷はそんな状況で手を尽くし、最少失点で切り抜けた。