「らしさ」を出せず引き分けた町田のJ1開幕戦 谷晃生が古巣・G大阪を相手に苦しみつつ得たもの

大島和人

宇佐美が後輩に送った称賛

宇佐美のFKは壁を越えてゴール左上隅に刺さった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 谷の強みはまずシュートストップだ。190センチというサイズの利もある一方で、反応がとにかく鋭い。G大阪戦は重心をギリギリまで維持して、腕が届かないコースを「足」で止める場面も複数回あった。こぼれ球を「相手がいない方向」に弾き返す冷静な状況判断も際立っていた。

 谷は言う。

「キャッチするのか弾くのか、そこの判断は意識して日頃から取り組んでいます。ラストプレーで自分が弾いたシーンもありましたけど、相手が来ているのを見て弾く位置の判断を、自分は日頃から意識してやっている。それを1シーズン通してやり続ければいいかなと思います」

 CBイブラヒム・ドレシェヴィッチは谷の働きについてこう述べる。

「本当に最高の『トップ・トップ』の選手だと思います。相手のチャンスを潰して、我々のゲームを救ってくれた」

 宇佐美もG大阪ユースの8年後輩に賛辞を送っていた。

「オーラがあるし、余裕もある。あの年齢にしては恐ろしいほど落ち着いているキーパーです。途中から時間をうまく稼ぎながら、それをパフォーマンス的にやることで、もう今日は勝ち点1でいいよと伝える意図もあったと思う。年齢の割にそういうことのできるキーパーだし、リスペクトすべき選手です」

重なる谷と町田の「伸びしろ」「ハングリーさ」

谷も町田も「成長」は必要だ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 谷は町田についてこのような印象を口にする。

「本当に怖いもの知らずな、愚直にやれる選手が多いですね。今日の試合を見てもらっても、レッドが出てしまうシーンはありましたけれど『すごく走るな』『本当に身体を張るな』というところは伝わったと思います。逆にそういうものをやらない方が目立つチームです」

 今後の抱負についてはこう述べていた。

「勝ち点1をもたらしたか勝ち点2を落としたというのはそれぞれの捉え方ですけど、こういうアクシデントもあっても自分たちはしっかり勝利、勝ち点3という結果で示さなければいけません。それぐらいタフなチームにならないと、上にはいけません。自分が試合に出る限りは上位で戦いたいですし、今日に関しては最低限です」

 町田はJ1初昇格の新興チームで、G大阪はJ1を過去に2度制した名門だ。そういう立ち位置を考えれば、退場者が出るまでは試合を支配した展開と、1-1という結果は「善戦」と評価できるのかもしれない。ただし去年の町田を知るファン・サポーターから見れば、この開幕戦は不完全燃焼の感が強い、「勝ち点2を落とした」試合だろう。

 よく走る、切り替えやカバーリングでサボらないといった部分は今さら指摘するまでもない黒田ゼルビアの特徴だ。一方で不必要なカードを避ける、危険な位置でファウルをしないとった緻密さが揃って、初めて町田が「町田らしい戦い」をしたことになる。開幕直後のチームが未完成なのはどこも同様とはいえ、このチームは発展途上で、よく言えば「伸びしろ」がある。

 何より開幕戦で谷が残した印象は鮮烈だった。サポーターもチームメイトも、この男にならば町田の守護神を任せられるという確信は得たはずだ。古巣のサポーターからはブーイングも浴びたに違いないが、「相手に嫌がられる」ことはGKにとって勲章でもある。挫折を経験しつつもがきながら上を目指す23歳と、町田というハングリーで活気のあるクラブは、きっと最高のめぐり合わせだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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