24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

2024年シーズンのJ1戦術傾向を読み解く 「王道型」と「覇道型」のせめぎ合い

西部謙司

シーズンの幕開けを告げる2月17日のスーパーカップでは、「王道型」の川崎Fと「覇道型」の代表格である神戸が激突した。今季のJ1で各チームはどんなサッカーを見せてくれるのか 【(C)J.LEAGUE】

 2024年のJ1で優勝争いに加わってきそうなチームは、それぞれどんなサッカーを実践するのか。またそれ以外に、戦術的に注目すべきチームはどこか。近年のリーグ全体の潮流も整理しながら、今季のJ1でどのような戦術傾向が表れそうか探っていく。

高強度サッカーがボール保持型より優位になってきた

 近年の戦術的な転機は2019年。アンジェ・ポステコグルー監督に率いられた横浜F・マリノスが優勝し、ここからJ1は「強度」をより重視するようになった。

 その前の2シーズンを連覇していたのは川崎フロンターレ。圧倒的な「技術」が決め手だった。川崎Fほど上手い選手を揃えられない他チームの中には、「上手い選手は値段が高いけれども、走れる選手はそうでもない。走る選手を集めて対抗しよう」という方針を採るところもあった。しかし、横浜FM戴冠後は「上手い選手が走る」が当たり前になっていく。

 川崎Fと横浜FMは1ステージ制に戻ってからの6年間、タイトルを分け合ってきた。2強のプレースタイルは圧倒的なボール支配によって相手陣内に押し込み、押し込むことで高い位置からの守備が機能して早期のボール奪回ができるという、世界的にもリーグ優勝するチームにほぼ共通している、いわば王道型だった。

 昨季、王道の2強からヴィッセル神戸がチャンピオンの座を奪っている。

 こちらはあえて対比させれば覇道型。早いタイミングでの攻め込み、それに続くハイプレスが軸。大迫勇也、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳といった欧州経験のあるフィジカルの強い選手たちによる高強度サッカーだった。神戸だけでなく近年のJ1は年々強度が増していて、ボール保持型のチームより優位を占めるようになってきた。

 この傾向は多くのチームにとっては朗報だろう。ボールを保持する力がなくても、走力とハイプレスで勝機を見いだせるかもしれないからだ。6年にわたる2強時代は終了、J1は新たな局面に入っている。

「60分問題」を解決する神戸の強みとは?

神戸は高精度のロングパスを飛ばす「発射台」の数が多い上に、そのボールを前線で収め、味方が攻め上がる時間を作れる大迫、武藤の存在がなにより大きい 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 ここで昨季の順位表を見てみよう。興味深いのは高強度ハイプレス特化型のチームが12位以下に並んでいる。北海道コンサドーレ札幌(12位)、京都サンガF.C.(13位)、サガン鳥栖(14位)、湘南ベルマーレ(15位)。いずれもハイプレスの威力を存分に発揮してきた印象の4チームなのだが、上位には食い込めていないのだ。

 ハイプレスにはかなり致命的な弱点がある。どういうわけか古今東西、およそ60分までしかもたない。前半30分まで、後半は15分まで。つまりハイプレスの威力があるのは試合時間の半分ほどにすぎない。

 相手陣内のプレッシングは、中盤でのそれと比べると守備範囲が広い。CB(センターバック)がハーフウェイライン付近までしか上げられないので、カバーすべき縦の長さが10メートルほど長くなるからだ。強度が落ちて拡散してしまうと、ディフェンスラインが高いぶん、まともにカウンターを食らいやすい。前へ行ってから自陣へ戻るとなると体力も使う。強度のあるハイプレスは有効だが、少し強度が落ちたとたんリスクの高い守備になるわけだ。

 この「60分問題」を解決するには90分間強度を維持するか、少なくとも試合時間の半分を賄う別の戦い方を持つ必要がありそうである。

 5人交代制が定着しているので強度維持の望みはある。ただ、夏場の気候を考えるとそれだけでシーズンを乗り切るのはあまり現実的ではない。

 2024年も強度重視の傾向は続くと思われるが、それだけで万事上手くいくわけでなく、各チームが強度低下時のリスクをどうコントロールするかは戦術的な見どころである。

 優勝した神戸はどうやって「60分問題」を解決していたのか。

 ボール保持率は高くない。低くはないが平均ぎりぎり。つなごうともしていない。元来、ハイプレスはポゼッションで押し込めるがゆえに有効な守備戦術だったのだが、ボールと人さえ相手陣内へ送り込んでしまえばハイプレスの条件は作れるという発想の転換を示したのが、ユルゲン・クロップ監督が率いていた時期のボルシア・ドルトムントだった。神戸はこの方式。ロングボールを送り、押し込み、ゲーゲン・プレッシング(カウンター・プレッシング)を発動させた。

 これで成立するなら保持率は無用だ。ただ、神戸が前年まで保持率の高いチームだったので強度を補完できたという面もある。「蹴る」ためのポゼッションが容易だった。左足の初瀬亮、本多勇喜、右足の酒井、GK前川黛也も含め、精度の高い長距離パスを軽々と飛ばせる「発射台」の数が多い。ただ、決定的だったのは受け手。人を相手陣内へ送り込めたのは、大迫、武藤のロングパスを収める能力があったからだ。

 優れた受け手の存在は逆に押し込まれて深く引いた場合にも効いていた。クリアボールを反撃につなげられる。ハイプレスの強度が落ちる時間帯でもカウンターができるので「60分問題」をある程度クリアできていたわけだ。

 大迫への依存度が高すぎる感はあったが、今季は宮代大聖を川崎Fから補強。MFには無尽蔵のスタミナを持つ井手口陽介を獲得。プレースタイルは継続、選手層は厚みを増している。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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