2024年シーズンのJ1戦術傾向を読み解く 「王道型」と「覇道型」のせめぎ合い
王道をいく横浜FM。看板の攻撃力は構造的な弱点を補って余りある
ボールを支配し、相手を押し込んで主導権を握り続ける横浜FMのスタイルは健在。アンデルソン・ロペスなど前線のブラジル人トリオを軸とする縦に速い攻撃も、このチームの武器だ 【Photo by Apinya Rittipo/Getty Images】
ヤン・マテウス、アンデルソン・ロペス、エウベルの3トップが強力で、3人の攻め込みだけで得点できる。ポゼッションだけでなく縦へのスピーディーな攻撃は横浜FMの武器となっていて、昨季の63ゴールはリーグ最多だった。
ただし、速い攻め込みは戦列の間延びにつながり、しばしばカウンターを食らって失点もする。横浜FMが抱えている構造的な弱点だが、それを補って余りある攻撃力が看板で魅力でもある。
王道型として完成度の高いチームは長期間トップに君臨し続けるもので、例えばブンデスリーガのバイエルンは11連覇、リーグ1のパリ・サンジェルマンは11シーズンで9回優勝している。ところが、そうしたメガクラブが補強を重ねて強大化していくのとは対照的に、J1の強豪は主力選手を欧州クラブなどに抜かれ続けるため、横浜FMと川崎Fの2強時代はそこまで長期化しなかった。
今年も戦力的には現状維持の域を出ないものの、プレースタイルはすっかり定着しているので基盤は固く、優勝争いをする力は十分だろう。
スカンジナビア化が進む浦和の挑戦
スキッベ監督の下で完成度を高めてきた広島は、覇道型でありながら王道型の要素も持つ。決定力の低さを改善できれば…… 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
満田誠、加藤陸次樹、マルコス・ジュニオールなどアタッカーが強力。早い攻め込みに続くハイプレスという点で近年のJ1を象徴するプレースタイルである。強度だけでなくボール保持のための技術も高く、覇道型でありながら王道型の要素も持っている。その戦法ゆえにカウンターされることもあるが、3バックの佐々木翔、荒木隼人、塩谷司の守備力で対応できる。その点では、チアゴ・マルチンスが抜けてからの横浜FMよりも弱点は少ないといえるかもしれない。
新スタジアムも完成した広島を優勝候補に推す声も多い。ただ、画龍点睛を欠くのが決定力の低さ。ゲームを支配し、ハイプレスで圧倒し、チャンスを量産するわりには得点できないのだ。ここを改善できれば、神戸と横浜FMを凌駕する可能性は秘めている。
昨季のトップ3(神戸、横浜FM、広島)に次ぐ4位の浦和レッズは異例の編成に踏み込んだ。
ペア=マティアス・ヘグモ監督を招聘し、オラ・ソルバッケン、サミュエル・グスタフソンを補強。昨季、鉄壁だったアレクサンダー・ショルツ、マリウス・ホイブラーテンのCBとともにスカンジナビア化した。さらにチアゴ・サンタナ、前田直輝、渡邊凌磨の即戦力も加えている。多くのチームが穴埋め的補強にとどまるなか、勝負をかけた編成だ。
スカンジナビアのサッカーをひと言で表すなら質実剛健。ノルウェー、スウェーデン、デンマークで濃淡あるものの、合理性に裏打ちされたシンプルさ、大柄な選手が多いゆえの力強さは共通している。ある意味、日本とは対極のプレースタイルであり、スカンジナビア色がJリーグとどう融合していくか実験的なチームといえる。
J2から昇格のFC町田ゼルビアも注目だ。いわば覇道中の覇道。堅守とロングボール、ロングスロー、セットプレーが武器で、勝つために無駄を削ぎ落した戦い方をする。その徹底ぶりからアンチ・フットボールと揶揄もされるが、勝負に徹した合理性で際立っている。
Jリーグのチームはボールを大事にする傾向があり、相手の守備の薄いところへボールを動かしていく。良く言えば洗練されたパスワークなのだが、違う見方をすると守備の薄いところとは守備の優先度が低い場所であり、要は空けている場所にすぎない。迂回するだけの攻撃は守備側にとって脅威ではないわけだ。
アジアカップ準々決勝で日本代表がイラン代表のロングボール戦法に屈したのは記憶に新しい。CBを直撃するイランの攻撃は武骨ではあるが脅威になっていた。同様に、町田もコーナーキック、フリーキック、スローインも含めてCBを直撃する攻め方をする。手数は多くないが破壊力があり、CBが壊されてこぼれ球になれば決定機になりうる恐さがある。
浦和以上の大補強を敢行。堅守の要となるGK谷晃生、CBドレシェヴィッチ、昌子源を獲得し、相手CBを直撃するCF(センターフォワード)にオ・セフン。仙頭啓矢、柴戸海の即戦力も加えている。異色の存在としてJリーグを盛り上げてくれそうだ。
(企画・編集/YOJI-GEN)