北京五輪から2年、日本悲願のフィギュア団体メダルが銀に 今なお心に残る坂本の爽快な滑りとワリエワの無残な演技

沢田聡子

北京五輪で表彰台に立った日本チームだが、まだメダルは受け取っていない 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

日本チーム全体でつかみ取った北京五輪団体のメダル

「部屋にメダルを置いておいて、これに恥じないように、しっかり毎日できたらいいなと思います」(坂本花織)

 北京五輪フィギュアスケート団体戦の最終日だった2022年2月7日、日本の3位という結果を受け、チーム最後の滑走者として女子フリーを滑り終えた後に坂本が口にしたコメントである。団体戦に続き行われた個人戦で日本の選手たちの背中を押してくれたはずのメダルが、2年近く経った今も手元に届かない状況を、いったい誰が予想しただろう。

“異常事態”の原因は、カミラ・ワリエワ(ロシア、北京五輪にはROC=ロシアオリンピック委員会の選手として出場)のドーピング問題である。

 北京五輪シーズンにシニアデビューした当時15歳のワリエワは、その頃世界上位を独占していたロシア女子の中でも頭抜けた強さを誇っていた。他の選手の心をくじくことから“絶望”と呼ばれていたワリエワは、個人戦の優勝候補と目されて北京五輪に臨んだ。

 団体戦では前評判通りの演技でROCの優勝に貢献したワリエワだが、その2日後となる2月9日、運命は暗転する。2021年12月に行われたロシア選手権でのドーピング検査で、禁止薬物であるトリメタジジンの陽性反応が出ていた事実が明らかになったのだ。そのため団体戦の結果は暫定となり、中止されたメダル授与式は現在に至るまで行われていない。

 フィギュアスケートの団体戦が初めて行われたのは、2014年ソチ五輪である。ソチ五輪、2018年平昌五輪の両方で5位という成績だった日本にとり、団体戦のメダル獲得は悲願だった。北京五輪の団体戦後、メディアに対応した竹内洋輔フィギュア強化部長は、そこまでの道程を振り返っている。

「(団体戦が)ソチ五輪で正式種目になって以降、大体10年ぐらいかけて連盟でさまざまな事業をやってきたのですが、それがようやくこのメダルに結びついたのではないかなと思っています。このメダルはチームイベントという名前の通り、今回ここで戦っていた選手だけでなく、これまで(代表選手と)競ってきた選手、それを支えてきたコーチ、事務局も含めて、日本チーム全体で助けていただいてつかみ取ったメダルだと思っています」(竹内強化部長)

 日本の強化ポイントとされてきたカップル競技の選手たち(ペア:三浦璃来/木原龍一、アイスダンス:小松原美里/小松原尊)にとっても、大きな意味のあるメダルだった。団体戦後のコメントにも、達成感がうかがわれる。

「少しでも日本の力になればいいとしか思っていなかったので、今すごく驚いています」(三浦)

「本当に過去2大会(木原はソチ五輪、平昌五輪にも出場)のチームメイトに申し訳ない気持ちはすごくあったので、今回ショートは少し力になれなかった部分もあったかもしれないですけれども、フリーを終えて9点とれたのはうれしいですし、この8年間悔しかった思いが少しずつ晴らせたかなと思います」(木原)

「個人的にはメダルなんて全然届かないものだったけれど、チームのみんなのおかげでこういう経験ができていることを光栄に思います」(小松原美里)

 日本チームのメンバーがそれぞれに積んできた努力の結晶であるメダルがいまだに授与されていない状況は、理不尽でしかない。

 北京五輪後も調査を続けていたRUSADA(ロシアアンチドーピング機構)は昨年、ワリエワについて2021年ロシア選手権のみ失格にする処分を科した。WADA(世界アンチドーピング機構)とISU(国際スケート連盟)はこれを不服としてCAS(スポーツ仲裁裁判所)に提訴しており、2年近く経過した今年の1月29日、ようやく裁定が出た。ワリエワはドーピング検査で陽性反応が出た2021年12月25日から4年間の資格停止処分となり、この期間中すべての成績は失格と発表された。

 この決定を受けてISUは30日、北京五輪団体戦の金メダルはアメリカ(暫定順位2位)、銀メダルは日本、銅メダルはROCに授与されると明らかにした(ROCの成績からワリエワの成績のみを取り消した結果による)。事態が前進したことは確かだが、ワリエワには30日以内にスイス連邦最高裁判所に上訴する権利がある。もしワリエワがその権利を行使すれば、日本チームのメンバーがメダルを手にする日はまた遠のくことになる。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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