1.23 【3大マッチ展望】拳四朗、那須川天心のKO競演なるか? ユーリ阿久井は岡山のジム初の世界王者目指す

船橋真二郎

1月23日、大阪初開催となる『Prime Video Presents Live Boxing』に出場する左から与那覇勇気、ユーリ阿久井政悟、寺地拳四朗、那須川天心、辰吉寿以輝 【写真:船橋真二郎】

 初の関西開催となる『Prime Video Presents Live Boxing』の第6弾が1月23日、エディオンアリーナ大阪で行われる。4戦続けてメインを担うWBA・WBC世界ライトフライ級統一王者の寺地拳四朗(BMB)が元WBA同級王者で挑戦者同1位のカルロス・カニサレス(ベネズエラ)を迎える防衛戦、メキシカンの世界ランカーに3戦目で挑む那須川天心(帝拳)のルイス・ロブレスとの8回戦、元日本フライ級王者でWBA世界フライ級1位のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)が6連続防衛中のWBA同級王者アルテム・ダラキアン(ウクライナ)と相対する世界初挑戦に加え、辰吉丈一郎の次男で元日本ランカーの辰吉寿以輝(大阪帝拳)が那須川のボクシング転向初戦の相手を務めた日本バンタム級10位の与那覇勇気(真正)と激突する日本人対決と、今回も豪華なラインアップになった。目前に迫ったビッグイベントを展望する。

世界戦5連続KOで「会場を盛り上げたい」

左から三迫ジム・加藤健太トレーナー、寺地拳四朗、父・寺地永会長 【写真:船橋真二郎】

「今回も元チャンピオンで、日本人に負けていない強い選手。僕がきっちりKOで勝って、会場を盛り上げたい」。京口紘人(ワタナベ)との王座統一戦に始まり、前回の元統一王者ヘッキー・ブドラー(南アフリカ)との防衛戦まで、攻撃色を強めたボクシングで熱戦を繰り広げ、最後はフィニッシュに持ち込んだ。会場を大いに沸かせ、メインイベンターの期待に応えてきた拳四朗が今回もKOで決着をつけ、世界戦5連続KOを果たすのか。

 2016年の大晦日、23歳で初来日したカニサレスは東京でWBA王者の田口良一(ワタナベ)に挑戦し、引き分けで王座奪取ならず。18年3月、神戸で前日本王者の小西怜弥(真正)とのWBA王座決定戦に判定勝ちし、25歳で戴冠。19年5月には中国で元WBO世界フライ級王者の木村翔(青木=当時)を判定で退け、2度目の防衛に成功した。

 日本の3選手が手を焼いたのがカニサレスの足だった。左ジャブ、あるいはコンビネーションをまとめては、徹底して足を使うヒットアンドラン戦法を捉えきれなかった。ただし、参謀役の加藤健太・三迫ジムトレーナーが「足を使ったり、前に来たり、その都度、相手によって、変化してくる印象」と分析するように戦い方は一定ではない。

 開始から巧みに足を使ったのは木村戦のみ。田口とは2回までパンチを交換し合ったが、3回から忙しくステップを切った。序盤から激しくやり合った小西戦では3回に右ストレートで痛烈に倒したものの、仕留めきれずに4回からボディを軸とした反撃に遭ってスタイルを切り替えた。

 田口、小西、木村はタイプこそ違え、プレッシャーをかけるスタイル。いずれにせよ、拳四朗の強力なプレッシャー、「思った以上に強かった」と京口が証言したジャブを始めとしたパンチの強さを考え合わせると、かわすカニサレス、追う拳四朗という構図に遅かれ早かれ行き着くのではないか。

 とはいえ、「どう来られてもいいように練習はしてます」(拳四朗)と抜かりないことは、師弟がよく見た映像に木村戦と7ヵ月前に挑戦権を勝ち取ったダニエル・マテリョン(キューバ)戦を挙げていたことでもうかがえる。

 技巧派でパンチ力はさほどではないマテリョンに対しては、逆にカニサレスがプレッシャーをかけ、仕掛ける形になった。結果として頭をつけ合う場面が散見され、バッティングで右目上をカット。2度の減点を科されたマテリョンに負傷判定で勝利を収めた。

 思い起こせば初登場時のカニサレスには強打のファイターのイメージがつきまとった。接近戦対策として田口が石原雄太トレーナーと押し相撲をしていたことが思い出される。やむを得ない。当時の16戦全勝13KOという戦績、思い切りのいいパンチの残像がイメージを偏らせたのだ。

 戸惑った田口は焦りから追いかける格好になり、捕まえるまでに時間がかかった。拳四朗には「追う」のではなく、「追い詰める」ステップが求められる。前回のブドラー戦。後半7回から右回りを徹底してきたブドラーに惑わされかけながら、コーナーの加藤トレーナーのアドバイスで左回りに先押さえし、ストップにつなげた経験も生きるだろう。

加藤トレーナーと「形を持って、形にこだわらず」の境地を目指す 【写真:船橋真二郎】

「序盤から自分のペースでどんどん行く。上下にうまく散らして、メンタルをどんどん削って、相手がギブアップするような展開に持っていきたい」

 これが拳四朗の思い描く試合展開。近すぎず、遠すぎず、相手にプレッシャーを与える距離をキープ。ラウンドが進むにつれ、打ってはよけ、よけては打ちの速いテンポの攻防に巻き込んでいくのが「自分のペース」になる。

 カニサレスは小柄な身長(データ上は160センチ)に比して、長いリーチ(同164センチ)が特徴。「距離感を狂わされないように」と加藤トレーナーは伸びてくるジャブに警戒する。上下に打ち込んでくるパンチの間合いにも油断はできない。

 またガードも堅く、長い腕でカバーする分、向かい合ったときに打ちどころが少ないと感じる可能性もある。ポイントは拳四朗の言う上下の散らし。字義どおりの上下ではない。ガードの内を突く左ジャブ、右ストレート、外からのフック、下から突き上げるアッパーを上下に立体的に打ち分け、多彩な角度から揺さぶる。ガードの上を叩いてずらす。崩しの技術に注目したい。

 加藤トレーナーは1964年東京五輪金メダリストの柔道家・岡野功さんの「形を持って、形にこだわらず」の格言を拳四朗と共有し、テーマに掲げていると公開練習で明かした。

「いちばん大事なのは拳四朗の形を持つこと。でも、それにこだわり過ぎないのが一流であり、達人。その域に行けたら誰にも負けない。もちろん、『こう行こう』というプランはありますけど、相手の変化に気づき、柔軟性を持って対応することをスパーリングでつくり上げてきました」

 繊細なボクシングと綿密なプラン。形にこだわり抜いたのが第1期の安定王者時代だったが、こだわり過ぎたことが王座陥落の一因にもなった。

 昨年4月、WBO王者の急病で王座統一戦が直前で中止になり、試合10日前にサウスポーから右構えに相手が変更され、臨んだアンソニー・オラスクアガ(米)との激闘を制したことは記憶に新しい。現在の拳四朗が目指す強さを表した言葉でもあるのだろう。

 王座奪還後の充実度を考えても勝利は堅いと思える。拳四朗がイメージする8回、9回あたりにクライマックスが訪れるのではないか。

 世界戦通算14勝は具志堅用高(協栄)、同通算10KOは内山高志(ワタナベ)に並び、いずれも歴代3位タイ。上には井岡一翔(志成)、井上尚弥(大橋)の2人がいるだけになる。

「ここをしっかり勝って、今年は統一戦か、階級を上げて、新しいベルトを獲るのが目標」

 会場を熱狂に巻き込む勝利でインパクトを与えたい。

寺地拳四朗(32歳)23戦22勝(14KO)1敗 ※世界戦は13勝(9KO)1敗
カルロス・カニサレス(30歳)28戦26勝(19KO)1敗1分

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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