元なでしこ宇津木瑠美がスペイン戦を解説「リズムを生めなかった“リアクションの守備”」

吉田治良

昨年の女子W杯で4-0の勝利を飾った相手スペインに、リベンジを許したなでしこジャパン。後半に負傷退場したキーマンの1人、清水(左)の状態も気掛かりだ 【Photo by Marcio Machado/Eurasia Sport Images/Getty Images】

 パリ五輪の1次リーグ初戦で、昨年の女子ワールドカップを制したスペインに1-2で敗れたなでしこジャパン。藤野の直接FKで先制しながら前半のうちに追いつかれると、システム変更を施した後半に決勝ゴールを奪われて逆転負け……。なでしこOBの宇津木瑠美に、スペイン戦で見えた課題と収穫、そして勝ち点3が求められるブラジルとの第2戦に向けて、勝負のポイントを聞いた。

5バックへの変更は間違いではなかったが

13分に藤野が直接FKを沈め、幸先よく先制するも、試合を通して「リアクションの守備」に追われた。ボールポゼッション率は31パーセントにとどまった 【Photo by Marcio Machado/Eurasia Sport Images/Getty Images】

 大事な初戦、それも相手がFIFAランキング1位のスペインということもあって、前半は少し消極的というか、探り探りの守備になっていた印象がありましたね。

 相手のセンターバックやサイドバックから、直接フィニッシュにつながるような球足の長いグラウンダーのパスをかなり入れられて、精神的にもきつかったと思います。日本は4バックの4-4-2でスタートしましたが、4-3-3のスペインに対して中盤が1枚足りず、誰がボールに行って、誰がスペースを埋めるのか、役割分担が曖昧になっていましたね。

 後半から5バック(5-4-1)に変更したことで、そういったシンプルではあるけれど危険なパスを減らすことができましたし、この変更は戦略的には間違っていなかったと思います。攻撃時には3バック(3-6-1)になって、選手交代によって4バックに戻したりと、可変は上手くいっていました。

 ただ、最終ラインの人数が横に多くなった分、2列目、3列目の選手が飛び出してくる相手の縦の動きに対応するのが難しくなってしまった。日本のお尻が重くなれば、スペインはペナルティエリア周りに人数をかけてきますし、攻撃のバリエーションも増えます。そこで軽率に足を出すとPKが怖いですからね。だから(74分に)決勝点を奪われたシーンもそうですが、人数は揃っていてもアグレッシブに当たりに行くことができなかったんです。

 結局、日本は試合を通して“リアクションの守備”を強いられて、自分たちが本来取りたいタイミングで奪いに行けなかった。だからマイボールになってもスムーズに攻撃に移行することができなかったんです。“日本の心臓”である長谷川(唯)選手と長野(風花)選手のダブルボランチは、ボールに触る機会自体も少なかったんですが、自分たちの意思ではなく相手の出方に合わせた守備をしていたから、必然的に彼女たちがボールを受ける位置も低くなってしまいましたね。それが、攻撃のリズムを生み出せなかった要因だと思います。

 ただ、守備に関しては五分五分のボールを1対1で取り切るシーンも多かったですし、組織として上手くいかないときに、個人の能力でそれを補っていた点はポジティブに受け止めています。

 個人で言えば、ベレーザでチームメイトの(藤野)あおば選手が、直接フリーキックで先制ゴール(13分)を決めてくれたのは嬉しかった。いつも熱心にフリーキックの練習をしているのを見ていますからね。

 あとは、後半の頭から起用された浜野(まいか)選手や、80分から出場した千葉(玲海菜)選手など、途中出場の選手たちのアグレッシブさも印象に残っています。日本は立ち上がりに高い位置でボールを奪ってチャンスを作りましたが、次第にそれができなくなっていったのは、二度追いをしなかったり、相手のトラップミスを突けなかったり、少しずつ積極性を欠いていってしまったからなんです。けれど途中出場の彼女たちは、二度追い、三度追いをして、ルーズボールにも懸命に足を出しました。試合終了間際に日本が盛り返せたのも、彼女たちがもたらした勢いがあったからだと思います。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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