1.23 【3大マッチ展望】拳四朗、那須川天心のKO競演なるか? ユーリ阿久井は岡山のジム初の世界王者目指す

船橋真二郎

ボクシング界で進化を続ける天心、どのようなフィニッシュに持ち込むか

左から粟生隆寛トレーナー、那須川天心 【写真:船橋真二郎】

「KOする詐欺はやめます」。公開練習前の会見で天心はユニークに宣言した。昨年4月のデビュー戦では出ばなに引っかけた右フックで与那覇に手をつかせ、9月のメキシコ王者との一戦では初回に鮮やかな左カウンターでクリーンなダウンを奪うと試合終了間際のダウン未遂(裁定はスリップ)も合わせて3度倒し、ともに大差をつける判定勝ち。縦横自在のステップ、反応の速さを含めたスピード、カウンターの才。キラリと光るものを見せてきた。が、格闘技の申し子は満足しない。

 ロブレスは過去に29人もの世界王者を手がけたメキシコの名匠イグナシオ・ベリスタイン・トレーナーの薫陶を受けるWBA、WBO世界バンタム級14位。3戦目で期待のKOはなるか。

 会見を終えると年明けに来日したメキシカン2人と各2ラウンド、熱の入ったスパーリングを披露した。

「1戦、2戦と相手が前に来て、それに対処するという意識が大きかった。今回はしっかり自分からプレッシャーをかけたいし、そのやり方がだいぶ分かってきた。前回までにはなかった距離の詰め方、(パンチの)まとめ方、期間を経てきて、どんどん足りないパーツを集めてきたんで。完ぺきではないですけど、その(KOするための)パーツが今回はそろってるんじゃないかなと思います」(那須川)

 無敗で元WBCユース・バンタム級王者の肩書きを持ち、「やりづらい」(粟生隆寛トレーナー)というカルロス・ノルベルト・ロペス、「パワーがある」(同)というヘスス・ラミレス・ルビオ、タイプの違う相手に対し、言葉どおりのパフォーマンスを見せた。

 ロープに詰め、2段、3段と攻める。強弱をつけた連打を上下にまとめる。

「リスクを取るようにしましたね。今まではずっと遠い距離でやっていたのが、戦ってる景色が変わってきた感じがします。だから毎日、刺激があるし、楽しい」

 ラウンド中、粟生トレーナーから盛んに「変化をつけろ」と声が飛んだように「距離の詰め方」にも工夫が見られた。頭を振る。上体、足でフェイントをかける。一度踏み込んでおいて、スッとバックステップし、また踏み込む。入りのパンチをジャブ、ボディと変え、目線をずらすなど。

 目を引いたのがカウンターだった。那須川最大の武器だが、「相手が前に来て、それに対処する意識」、これまでのいわゆる「待ち」ではなく、自分から仕掛けることで、相手の反応を引き出し、すかさず合わせる。その一瞬を能動的につくり出していた。

「(那須川が)リスクと言いましたけど、リスクのある距離でも戦える安定感が出てきましたね。近い距離、中間距離でも、しっかり外して、当ててとか、そこで(展開を)コントロールして、(相手と)駆け引きしながら、ボクシングをつくれるようになってきたと思います」

 那須川と同じサウスポーでもあり、元世界2階級制覇王者でディフェンス、カウンターに定評のあった粟生トレーナーの評価がオーバーラップした。

那須川の練習を見守る粟生トレーナー 【写真:船橋真二郎】

「KOはしたいけど、やり方が分かってなかった。それさえ噛み合えば、バンバンいけると思う」。イメージできるのはカウンターで倒す、効かせる、そこからまとめてレフェリーストップ、または倒し切るというもの。集めてきた「パーツ」を組み合わせれば、可能性は確実に広がる。

「それが試合でできるか。自分の度胸との戦い。自分に期待しているし、信じてるんで」

 下位とはいえ、相手は世界ランカー。勝つだけでも十分に思えるが、常に進化を求めて、「練習してきたこと、自分にウソはつきたくない」と力を込める。「ずっと、このため(試合のため)に生きてきた」とは1戦目、2戦目と繰り返し口にしてきたことだ。

「(これまでの)あのスタイルのままでいいと言う人もいると思うんですけど、まだボクシングを始めて1年なんで、勝つ確率を上げるためというよりかは、ずっと自分の可能性を上げるためにやってるんで」

 ボクシングという別世界に飛び込んだのが1年目なら、ボクシングという競技のさらに奥深くに分け入ってきたのが2年目ということか。こんな言葉が印象に残った。

「自分の中で1、2戦目とは違ったワクワク感、知らなかった世界に飛び込んでいくような感覚がある。ボクシングをやるってこと自体がそうですけど、それをもっと細かくして……」

 進化を続ける那須川はいかにKOにつなげるのか。

那須川天心(25歳)2戦2勝
ルイス・ロブレス(25歳)18戦15勝(5KO)2敗1分

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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