週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

ドジャー・スタジアムに刻み込まれる長距離砲の証 今夏、大谷翔平が「7本目」の達成者となるか

丹羽政善

7月21日のレッドソックス戦で大谷翔平が放った30号本塁打は、あわや場外弾かという超特大の一発だった 【Photo by Ric Tapia/Icon Sportswire via Getty Images】

 ドジャー・スタジアムの外野の裏手には、売店やグッズショップなどが立ち並び、ゆっくり食事がとれるピクニックテーブルなどもある。下が砂浜になっていて、ビーチパークのような雰囲気だ。

ドジャー・スタジアムの外野の裏手にある売店やグッズショップ 【撮影:丹羽政善】

 そこから客席を見上げると、コンコースの壁などにいくつかホームベースの形をしたプレートがあることに気づく。小さいのでなかなか目に留まらないかもれしれないが、そこには飛距離、選手名、チーム名、日付が記されている。左翼ポールから右翼ポールまで、場外をぐるりと回って見つかるのは全部で6枚。なにかといえば、ドジャー・スタジアムにおける場外本塁打の証である。プレートの真下辺りに落ちたのではという点では“推定”の要素があるが、方向は概ね正しい。

コンコースの壁にあるホームベースの形をしたプレート 【撮影:丹羽政善】

 ちなみに、以下がドジャー・スタジアムでの場外本塁打のリストである。

(選手名/飛距離/方向/達成年月日)
フェルナンド・タティスJr.  467ft 左翼 2021/9/30
ジアンカルロ・スタントン  475ft 左翼 2015/5/12
マーク・マグワイア     483ft 左中間 1999/5/22
マイク・ピアザ       478ft 左翼 1997/9/21
ウィリー・スターゲル    470ft 右翼 1973/5/8
ウィリー・スターゲル    506ft 6in 右翼 1969/8/5


 直近では、2021年9月30日にフェルナンド・タティスJr.(パドレス)が場外ホームランを放っており、15年5月12日には、ヤンキースのジアンカルロ・スタントン(当時マーリンズ)も特大アーチを架けている。このあたりまでは記憶に新しいところ。その前となると、1990年代まで遡らなければならず、マーク・マグワイア(カージナルス)が99年5月22日に、マイク・ピアザ(ドジャース)が97年9月21日にそれぞれ場外弾を放っている。

 以上4本はいずれも左中間から左翼方向だが、右方向への場外本塁打は、さらに時を戻す必要があり、1969年と73年に1本ずつ、ともに通算475本塁打を放ち、殿堂入りもしているウィリー・スターゲル(パイレーツ)が記録している。69年8月5日の一発は506フィート6インチ(154.38m)で、いまもドジャー・スタジアムにおける最長飛距離だ。

カーショーも驚く大谷の飛距離

 左方向4本。右方向2本。サンプルが少ないものの、同球場では本塁打数でも同じような傾向が出ている。

 2008年以降(〜24年7月23日まで/現地時間、以下同)の本塁打数(※)を調べてみると、左方向が527本(右打者480本、左打者47本)、右方向が376本(右打者77本、左打者299本)だった。ドジャースの選手を加えると、在籍選手によって偏りが生じるため、相手チームのみとしたが、151本も差がある。ドジャー・スタジアムは、メジャーでは珍しく左右対称なのに、どういうことか?

※左中間、右中間は除く

 7月21日、大谷翔平(ドジャース)がレッドソックス戦で右中間へ場外か、という473フィート(144.17m)の特大本塁打を放ったとき、ちょうどテレビ中継のインタビューに応じていたクレイトン・カーショー(ドジャース)が、「右打者なら左方向へ場外弾を打てるけど、左打者がそこまで飛ばしたのは見たことがない」と話し、それはドジャー・スタジアムは左方向への打球が伸びる、ということを示唆していた。

7月25日、左肩の手術から復帰して今季初登板となったカーショー 【Photo by Gene Wang/Getty Images】

 ドジャースの広報に聞くと「左方向への本塁打が多いのは、気流の影響ではないか」と話したが、改めてデータを整理すると、何のことはない、分母が違った。

 打数に対する本塁打の比率を調べてみると、右打者の左翼方向への本塁打は、7563打数480本で6.3%。左打者の右翼への本塁打は4817打数299本で6.2%。ほぼ同じだった。

 念のため、同じ左右対称のカウフマン・スタジアム(ロイヤルズの本拠地)とロジャース・センター(ブルージェイズの本拠地)の本塁打数も調べてみた(2008年以降、24年7月23日まで。ホームチームの選手除く)が、左方向の本塁打のほうが多く、ドジャー・スタジアム特有の現象とはいえなかった。

カウフマン・スタジアム
左方向への本塁打数 579本(右打者540本、左打者39本)
右方向への本塁打数 417本(右打者50本、左打者367本)

ロジャース・センター
左方向への本塁打数 640本(右打者561本、左打者79本)
右方向への本塁打数 471本(右打者95本、左打者376本)

 これらのデータにより、ボールが飛ばないはずの右方向に473フィートも飛ばした大谷の異次元ぶりが際立つ――という仮説は崩れたものの、だからといって、決して今季の31分の1でもない。右翼への場外本塁打は、1973年を最後に途絶えているわけだが、50年を超える空白に終止符が打たれるかもしれない――むしろ、そんな期待が高まった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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