ボクシング黄金の「1995世代」の活躍に注目 世代別の最多世界王者、パリ五輪金メダルに期待
計11人のタイトルホルダーが誕生。充実の背景は?
左から三迫ジムの横井龍一トレーナー、川満俊輝、三迫貴志会長 【写真:船橋真二郎】
川満は比嘉とは沖縄・宮古工業高校の同級生。ともに3年時のインターハイで全国初出場し、準々決勝で川満が敗れたのが田中、井上を破って優勝する岩田翔吉だった。タイトル初挑戦はWBOアジアパシフィック・ミニマム級王者時代の重岡銀次朗に2回TKO負け。試練を味わうも12戦全勝全KOのタイの世界ランカーを3回TKOに下して再起。厳しいマッチメイクに強い気持ちで応えると、東京から神戸に乗り込んでベテラン王者の大内淳雅(姫路木下)を2回TKOで撃破し、離島の宮古島出身で初の日本王者に輝いた。
次の12人目を狙う日本タイトル挑戦が決まっているのが李健太(り・ごんて/帝拳、6勝2KO無敗1分)。最強挑戦者決定戦に勝利し、挑戦権をゲット。今春にも日本スーパーライト級王者で強打を武器に台頭した藤田炎村(三迫)に挑戦する。高校時代は無傷の62連勝でアマチュア日本記録を達成し、全国6冠と無敵を誇った。李がプロで狙う初のタイトルを3年ほど前に奪取している鈴木雅弘には高校から大学にかけて7戦全勝。スキルに優れた懐の深い長身サウスポーで、スタイルの対照的な藤田とのマッチアップは興味深い。
前出の1月20日の後楽園ホールには岩田のほかに2人の「1995世代」が登場。サウスポーのロルダン・アルデア(フィリピン)と空位の東洋太平洋ライト級王座を争う鈴木雅弘がメインを担う。両者は昨年10月にフィリピンで引き分け。場所を変えた再戦で2本目のベルトを目指す。アンダーカードでは日本フェザー級9位の中野幹士(なかの・みきと/帝拳)がフィリピン選手と対戦する。「鉄の拳」と名付けられた8戦全勝7KOのサウスポーで、アマチュア7冠のホープ。ケガなどで思うようにキャリアが進まなかったが、ここからプロ初のタイトルに突き進みたい。両階級とも国内に実力者がそろう激戦区。2人が刺激すれば、さらに面白くなる。
この世代の充実ぶりの背景に小、中学生年代の強化がある。各地で開かれるようになっていたキッズ大会を集約する形で「第1回U-15ボクシング全国大会」が開催された2008年は彼らが中学1年の年にあたる。ここで取り上げただけで井上、田中、阿久井、桑原、岩田、堤、鈴木、中野が第3回までに出場。目指す目標が生まれ、前後の世代を含め、各地区予選から高いレベルで競い合う実戦の場が整った効果は間違いなく大きい。
このうち3連覇は井上だけで、第2回から出場の岩田が2連覇。井上とともに3年連続出場の田中は3回目で初優勝だった。直接対決は阿久井と堤。1ラウンドでストップ勝ちした阿久井に対し、堤が高校2年のインターハイで2年前の借りを返すというケースも生まれた。高校で2冠を獲る桑原は2年の国体準々決勝で堤を破り、準決勝で田中の前に敗退、3年の国体では準決勝で岩田に勝利した。3年のインターハイ3回戦で比嘉を下すなど、同3冠の中野、鈴木と桑原の3人は東京農業大でチームメイトになり、大学の寮では同部屋の間柄。さまざまな形で切磋琢磨し、プロも含めた刺激を与え合う環境が全体のレベルを引き上げたのだろう。
パリ五輪で活躍が期待される岡澤セオンと坪井智也
岡澤セオン(左)と坪井智也 【写真は共同】
2021年の世界選手権では2人そろって優勝。それまでの日本人最高成績は2011年の村田諒太の銀メダルで、史上初の金メダルの快挙となった。大きな結果を残した岡澤と坪井だが、ともに遅咲きという共通点がある。
日大山形高校で競技を始めた岡澤は中央大卒業後、国体要員として誘われた鹿児島県体育協会で才能が開花する。2018年の全日本選手権で優勝したのが初タイトル。そこから国際大会で実績を築き、2021年開催の東京五輪にも出場した。前回大会でメダル獲得を果たせなかったガーナ人の父を持つサウスポーが目指すところはひとつしかない。
坪井は小学6年でグローブを握り、浜松工業高校時代は全国大会の常連。群雄割拠の軽量級で井上、田中、中野、桑原らに優勝を阻まれた。結果を出すのは日大進学後。1年の全日本選手権準決勝で谷口将隆、決勝で京口紘人(ともにワタナベ)、プロで世界王者になる2学年上の強豪を破って初優勝すると、そこから4連覇。関東大学リーグ戦でも4年間全勝と実力を発揮した。目標の五輪金メダルに向け、まずは2月29日から3月12日までイタリアで開催される第1次・世界最終予選で初の五輪切符をつかめるか。