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プレミアリーグ後半戦展望 “2強”の牙城を崩して優勝するとしたら…

森昌利

現時点で首位に立つリバプールと、2ポイント差で2位につけるマンチェスター・C。折り返し点を通過した今季のプレミアは、近年リーグをリードしてきたこの2強を中心に覇権争いが繰り広げられそうだ 【写真左:REX/アフロ,写真右:ロイター/アフロ】

 プレミアリーグは各チームが20試合前後を消化し、後半戦に突入した。そこで今回は前半戦の戦いぶりを踏まえて、この先のリーグ戦がどうなるかを予想。優勝争いは現在首位のリバプールと4連覇を目指す2位マンチェスター・シティが軸となりそうだが、チャンピオンズリーグ出場権をめぐる戦いも含め、後半戦のプレミアも見どころ満載だ。

開幕前の予想を大きく裏切った2チーム

 日本人選手3名がカタールへ旅立ってイングランドを留守にした先週。1月14日(現地時間、以下同)にオールドトラフォードでのマンチェスター・ユナイテッド対トットナムのリーグ戦に出かけた。

 なぜこのカードを選んだのか。それは両チームがともに筆者の開幕前の予想を“真逆”というほど裏切っていたからだ。

 折り返し地点を過ぎた今、今季後半戦のプレミアリーグを占う前に、予想を裏切られた2チームの直接対決を自分の目で確かめようと思った次第である。

 年が明けてすでに一昨年となったが、2022年11月に近年の不振の元凶であるグレイザー一家が売却を宣言したこともあって、昨季のプレミアデビューシーズンで開幕2連敗という最悪のスタートを切りながら、現実的な視点でチームを見事に立て直し、勝ち点をシビアに積み上げて今季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場権を勝ち取るリーグ3位にマンチェスター・Uを導いたエリック・テン・ハグ監督が、昨夏に自身3度目となる移籍期間を経て、さらにチームを躍進させると見ていた。

 2シーズン連続でリーグ4位以内に入り欧州CL出場権を確保するのはほぼ確実で、ひょっとすると4連覇を狙う地元ライバルのマンチェスター・シティへの挑戦権を主張するチームに変貌する可能性もあると思っていた。

 一方のトットナムは絶対的エースのイングランド代表主将ハリー・ケインを失い、苦難のシーズンが確定したと考えた。19歳でプレミアデビューした2012-13シーズンは1試合に出場して0ゴール(レンタル先のノーリッジでは3試合・0得点)。2年目の2013-14シーズンに10試合出場して3ゴールを奪うと本格化。翌2014-15シーズン以降の9シーズン、プレミアで毎年のように得点王争いに加わり、昨季までにトータルで213ゴールを積み重ねた。これはプレミアの通算ゴール数でウェイン・ルーニーの208を抜き、単独2位となる数字だ。こうしてケインは剛脚アラン・シアラーが打ち立てた260ゴールの大記録の更新が現実的に可能である唯一の存在となっていた。

 そのケインが昨夏にバイエルン・ミュンヘンに移籍してほっとしたのはシアラーだけでなく、北ロンドンの宿命のライバルであるアーセナルを筆頭に、トットナムと毎シーズン欧州CL出場権をかけて激しく争うプレミアの強豪クラブだったことは間違いない。

 10シーズンで213ゴールということは1シーズンで21.3ものゴールが消滅することである。しかも近年はアシスト数も増えて、さらにモダンかつ完璧なアタッカーに変身していたケインの不在がトットナムの凋落につながると感じたのは筆者だけではなかったはずだ。

 けれども飛躍を期待したテン・ハグのマンチェスター・Uは、売却プロセスが遅延に遅延を重ねて、昨年末にようやく英実業家のジム・ラトクリフ氏が25%の株を買収するという結末になり、その中途半端さを反映するように、オランダ人闘将の2年目が急降下した。

 21試合を消化した現時点で10勝はしているが、9敗2分の勝ち点32で首位リバプールに13勝ち点差のリーグ7位に低迷。プレミアの優勝条件は「最悪でも6敗以内」と言われているが、すでにその基準から3敗も多いのだから、優勝争いからは完全に脱落したと言って過言でない。それどころか来季の欧州CL出場権獲得もほぼ絶望的な状況だ。

 一方、ケインが去ったトットナムは新監督としてセルティックからアンジ・ポステコグルーを引き抜くと、オーストラリア人知将が短期間で攻撃的なアプローチをチームに注入して、絶対的エース不在のハンディを跳ね返し、21試合を終えた現在12勝4分5敗の勝ち点40で5位と健闘。来季の欧州CL出場権も十分狙える位置で踏ん張っている。

マンチェスター・Uはインテンシティが足りない

1月14日に行われた強豪同士の一戦は2-2の引き分け。マンチェスター・Uは個々の能力は高いものの常にゴールを目指すという姿勢が見られず、一方のトットナムはソン・フンミンを欠いていたこともありフィニッシュのクオリティに問題があった 【写真:ロイター/アフロ】

 14日に行われた“期待を裏切られた”この両者の激突は、4ゴールが飛び出す2-2のドローに終わり、英メディアの中には「エンターティニングなドロー」と報じたところもあったが、筆者にはリバプールやマンチェスター・C、そしてアーセナルとの比較で、物足りない内容だった。

 ホームのマンチェスター・Uにクオリティは感じた。特にブルーノ・フェルナンデスのラストパスにこもった危険さと創造性、そしてラスムス・ホイルンドとマーカス・ラシュフォードのフィニッシュには超一流の香りが漂った。

 しかしインテンシティが足りない。90分間、ゴールに向かい続ける攻撃的な精神性と持久力がないと言うべきか。タイトルを争うチームには暴力的とさえ言えるゴールへの渇望がある。勝利が確定するまで点を奪い続ける。そんな常軌を逸した攻撃性だ。

 ホーム戦で前半3分の早い時間帯にホイルンドの先制点が決まったが、その後に畳みかける姿勢が欠如していた。リバプール、マンチェスター・C、そしてアーセナルならすかさず2点目を狙い、押し上げ続けるが、マンチェスター・Uは一休みしてしまう。実際、前半のうちに同点に追いつかれ、2点目を奪って再び先行しても結局2-2にされて、そのまま試合が終わった。

 絶対に勝ち点3をもぎ取るという姿勢に欠けるという印象だった。これではプレミアのタイトルを争う挑戦者にはなれない。それどころか、このままの状態が続けば残念ながらヨーロッパリーグの出場権確保も困難になるかもしれない。

 けれども、7万6000人で埋まる超満員のオールドトラフォードを見渡すと、今もこの英国最大のクラブスタジアムはイングランド最強のオーラを纏っていることが分かった。

 記者席の真横のVIP席では、バーミンガム(2部)の監督を解任されたばかりのルーニーが夫人と子どもたちを連れて古巣の試合を観戦。御大アレックス・ファーガソン氏もルーニーから少し離れたVIP席で、4分の1だけオーナーとなったラトクリフ氏と並んで試合に熱い視線を注いでいた。そんなかつての強豪時代を支えた主役たちがスタンドにそろった本拠地の雰囲気は、超ビッグクラブそのものの華やかさに溢れていた。

 かたやトットナムは球際に強く、ボールを支配し、運動量で完全にマンチェスター・Uを凌駕(りょうが)したが、悲しいかなフィニッシュのクオリティがいまひとつ。特にこの試合がトットナム・デビュー戦となったドイツ代表FWティモ・ヴェルナーには目を見張るような有効なフォーワードプレーが見られず、1対1の決定機も外して、アジアカップに出場しているエース・ソン・フンミンの足元にも及ばなかったことに物足りなさを強く感じた。

 しかし脂が乗り切った31歳韓国代表FWがカタールから戻ってくれば、トットナムが4位以内の入賞争いに加わることは間違いない。ポステコグルーがイングランドに持ち込んだフレッシュさとともに、今後も今季のプレミアリーグの台風の目になってほしいと思う。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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