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三笘がアーセナル戦後に「惨敗」と語った理由 “不可欠な存在”に求められる高い理想

森昌利

三笘はアーセナル戦にフル出場。1点を追う終盤には決定機も作り出したが、エースとしてチームに勝ち点をもたらせなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 ヨーロッパリーグのグループステージ最終戦で劇的な勝利を飾ったブライトンは、その3日後の12月17日にアーセナルと対戦した。結果は0-2の敗北。試合は終始、ホームのアーセナルが主導権を握ったが、ブライトンにとっては日程をはじめ悪条件が重なったのも事実だ。それでも三笘薫は言い訳を一切せず、自分たちのパフォーマンスを悔い、この敗戦を「惨敗」と形容した。

スタジアムが歓喜に揺れ世界一幸福な場所に

 リーグ戦であれば0-0のまま試合が膠着(こうちゃく)し、後半40分を過ぎて残りが5分を切る時間帯となれば、まるで本能のように“敗戦”という最悪の結果を避けようと両軍ともに守備に重点を置き、前に出る選手が少なくなることがよくある。

 しかし12月14日(現地時間)に行われたヨーロッパリーグ・グループ戦最終節のブライトンは違った。とにかくこの試合に勝てば、1勝ち点差でB組の首位を走る眼前の敵マルセイユの上に行く。

 そして試合終了が押し迫った後半43分、ついにブライトンに待望のゴールが生まれた。アンカーのビリー・ギルモアから出た縦パスをテクニシャンのアダム・ララーナ(サウサンプトン時代の吉田麻也が「本当に上手い」と何度も言っていた)が左足のワンタッチでさばいてパスカル・グロスに渡すと、ドイツ代表MFは素早く右足を振って、ペナルティエリア内右サイドに飛び込んだジョアン・ペドロの足元へ完璧なスルーパスを送った。

 マルセイユの選手が2人追いすがったが、今年の7月にブライトンがクラブ史上最高額となる3000万ポンド(約55億5000万円)の移籍金を支払って獲得した22歳ブラジル代表FWは、見事な切り返しを見せて相手をかわすと、豪快に右足を振り抜き、対角線上の左隅トップコーナーにシュートを叩き込んだ。

 ペドロはボールの行方を見届けると、そのまま右側の客席前まで走り、観客の輪に飛び込んで感動的なセレブレーションをした。ダグアウトの前ではロベルト・デ・ゼルビ監督がコーチ陣と飛び跳ねながら抱き合い、ゴールを祝福した。この瞬間、ファルマー・スタジアムがまさに歓喜に揺れて、世界一幸福な場所になった。

主力を温存したCLから中4日のアーセナルに対して…

ヨーロッパリーグのグループステージ最終節。ブライトンは劇的なゴールで首位マルセイユとの直接対決を制し、B組トップで決勝トーナメント進出を決めた。しかし、この歴史的勝利から中2日で臨んだアーセナル戦で…… 【写真:ロイター/アフロ】

 振り返ればAEKアテネとのグループ戦初戦は、ギリシャの強豪に試合終盤の後半39分に勝ち越しのゴールを決められ、ホームで2-3惜敗。続くマルセイユとのアウェー戦も前半20分までに2点を失う最悪の展開となった。

 しかしそのマルセイユ戦、後半9分に三笘薫がアシストしたグロスのゴールで1点差に詰め寄ると、同43分(奇しくも最終戦の決勝ゴールと全く同じ時間だった)にペドロが同点弾を決めて、2-2ドローに持ち込み、グループ戦の流れを変えた。

 その後はクラブ史上初参戦となった欧州戦で4連勝。最終戦で見事にB組の首位に浮上したチームは、欧州チャンピオンズリーグのグループ戦3位チームとのプレーオフを免れ、決勝トーナメントステージ(ベスト16)に颯爽と名乗りを上げた。

 ところがこの歴史的な勝利から中2日で行われたアーセナル戦で、三笘は「惨敗」という言葉を口にすることになった。

 厳しすぎる言葉ではないか――という印象だった。チームは木曜日の夜に雌雄(しゆう)を決する試合をしたばかりだった。

 一方のアーセナルは欧州チャンピオンズリーグ・グループステージの第5節にB組首位を確定させており、グループ最終戦では主力を温存した。しかもこの試合は火曜日に行われ、日曜日のリーグ戦までに中4日あった。真剣勝負をして中2日のブライトンとの比較でかなり有利な状況だった。またブライトン戦で勝てば、暫定とはいえプレミアリーグの首位に浮上する位置にいた。

 さらに前日の土曜日に、イングランド史上初の4連覇を目指すマンチェスター・シティがクリスタルパレスに土壇場の後半アディショナルタイム5分にPKで追いつかれ、2-2ドローで勝ち点を落としていた。ここまで条件が揃うと、ホームのエミレーツでブライトンに0-3の負けを喫した昨季の雪辱も含めて、ミケル・アルテタ監督をはじめとするアーセナルの勝利への渇望が最高潮に達していたのは間違いない。

 ポゼッションこそ、ブライトンが51%とアーセナルを上回ったが、相手の危険エリアでの連係は数えるほどしかなく、前半は1本もシュートを打てなかった。

 対するアーセナルは猛然と攻め続けた。最初の45分は0-0で終わったが、12本のシュートを放ち、そのうち3本を枠内に集めた。

 そして後半8分、コーナーキックを起点にガブリエウ・ジェズスが頭を合わせてアーセナルが先制。この後もホームチームが2点目を狙って主導権を握り続け、試合終盤の後半42分、カイ・ハフェルツのゴールで望み通りに2-0とすると、観客席から「We are top of the league!」(俺たちがリーグの首位だ!)とチャントが連呼された。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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