第2期森保ジャパンはなぜ強い? ペルー戦で物議を醸したスタイル、ドイツ戦で向上した数値、チュニジア戦での新たな試み…
23年6月のエルサルバドル戦から24年元日のタイ戦まで国際Aマッチ9連勝中の日本代表。アジアカップでは5度目の優勝が期待される 【Photo by Julian Stratenschulte/picture alliance via Getty Images】
※リンク先は外部サイトの場合があります
ボール保持に見切りをつけた第1期のチュニジア戦
ネイマールとマッチアップする伊東。このブラジル戦ではボール保持へのこだわりが高かったが、その後4-3-3に見切りをつけた 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
多くのバッシングに晒されていた森保一監督率いる日本代表に訪れた最初の分水嶺は、カタールW杯アジア最終予選でサウジアラビアに敗れたあとに迎えた2021年10月12日のオーストラリア戦でした。それまで重用してきた柴崎岳に別れを告げ、守田英正と田中碧を抜てきし、4-2-3-1から4-3-3へと配置変更に踏み切りました。
結果として4-3-3と守田、田中の抜てきが「ボールを保持して試合の主導権を握る」選択肢を日本代表に与えることになります。この頃はまだ三笘薫が台頭していなかったこと、左サイドバックにアイソレーション(※特定の味方選手を孤立させてスペースを与え、相手と1対1の状態で勝負させる戦術)を得意とする選手がいなかったことから、左サイドからの攻撃が効果的ではありませんでしたが、最終予選を戦いながらあの手この手を駆使して4-3-3の完成度を高めようとしていたことはとても印象に残っています。
4-3-3への変更によって、21年夏の東京オリンピック付近から多くの選手が声をあげていた「ボールを保持する時間を増やしたい」問題に対しても解決の目処をつけながら、22年3月に最終予選を無事に突破することができました。
その後の6月シリーズでは、多くの選手を試しながら4-3-3でW杯本大会に臨むための実験を行います。最も印象に残っているのは6月6日のブラジル戦でしょうか。どれだけ押し込まれてもビルドアップにこだわる日本代表の姿からは、親善試合だから結果をある程度は度外視しても、自分たちに何ができるか、何を積み上げるべきなのかを試す覚悟が窺えました。
ところが、次なる9月シリーズで日本代表は4-3-3に見切りをつけます。「W杯本大会でもボールを保持するサッカーを行うのか」「スリーセンターに田中、守田、遠藤航の代役はいるのか」といった問題が顕在化するなかで、6月14日のチュニジア戦で日本を研究してきた相手に遠藤が狙い撃ちにされ、4-3-3のメリットであった「ボール保持」に揺らぎが出たことも、別れを告げる大きな要因となったことでしょう。
アメリカ、エクアドルと対戦した9月シリーズでは、鎌田大地や久保建英の台頭もあり、4-2-3-1とプレッシング&ショートカウンターに回帰した日本代表でしたが、カタールW杯では3-4-2-1を中心とするマンマークプレッシングで世界を驚かすことに成功します。
一方でドイツ戦、スペイン戦では勝利したものの、ボール保持率、パス成功率は滅多に見かけないほど低い数字となり、試合の展開においてボール保持が必要とされたコスタリカ戦、クロアチア戦では肝心の結果がついてこず、成功と反省に交互に出会うことになりました。
撤退守備からのプレスとカウンターを仕掛けたペルー戦は三笘のゴールなどもあり、4-1の完勝を飾った 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】
当面の課題は「ボール保持によって主導権を握る」チャレンジを再開することだと勝手に考えていました。
第2期の初戦となった23年3月24日のウルグアイ戦ではサイドバックをインサイドハーフ化させる可変式を仕込み、配置的優位性を重視する姿勢を示すことによって「第1期とは違うのだよ!」と叫んでいるようにも感じました。しかし、続くコロンビア戦ではすぐに元の形、役割に戻していたので、選手側から不評だったのかもしれません。
カタールW杯におけるコスタリカ戦敗戦の反省をターンオーバーの失敗と捉えるならば、その対策は「最強のAチームを作るか」「Bチームを強化するか」の2択です。第2期の選択は後者でした。
日本代表の試合を振り返って、連続する2試合でスタメンをこれだけ入れ替える監督は記憶にありません。「呼ぶなら使え」と所属クラブの監督が怒っていたことが今は昔に感じられるほど、招集された選手は必ずと言えるくらい起用されるようになりました。
一方で、カタールW杯アジア最終予選のときのように4-3-3の精度を高めながらチームとしての積み上げを図るのではなく、第2期では個性の違いを許容しながらラージグループを形成することを第一目的としているように感じられます。
例えば、アンカーに起用される選手によって攻撃参加する場合とまったくしない場合があり、様々なケースが見られるようになっているのです。インサイドハーフに起用される選手のキャラに応じているのかもしれないですが。
物議を醸した試合は23年6月20日のペルー戦でしょうか。変幻自在のビルドアップを見せるペルーの前に、日本代表は撤退守備からのカウンターに移行します。ボールを保持・前進させることを得意とするチームに対してハイプレッシングを仕掛け、自分たちの現在地を知ろうとするのではなく、目の前の試合に勝つために最適な手段を実行することをためらいなく選んだのです。
第2期が好調な理由は、自分たちのできることを増やすよりも、目の前の試合に勝つために何ができるか、どの引き出しを使うべきかを優先し、それがスムーズに行えているからではないでしょうか。