森保ジャパン、5度目のアジアカップ優勝の勝算は?

森保一監督、日本代表の戦術とトレーニングについて大いに語る「トミがアーセナルでやっていることを基準に…」

竹内達也

自身について「マネジメント型の監督」だと語る森保監督。コーチ陣と役割を分担することで、トレーニングの構築を効率化している 【写真:飯尾篤史】

 元日に行われたタイ代表戦に5-0と勝利し、国際Aマッチの連勝記録を9に伸ばした日本代表。いよいよ1月14日には5度目のアジア王者を目指す戦いの火蓋が切って落とされる。そこでAFCアジアカップ・カタール2023の開幕を前に、多彩な切り口で森保一監督に迫る。インタビュー前編では守備戦術やクラブ戦術の取り入れ、トレーニング内容やコーチングスタッフについて訊いた。

攻守における戦術具現化のキーワードは…

冨安が所属するアーセナルのトランジションやコンパクトさは、日本が世界に勝つための格好のお手本だ 【写真:ロイター/アフロ】

——まずは守備戦術について聞かせてください。負傷の影響でカタールワールドカップ(W杯)以降、代表チームから離れていた冨安健洋選手が9月のドイツ戦で復帰し、ハイラインを敷いた守備戦術が可能となりました。それが代表チームの成長を後押ししているように感じます。冨安選手のコメントによく「コンパクト」という言葉が出てきますが、このチャレンジはどのような背景で実現されたのでしょうか?

「コンパクト」というキーワードは、実はカタールW杯に向けても使っていたんです。一人ひとりが1対1の局面で勝つのはもちろん、全体をコンパクトにしてお互いの距離感を良くすることで、守備では「水漏れしない」、攻撃では「奪った瞬間にパスコース・選択肢を作る」ということが可能になると思っています。

 ただ、チーム戦術として完成しているわけではありません。攻から守、守から攻に変わる局面において、全体をコンパクトに保ちながら、選手一人ひとりの良さや強固な組織力をもっと発揮できるようにならないといけない。そうした戦術をより具現化するために「コンパクト」という言葉を共有しながら戦っています。

 今、トミの話が出ましたけれど、トミがプレーするアーセナルは攻守の切り替えがめちゃくちゃ早いですよね。守備的なことだけじゃなくて、守から攻への押し上げのところで素早く切り替えられているので、前線がより前に出て行ける。そこでボールが奪えなくても相手にプレッシャーをかけて中盤や守備ラインでボールを回収できている。日本サッカーが世界で勝っていくために、トミがアーセナルでやっていることを基準にして、代表チームのクオリティを上げていきたいと考えています。

——縦のコンパクトさだけでなく、できるだけ4バックで横幅を守るという取り組みも進んでいます。強豪国は前線に5人並べて幅を使って攻めてくることが一般的になっていますが、それに対して左サイドバックの伊藤洋輝選手が2人に対応しながら中盤のサポートを待つ場面も見られます。数的不利での守り方も一つのテーマになっているのでしょうか?

 前に人数をかけるから後ろは数的不利で守るということではなく、「全員攻撃・全員守備のコンパクトさをチームの強みとしながら、個々の良さも出せるように」ということを考えています。理想は局面の対応で全員が攻撃にも守備にも関わることですが、やはり数的優位を作られるシーンはあるので、その場合には「数的不利でも対応できるように個の力をより上げていこう」とディフェンスラインの選手たちには促していきたいと思っています。

 世界のトップトップと対戦すれば、相手は数的優位を必ず生かして決定機を作ってきますよね。理想を言えば、局面を組織で守りたいですが、理想だけ追っていても結果にはつながらないかなと。攻守につながりを持ちながらも、個人個人が責任を持ってやっていくことが、世界の舞台で勝つ確率を上げていくことにつながると思っています。

——ドイツ戦前半の失点シーンはまさに、相手が数的優位を生かした形でした。できればあのシーンは数的不利になるのではなく、人を動かしてサポートすることで防ぎたかったと。

 そこで横ズレするのか、縦ズレするのか、いろんな解決方法があると思うので、それができるようにしていきたいですね。また、前線の選手にはできるだけ攻撃で良さを出してもらいたいですけど、守備でも良さを出してもらいたい。守備の選手に関しては、今や攻撃も守備も実際にはないと思うんですが、守備で1対1に勝てる、数的優位で守れる、攻撃に移っていけるようにしながら、誰かひとりに負荷がかかるような状況はできるだけ避けて、チームとしての機能性を高めていきたいと思っています。

所属クラブの戦術を取り入れる理由とは?

カタールW杯における三笘のウイングバック起用は、所属クラブの戦術を取り入れたものだった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

——そうしたコンセプトは、クラブチームなら毎週末の試合を重ねながらアップデートできますが、代表チームでは十分な時間がありません。よりマンツーマン気味に、選手たちがかみ合わせを判断していくことが大事だと思いますが、どのように捉えていますか?

 おっしゃる通り、代表チームは試合までの準備時間が短いので、極論を言うと「GKを除いてフィールド上には1対1が10個あって、そのすべてに勝てれば必然的にチームも勝てるよね」という考えをベースに持っておかないといけない。ただ、先ほども話したように、どうしても水漏れはする。だから、個の力もプラスアルファとして出せるように、数的優位も作れるように、ということを攻撃でも守備でも考えてやっていきたいですね。

——森保監督は以前、欧州のシーズン序盤にあたる9月、10月の活動では「所属クラブの戦術が選手の頭に残っているから難しい」とおっしゃっていました。その一方で、選手たちの所属クラブでの戦い方を取り入れることもなさっています。「戦術が頭に残りすぎていては困るけど、取り入れられるものは取り入れる」という難しい舵取りをしていると思うのですが、どんな狙いがあるのでしょうか?

 選手たちが普段どういう戦術のもと、どういった役割でプレーしているかは、毎試合チェックしています。一番大切なのは選手が迷わず、思い切ってプレーすることなので、選手が所属チームから代表チームに来たときには、できるだけ普段やっていることを出せるように、戦術的に生かせることがあれば生かしたいと考えています。例えば、26人の選手が異なるチームに所属していれば、戦術は26個になるので、それを全部取り入れることはできないですけど、基本的にはそういう考えですね。

 カタールW杯のドイツ戦で3バックにしたとき、(三笘)薫をウイングバックで起用しましたよね。当時、ベルギー(ロイヤル・ユニオン・サンジロワーズ)で薫はそこをやっていたので、「代表チームでもそういう起用があるかもしれないから」と事前にコミュニケーションを取っていたんです。薫だけに限らず、「俺、これ、やったことあるな」って感じてもらって、その経験をできるだけ生かせるようにしていきたいと思っています。

——カタールW杯のスペイン戦の前には、鎌田大地選手がフランクフルトの戦術をチームメートに伝えていたそうですね。現在もチーム内で「アーセナルではこうやっている」「ブライトンではこうしている」という話が出るようですし、10月シリーズでは森保監督が久保建英選手にレアル・ソシエダのビルドアップについて尋ねるシーンがテレビに映り、大きな話題を呼びました。サッカーは戦術の“つぎはぎ”が難しいと思いますが、そこの難しさはないのでしょうか?

 そこはもう、選手たちの能力が素晴らしいおかげだと思います。プランAを遂行するだけでも簡単なことではないのに、プランB、プランCへの変化にも対応してくれますから。そういう選手が多いことが、戦術的にも、役割的にも試合中にプランを変えられる大きな要因だと思いますね。

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著者プロフィール

1989年生まれ。大分県豊後高田市出身。大学院卒業後、地方紙記者を経て、2017年夏から「ゲキサカ」でサッカー取材をスタートさせた。日々のJリーグ、育成年代取材のほか、18年9月の森保ジャパン発足後から日本代表を担当し、19年のUAEアジアカップ、22年のカタールW杯で現地取材。21年からシャレン!アウォーズ選考委員。VARなど競技規則関連の発信も続けている。

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