森保ジャパン、5度目のアジアカップ優勝の勝算は?

森保一監督、日本代表の戦術とトレーニングについて大いに語る「トミがアーセナルでやっていることを基準に…」

竹内達也

なぜ冒頭15分だけ非公開にしたのか?

通常は冒頭15分のみ公開が多いが、23年9月のドイツ遠征では冒頭15分以降は公開された。そこには森保監督の「できる限りお見せしたい」という思いがあった 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

——トレーニングについての話も聞かせてください。カタールW杯に向けたチーム立ち上げ時にはミニコートの7対7など、1対1をたくさん作って高い強度、ハイスピードの中でボールを動かすトレーニングが多かった印象があります。一方、カタールW杯後はスローインを起点に逆サイドに展開したり、最近は人数をかけたクロスだったりと、具体的なシーンを想定したケース練習が増えたように感じます。

 カタールW杯に向けた最初の頃はチーム作りのスタートだったので、土台作りの意味合いもあってインテンシティを高くしながら、ゲーム形式の練習で起きた課題を修正していくことで、何をやるべきかを習得してもらっていました。ただ、これはケースバイケースです。代表チームの場合、選手のコンディションの影響は絶対的にあって、集まってから中2日や中3日で試合をしなければならないときには、選手のコンディションを最優先に考えないといけない。

 ただ、そこでコンディションに合わせた練習だけにしてしまうと、戦術的な絵がクリアにならないことがあるんですよね。だから、ケース練習と言われましたが、そのようなフィジカルコンタクトのない戦術練習を多くせざるを得ないんです。そこは、カタールW杯のアジア最終予選くらいから、徐々に変わってきたところだと思います。

 実際にカタールW杯では中3日の試合間隔で戦いましたけど、2日間休んで最後の1日だけ戦術練習をしたとしても、選手は身体が動かないし、次の試合に向けて頭も整理ができないので難しい。それなら、疲労があっても、身体を動かせなくても、次の試合に向けた戦術的なことをフィジカルに負担がかからないようにしながらインプットしていく、表現できるようにしていこう、ということでそうした練習が多くなっていきました。

——9月のドイツ戦の前には冒頭15分間だけ報道非公開という、カタールW杯前にはなかった練習日もありました。普通は冒頭15分間のみ公開というケースが一般的ですが、どうして冒頭を非公開にして、その後を公開したのでしょうか?

 あのときは冒頭の15分間で戦術的な確認をしました。理由としては、メディアの皆さんにできるだけ練習をお見せしたいと思っているので、どうしたらその時間を長くできるかと考えていて。戦術の確認でどうしてもお見せできない練習もありますけれど、見ていただいても構わない練習も少なくない。

 ただ、1時間の練習時間で、最初の15分以降は非公開にしてしまうのではなく、例えば、15分区切りにして、「ここはお見せできる」「ここは非公開にさせていただく」というふうにしたほうが、見ていただける時間が増えるかなと。メディアの皆さんにはいつも一緒に戦ってもらっていますし、日本サッカーについて発信していただいているので、同じ日本サッカーファミリーとしてできる限りのことはやっていきたいな、っていうなかでの我々なりの工夫です(笑)。

——それはとてもありがたいです(笑)。ちなみに現在、公開練習では名波浩コーチがメニューの指揮を執ることが多いですが、どのような狙いで委ねていますか? 以前は横内昭展コーチが指揮するメニューも多かったですが、ほぼイコールの変化なのか、それとも違う色を出してもらっているのでしょうか?

 基本的にはイコールですね。カタールW杯のアジア最終予選ぐらいまでは私の主導で練習をやっていて、切り取りトレーニングのところだけコーチに任せる感じだったんですけど、私ひとりで全部をやろうとすると薄くなってしまい、伝えたと思っていても伝わっていなかったりしたんですね。それなら、せっかく優秀なコーチに集まってもらっているので、コーチ陣により役割を持ってもらおう、責任を持ってもらおうと思って徐々に役割分担をしてきました。

 監督としてのタイプで言うと、私はヘッドコーチ型の監督ではなくて、マネジメント型の監督だと思っています。マネージャーとして監督をしたほうが、準備時間が短い代表チームでは、より広く、より深く、戦術をチーム全体にも個々にも伝えられます。以前だったら、攻撃が横さん(横内コーチ)、守備が齊藤(俊秀)コーチ、GKコーチは下田(崇)コーチ、フィジカルコーチは松本(良一)コーチで、セットプレー担当は攻撃が上野(優作)コーチ、守備が下田コーチと役割分担をすることが、チームとして同じ絵を持つ、選手個々がよりクリアに絵を持ってもらう上ですごく効果があると感じましたね。

名波コーチが監督をやってもいいくらい(笑)

カタールW杯後からコーチングスタッフの一員となった名波コーチは自身の監督経験を生かし、チームにさまざまなアドバイスを送っている 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

——その分、森保監督自身は選手からアイデアを引き出すところに注力をしているようなイメージですか?

 注力しているわけではないですが、コーチ陣とイメージ共有をしたうえで、「プレゼンテーションを任せる」「ミーティングを任せる」「練習を任せる」ということをやっています。おっしゃる通り、任せることによって私も選手とコミュニケーションを取れる時間が増えるので、そこで話を聞いたり、じっくり見たり、これまでとは違う視野を確保できるので効果的だと思っていますね。

 実際にチームのマネジメントとして、今のスタイルは本当に効果があるなと思っていて。今は練習を仕切っているのが名波コーチのように見えますけど、齊藤コーチともうまく連係してもらいながら、試合中のハーフタイムには名波コーチから攻撃についてひと言、守備については齊藤コーチからひと言アドバイスをしてもらったりしています。

 またセットプレーの攻撃は前田(遼一)コーチ、セットプレーの守備は下田コーチ、GKコーチも下田コーチ、フィジカルコーチは松本コーチということで、「攻撃」「守備」「セットプレーの攻撃」「セットプレーの守備」の4局面において役割を分担してトレーニングを構築してもらっています。本当にスーパーな仕事をしてもらっているなと思います。

——選手に取材していると、名波コーチから受けた助言が役立ったという声を聞くことも多いです。今回のコーチ陣では監督経験者を2人招聘したことが一つの特色で、あまり例のない人選だと思いますが、現状どのようにメリットを感じていますか?

 すべて良かったと思っていますね(笑)。本当に全部がメリットだと思っています。コーチ経験者であり、なおかつ監督も経験していると、いろんな角度からチームを見ることができると思いますし、サポートしてもらえる。そういう意味では、名波コーチが監督をやってもいいくらいだと思っています(笑)。これは本当に伝えているんですが、「監督として自分がチームを勝たせる」くらいの思いを持っていてほしいと。

 今は私が監督なので、共有しながらやってもらっていますが、責任においては、それぐらいの気持ちを持っていてほしいと思っています。名波コーチにしても前田コーチにしても、監督経験があるからこそできるマネジメントがあって、視野も違えば、マネジメントの仕方も違う部分を持っています。これはチームに対してすごくプラスに作用していると思います。

 そもそも2人に来てもらったのは、これまでの我々の積み上げを踏まえて、さらにどうやって成長していくかを考えるためです。日本代表チームがより幅広くパワーアップして、次の2026年W杯に向かって勝つ確率を高められるように、日本がW杯でチャンピオンになる可能性を少しでも上げるために来てもらいました。

 横さんと上野コーチも素晴らしいコーチで、彼らのおかげでブラッシュアップができていましたが、外から日本代表を見ていた人で、「日本のために戦いたい」「日本をもっと強くしたい」という思いを持って入ってきた2人がさらなる厚みや選択肢をチームにもたらしてくれています。これまでやってきたことに対しても違う角度から提言してくれて、議論が活発になっていますし、変えなくていいものと、変えていかなければいけないものについてもディスカッションできている。本当にすごくプラスになっていると思いますね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

森保一(もりやす・はじめ)

1968年8月23日生まれ、長崎県出身。長崎日大高校卒業後、マツダSC東洋/サンフレッチェ広島、京都パープルサンガ、広島、ベガルタ仙台でプレー。守備的MFとして活躍し、1992年に日本代表に初選出。93年にはアメリカワールドカップ・アジア最終予選に出場し、“ドーハの悲劇”によってワールドカップ出場権を逃した。04年からは指導者に転身し、広島の育成コーチやアンダー世代の日本代表コーチ、広島やアルビレックス新潟のトップチームコーチを歴任。12年に広島の監督に就任すると、12年、13年、15年と3度のJ1リーグ制覇を達成した。17年10月には東京五輪代表監督に、18年7月に日本代表監督に就任。18年夏のロシアワールドカップにはコーチとして参加し、22年冬のカタールワールドカップでは監督としてチームをベスト16へと導いた。22年12月に契約を更新し、引き続き日本代表監督を務めている。

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著者プロフィール

1989年生まれ。大分県豊後高田市出身。大学院卒業後、地方紙記者を経て、2017年夏から「ゲキサカ」でサッカー取材をスタートさせた。日々のJリーグ、育成年代取材のほか、18年9月の森保ジャパン発足後から日本代表を担当し、19年のUAEアジアカップ、22年のカタールW杯で現地取材。21年からシャレン!アウォーズ選考委員。VARなど競技規則関連の発信も続けている。

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