近畿大会で「マダックス」を達成した近江・西山 143キロ右腕が憧れ続ける大エースの背中

沢井史

近畿大会初戦では、低めに変化球を丹念に集めてわずか76球で完封勝利を達成 【写真:筆者撮影】

先輩・山田陽翔の練習姿勢に衝撃を受ける

 76球。

 近江のエース右腕・西山恒誠(2年)が、今秋の近畿大会の初戦となる興国戦で投げた球数だ。

 立ち上がりから低めに集めた変化球でゴロを打たせ、5回を終えて45球。そこからさらにテンポが良くなった。終わってみれば与えた四球はわずか1個。ピンチと呼べる場面は3回に連打を浴びて一死・一、二塁となった場面くらいで、危なげないピッチング内容で、“マダックス”(球数100球未満で完封)を達成した。

「9回になってもアウトコース低めの変化球のコントロールが維持できたことが良かったです。捕手の高橋(直希、2年)との息も合っていたと思いますし、投げていてすごく楽しかったです。近畿大会は気持ちの入り方というか、集中力がすごく高かったです。勝てば甲子園に近づく試合なので気合いも入っていました」

 最速143キロのストレートが武器で、縦のスライダーを交えてカウントを取り、テンポ良くアウトを重ねるスタイルが持ち味だ。1年秋に背番号10を背負って公式戦のベンチ入りを果たすも、同学年で自分よりも着実に経験を積んできたのは左腕の河越大輝(2年)だった。川越は今夏の甲子園で3番手としてマウンドに上がり、4回2/3を投げた(失点3)。4番手でマウンドに立った西山は2イニングを投げて無失点だったとはいえ「河越の方が自分より長いイニングを任されていたので、自分はまだまだ信頼されていなかったと思います」と振り返る。

 西山が近江に入学した春は、近江がセンバツで準優勝した直後だった。その中心にいたのがエースで4番、主将も務めた山田陽翔(西武)だった。練習では常に自分をストイックに追い込む姿は衝撃だった。

「あれだけ結果を残していても、誰よりも練習している」。室内練習場で、グラウンドで黙々と体を動かす山田を、朝練では自然と目で追いかけていた。同じ高校生なのに1人だけオーラが違っていた。色んなことを聞いてみたかったが、話しかける勇気も出なかったという。

 何より、山田の気持ちの強さは西山の目に、誰よりも眩しく映った。

「自分は気持ちが弱い方。山田さんのように気持ちで押せるのはすごくカッコいいと思いました。自分もそうなれたらいいと思ったのですが……」。

 感情を表に出すことはあまり得意ではなかった。それでも人数の多い投手陣の中で競争に勝たなくてはいけない。当時の課題はコントロールだった。いかにその場面、場面で集中力を高められるようになれるか。実戦経験を積みながら、その感覚を養ってきた。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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