NPB→MLBの移籍制度はどう生まれた? 背景に2投手の騒動、MLBの成長も
MLBの急成長を促したリーグビジネスとは
MLBは1994年に経験した史上最悪のストライキを教訓としてビジネス規模の拡大へとつなげた 【Getty Images Sport】
MLBが急成長する上で大きな契機になったのが、1994年に起こった選手会のストライキだ。オーナー側から提案されたサラリーキャップ制度(1球団あたりの年俸総額に上限を定める規定)に反対し、MLB選手会はプロスポーツ史上最長となる232日のストに打って出た。
この裏にあったのが、1976年のFA制度導入による年俸拡大だ。同年のMLBの平均年俸は5万ドル強だったのが、1988年には44万ドル弱までアップし、2020年には443万2530ドルまで膨れ上がっている。こうした年俸を支払うために、MLBはビジネス拡大が不可欠となったのだ。
そこで1995年からMLBでは全30球団が一つにまとまり、コミッショナーに全権を与えてテレビ放映権やライセンスビジネスなどリーグビジネスを始めた。そうして事業規模を大きく拡大し、北米や中南米、日本や韓国などの東アジア、さらに欧州も含めた世界中から一流選手を高年俸で獲得するようになった。その流れが今オフに起こるであろう、山本や今永の獲得合戦へとつながっている。
対して、NPBではパ・リーグが2007年にパシフィックリーグマーケティングを設立して動画配信サービスを開始、人気や収益の拡大につなげている一方、12球団がまとまって同様のビジネスをしようとする動きは見られない。各球団の努力で平均年俸は1993年の1963万円から2023年の4468万円(日本プロ野球選手会の発表、外国人選手や育成選手は含まない)まで上昇したが、MLBの2022年の平均年俸は422万ドル(約5億7500万円)と大きく水を開けられている。
選手にとって待遇は移籍を決める上で大きな要素であり、一流プレーヤーが世界から集まることで魅力的なリーグができる。それがMLBの成長だ。
逆に言えば1993年にFA制度を“見切り発車”し、機構やコミッショナーの関わり方を含めてビジネスのやり方を大きく変えられないことが、FAやポスティングでの選手の“流出”となって表れている。
(敬称略)
(企画構成:株式会社スリーライト)