因縁のアギーレにも成長の跡を見せつける 引く手あまたの久保建英、「来季のベストな選択肢」は?
第10節の古巣マジョルカ戦では、途中出場から決定的な仕事をやってのけた久保。かつての指揮官の目の前で、2シーズン前からの明らかな成長の跡を見せつけた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
アギーレが久保をベンチに追いやった理由
マジョルカを率いる元日本代表監督のハビエル・アギーレは、10月21日のラ・リーガ第10節レアル・ソシエダ戦を前に、かつて指導した久保建英についてこう語っていた。
久保にとってマジョルカは、通算2シーズンにわたって在籍した愛着あるクラブだが、そこで過ごした最後の2ヶ月間は──少なくともピッチ内においては──苦い思いを味わっている。
久保はマジョルカで2期目の2021-22シーズン、ルイス・ガルシア監督(現アラベス)の信頼を得てすぐさまレギュラーを獲得。半月板損傷で離脱を余儀なくされた時期もあったが、L・ガルシア体制下ではラ・リーガの20試合に出場し、うち15試合でスタメンを飾って1得点を記録した。
しかし、成績不振によって22年3月にL・ガルシアが解任されると、状況が一変する。
後任のアギーレは当時から、久保に関する質問にも心情を包み隠さず答える監督だった。例えばスタメン落ちの理由を聞かれた際には、「タケは今週ずっとレギュラーとして練習に参加していたが、どこか無気力だったし、冷めていた。だからメンバーから外し、先発で使わない理由を本人にも説明した」と、トレーニング中の久保の態度に問題があったことをストレートに明かすこともあった。
「ピッチで違いを生み出せるタケは、自由にプレーさせる必要がある。サイドに閉じ込め、特定の守備のタスクを与えてはダメだ。鎖につなぐことになる」
一方では、そう言って久保の実力を高く評価していたアギーレだったが、18位と降格圏に低迷するチームの再建を託されたあのタイミングでは、何よりも確実に勝ち点を積み重ねることが最優先であり、“攻撃に特化した選手”を生かすのは難しい状況だった。
実際、メキシコ人指揮官が5バックの守備的な布陣を採用したことで、久保の出番は激減。政権交代後はリーグ戦8試合に出場するも、先発の機会が与えられたのはわずか2試合。得点、アシストともに記録することなく、不本意な形でシーズンを終えている。
2シーズン前とは異なる明らかな変化
21-22シーズンの最終盤、降格圏に沈むにマジョルカの監督に就任したアギーレにとって、攻撃に特化しながら決定力を欠く久保は使いづらい選手だったが、それも今では昔話だ 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
マジョルカの地元メディア『ウルティマ・オラ』紙はこの一戦を前に、久保を“ラ・レアルの皇帝”と形容。「マジョルカにとって真の脅威」と見出しを付けた記事を掲載し、躍進著しい若武者との対戦を煽った。
ただこの日、代表戦の疲労を考慮したラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督によって、久保はスタメンを外される。それでもスコアレスで迎えた60分に投入されると、わずか4分後、いきなり決定的な仕事をやってのける。
いつものように右サイドでパスを受けると、軽やかなステップでペナルティエリアに近づき、フェイントを交えながらゴール前で待ち構えるブライス・メンデスの頭にピンポイントクロス。結局、これが決勝点となった。終了間際にはFKから際どい一撃も放つなど、およそ30分間のプレータイムで圧倒的なオーラを放った久保は、今季のラ・リーガで実に6回目のMVPに輝いた。
「もはや久保は、マジョルカ時代のように断続的にしかプレーに関与できない選手ではなくなった。ラ・レアルでは常に存在感を発揮している」
『ウルティマ・オラ』紙も、2シーズン前からの見違えるほどの変化を強調していた。
かつては攻撃に専念しながら、なかなか決定的な仕事を果たせなかった久保だが、それもすでに過去の話だ。ゴール前での焦りが消え、格段にフィニッシュの精度がアップしている。実際、ラ・リーガでの決定率はマジョルカ2期目の3パーセント(シュート35本で1得点)から、今季は42パーセント(シュート12本で5得点)にまで上昇。さらに苦手とされていた守備面も大幅に改善され、前線から絶え間なくプレスをかけることで相手のミスを誘い、味方にチャンスをもたらしている。
マジョルカ戦の3日後、先発復帰したチャンピオンズリーグのグループステージ第3節・ベンフィカ戦でも、チーム最多5本のシュートを放つなど圧巻のパフォーマンスを披露した久保は、欧州最高峰の舞台でも初のMVPに輝いた。
確かにラ・リーガ第9節のアトレティコ・マドリー戦や、第11節のラージョ・バジェカーノ戦など、相手の警戒心の高まりとともに思うようにプレーできない試合も散見されるようになったとはいえ、ラ・レアルという理想のクラブで、4-3-3の右ウイングという理想のポジションを得た久保は、まだまだそのポテンシャルの底を見せてはいない。
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