【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

因縁のアギーレにも成長の跡を見せつける 引く手あまたの久保建英、「来季のベストな選択肢」は?

高橋智行

全世界でも88番目の推定市場価格

勢いが止まらない久保はCL第3節のベンフィカ戦でも相手にとって最大の脅威に。クロスバー直撃のシュートを放つなど圧巻の存在感を示し、この試合のMVPに輝いた 【Photo by Joao Rico/DeFodi Images via Getty Images】

 こうして派手な活躍を続けていれば、当然ながら話題になるのが久保の“未来”だ。スペインメディアによる去就に関する報道は、日を追うごとに過熱する一方である。

 現時点では、古巣レアル・マドリーへの復帰の可能性はもちろんのこと、マンチェスター・シティやナポリ、三笘薫のいるブライトン、冨安健洋のいるアーセナルなどが移籍先の候補として取り沙汰されている。さらに最近では、サウジアラビアの金満クラブが久保の獲得に興味を示しているというニュースも目にするようになった。

 こうした周囲の喧騒に釘を刺すように、ラ・レアルのロベルト・オラベ会長は先日、「タケの保有権は100パーセント、ラ・レアルの手の中にある。ただ仮に売却した場合、キャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差益)の約50パーセントをレアル・マドリーが手にすることになる」と、あらためて久保との契約内容を説明。最初の決定権はあくまで久保本人にあるとしながら、「売るか売らないかはラ・レアル次第」と、移籍マーケットにおける主導権が自分たちの手の内にあることを強調した。

 現在、久保の契約解除金は6000万ユーロ(約96億円)に設定されているが、今季のパフォーマンスに照らし合わせれば、これはかなりの“安価”と言っていい。事実、ドイツの移籍情報サイト『Transfermarkt』が算出している久保の推定市場価格は、文字通りの右肩上がりだ。参考までに、ざっと数字の変化を示しておく。

 マドリーからマジョルカにレンタルされた19年9月が1000万ユーロ(約16億円)。これがビジャレアル加入後の20年10月に3倍の3000万ユーロ(約48億円)に大幅アップしたものの、以降の出場機会減少が影響し、21年3月のヘタフェ時代が1500万ユーロ(約24億円)、21年10月のマジョルカ2期目が1000万ユーロ、そして昨年6月には渡西以来最低の750万ユーロ(約12億円)にまで落ち込んだ。

 驚くべきはその後の急反発ぶりだ。昨年9月のラ・レアル加入時に900万ユーロ(約14億4000万円)だった市場価格は、1年目を終了した今年6月に2500万ユーロ(約40億円)まで高騰すると、先月には自己最高の5000万ユーロ(約80億円)にまで爆上がりしている。

 これはラ・リーガで14番目、全世界でも88番目という高額の市場価格であり、現在の久保の実力を示す1つの指針と言っていい。このままスペイン国内で“MVPコレクター”と称されるほどの活躍を続ければ、世界のスーパースターたちと肩を並べる日もそう遠くはないはずだ。

マドリーでレギュラーになるための条件

来季からのブラジル代表監督就任の噂が囁かれるアンチェロッティ監督(右)だが、今季の結果次第では続投の目もあるようだ。そうなれば、久保の復帰の可能性は低いか 【写真:ロイター/アフロ】

 久保の去就についてスペイン人記者たちと話すと、「久保は今季、ラ・リーガでもトップクラスの選手だが、それでもマドリーでレギュラーの座を確保するのは難しいだろう」と、皆が口をそろえる。

 実際、今のマドリーのシステムに久保の得意とする右ウイングのポジションは存在せず、しかも来季はキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)やアーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)といった大物アタッカーの獲得に動くと予想されている。さらに、エンドリック(パルメイラス)という将来を嘱望される17歳の逸材FWも加わる予定だ。

 前線のポジション争いが今以上に激化する可能性があるため、記者たちが久保のマドリー移籍に否定的な見解を示すのも理解できる。ラ・レアルの中心選手として今後もプレーを続けるのが現実的な選択肢であることは、間違いないだろう。

 とはいえ、世界最高のクラブ、マドリーの選手となる可能性が1パーセントでもあるのならば、ぜひ挑戦してほしいと、個人的には願わずにいられない。

 多数の国外クラブからも関心を寄せられているが、このまま右肩上がりの成長曲線を描き続けるためには、生活環境を大きく変えることなく、言語面でも不自由のない慣れ親しんだスペインの地でプレーするのがベストだろう。

 ただ、仮にマドリーからオファーが届いた場合、久保がそこでレギュラーの座を勝ち取るためには「監督交代」が1つの条件となりそうだ。今季限りで契約が切れるカルロ・アンチェロッティ監督は来夏のブラジル代表監督就任の噂を否定し、契約延長を希望している。計算の立つベテランを重視し、メンバーを固定しがちなイタリア人指揮官が続投した場合、今季ミランから復帰したブラヒム・ディアスのように、ベンチ要員に甘んじる可能性が懸念される。

 一方では、後任監督の候補として、シャビ・アロンソ(レバークーゼン)、ラウール・ゴンサレス(マドリーB)、アルバロ・アルベロア(マドリーU-19)らの名前も挙がっている。シーズン終了までまだ7ヶ月近くあるため、現時点では不確定要素が少なくないが、久保がマドリーでレギュラーを獲得するには、少なくとも現在の序列が変わる必要があるだけに、監督交代が必須だろう。

(企画・編集/YOJI-GEN)

2/2ページ

著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント