「首位と思えないようなサッカー」で町田がJ1昇格にあと1勝 主力FW不在を救った若手起用の狙いと奮闘

大島和人

沼田駿也が本職ではない1トップで起用された 【(C)FCMZ】

 J2は残り4試合の「山場」を迎えている。FC町田ゼルビアは10月14日のアウェイ戦でブラウブリッツ秋田を2-1で下し、2位との勝ち点差を『8』、3位との勝ち点差を『10』に広げた。今回の秋田戦は7月中旬に予定され、豪雨により順延されていたもの。この週末に他の上位勢は試合がなかったため、町田が昇格争いでまとめて差を広げる勝ち点3となった。

 ただし、町田にとっては強烈に難しい試合だった。秋田は中位クラブだが、4月の対戦で0-1と敗れた相手。長いボールを多用し、タフにしぶとく「相手がやりづらいプレー」を徹底してくるスタイルで、一言でいうと町田とは相性が悪い。

 さらに町田は秋田戦でオーストラリア代表のFWデューク、U-22日本代表のFW藤尾翔太とMF平河悠を代表招集により欠いていた(※結果的に藤尾と平河は負傷でU-22代表から離脱している)。ブラジル人FWのエリキ、アデミウソンも負傷により欠場中で、髙澤優也は戦列に戻ってきたばかり。「本職のストライカー」を先発に置けない状態で、この試合を迎えていた。

 直近のチーム状態も芳しくない。町田は前節のヴァンフォーレ甲府戦を辛うじて引き分けたものの、2試合連続3失点と守備面にも課題を抱えていた。黒田剛監督は秋田戦でGK、CBも含めて先発8人を入れ替える荒療治を施している。

急造2トップが「背後」を狙う

 DAZNの中継では、解説の渡邉一平氏が試合後にこうコメントをしていた。

「首位とは思えないようなサッカーでした……かもしれないですけども、こういうことができると残り試合に勢いがつくゲームに見えました」

 まさに「言い得て妙」で、試合を見ていたサッカーファンならほぼ全員が共感するだろう。優勝への最短距離にいるチームでなく、「残留に向けて、必死に勝ち点をもぎ取ろうとしている」ような戦いだった。

 町田が採用した布陣は強いて数字に置き換えると[3-5-1-1]。町田は相手に応じて様々なフォーメーションを使い分けるチームだが、初めて採用する変則的な形だった。沼田駿也が1トップ、荒木駿太がセカンドトップに配置されていた。普段の二人は主にサイドハーフで起用されていて「相手を背負う」「ボールを収める」タイプではない。

 黒田監督は与えられた駒の中で、最善手を模索した。

「秋田さんが一番嫌なのは、サイドバックの背後をシンプルに突かれることだったと思います。それでラインを下げさせることを狙いました。(秋田が)深い位置からフィードしてもロングスローやコーナーにはならないので、そこを沼田、荒木でどんどん突いていこうとしました。太田宏介、鈴木準弥ら配球力の高い選手たちで、どんどんそこに落としていこうというのが我々のプランの中にはありました」

狙い通りのプレーはできず

 沼田は大卒2年目で、レノファ山口を経て町田が獲得した選手だ。スピードを生かした抜け出しやドリブルは抜群で、ハードワークにも強みがある。大阪府出身の彼はクラブチームでなく公立中、公立高のサッカー出身。「指定校推薦」で関西大に進学し、レベルの高いチームメイトに揉まれてプロになった変わり種だ。沼田はこのように説明する。

「デュークとか(藤尾)翔太みたいに高さで相手と競り合って起点になるよりは、自分の動きでスピードを生かして背後を取ろうというのは、黒田さんからも言われました。なかなか相手の背後に動き出して起点になるプレーは出せなかったけれど、ハイボールになっても共倒れというか、相手のセンターバックと競り合いながらセカンドボールを拾っていく形には持ち込めたと思います」

 FWが173センチの沼田と、172センチの荒木なので、真正面から高さ勝負を挑んでも厳しい。そんな中で町田は両サイドのスペースに縦のフィードを入れて彼らを走り込ませ、秋田を自陣に留める狙いを持っていた。ただ秋田にも「相手に余裕を持って蹴らせない」ような強度と組織力があり、それが完全に成功したとも言えない展開だった。

「自分の動き出し、狙いはそこ(サイドのスペース)でしたけど、相手のプレスもあったし、なかなかうまく引き出せなかった。サイドバックの背後を使う部分は、5割もできなかったと思っています」(沼田)

「苦手」な仕事も工夫と努力でカバー

172センチの荒木駿太も空中戦で奮闘 【(C)FCMZ】

 両チームとも相手の組織が整う前にボールを縦に蹴り込むので、ボールが落ち着かず、FWは高頻度の往復運動を強いられていた。一方でこの2人には「厳しい状況でも戦い続ける」マインドがある。荒木はこう説明する

「同じように競ったら絶対に勝てません。先に体をつけて飛ばせない、完全なヘディングをさせず、近くに落とせるように狙っていこうと(沼田)駿也と話していました。(秋田のDFは)やはり強かったですけど、何回かできたところはあって、そこは良かったと思います」

 中盤の底から試合を組み立てていたMF下田北斗は振り返る。

「(沼田)駿也と(荒木)駿太は2人とも運動量がありますし、相手の背後とかスペースに行くところでチームを助けてくれた。あまり背は大きくないですけど、相手を背負ってボールをキープしたり、ファーストで戦ったり、セカンドボールを拾ってくれたりしていた。それぞれの得意ではない、苦手なことかもしれないですけど、そこを地道に頑張ってくれた」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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