「首位と思えないようなサッカー」で町田がJ1昇格にあと1勝 主力FW不在を救った若手起用の狙いと奮闘
2トップから「ベース」を作る
荒木(写真中央)は先制点も挙げている 【(C)J.LEAGUE】
しかし後半は向かい風を受ける町田が、守勢に回る展開だった。黒田監督はこう説明する。
「1点を取ってからは少し守勢になりました。後ろに人数を溜めすぎたことによって、ファウルになったりロングスローを与えたりというのが増えすぎた印象はあります」
GK福井光輝が好守を見せつつ、秋田のシュートがポストを叩く場面もあり、町田が1点リードを守って後半を終えた。90分を振り返れば町田の流れと、秋田の流れが入り交じる完全に五分の展開で、単純にチャンスを決めたか決めないかが勝負を分けた。沼田と荒木の自陣まで戻るハードワーク、「苦手」な仕事も含めた奮闘が、試合を成り立たせるベースを作った。
沼田は言う。
「試合前から球際、強度とか切り替えの早さで絶対に負けるなと言われていました。自分たちのサッカーどうこう以前に、そのベースで勝てないと、確実に相手が優勢になるなと感じていました。そこに対する気持ちは、みんなすごく入っていました」
J2内の順位争いと別に、町田はチーム内の競争も激しい。選手同士を競争させて、ある種の反骨心を引き出すのも、黒田監督のスタイルだ。『代役2トップ』にとって、秋田戦は自身の価値を証明する見せ場でもあった。同じく代表勢不在で戦った9月9日の栃木戦は、町田が0-1で敗れている。
荒木にはそんな悔しい記憶を晴らそうというモチベーションもあった。
「栃木戦も『やってやるぞ』という気持ちだったんですけど、負けてしまいました。代表の3人がいないからと言って、それで勝てないとは絶対に言われたくなかった」
町田が秋田戦を乗り越えて得たもの
GK福井光輝もチーム内の競争に直面している 【(C)J.LEAGUE】
下田は秋田戦をこう総括する。
「やりたいことをできたかというと、なかなかできないところもありました。だけど他のチームの試合がない中で、僕たちは突き放すチャンスでした。クラブとして(J1に)上がったことない中で、壁をどうにかして打ち破っていかないといけない。そういった意味で勝ち点3を取れたことが一番大きかった」
荒木は28試合ぶりのゴールを決めて、勝利の立役者になった。一方で沼田はFWながら1本もシュートを打てず、得点にも絡めなかった。それでも戦術的な意味でチームを一番救ったのは、沼田だったかもしれない。主観も込めて評価すれば町田が強みを出せない、自分たちの狙いを出せない中で耐え切った立役者だった。
彼はチームプレーヤーらしく、秋田戦をこう振り返る。
「自分がこんなに大事な一戦で、1トップに起用していただける――。そのやりがいはすごくありました。自分のやりたいことを出せればベストですけど、でも相手のストロングをやらせないところも意識していました。シュートゼロは難しい相手とはいえ自分の課題ですけど、まずはチームの勝利が一番でしたし、今日の勝利は自分たちの大きいアドバンテージになる。悔しさも少しありますけど、チームが勝てた喜びのほうが大きいです」
今季の町田はレギュラーに届かない、出番に飢えた選手が大事な試合で起用され、チームを救うことが多い。全体のモチベーションが高く、緊張感や活気があるからだろう。秋田戦は優勝に近づくという意味でも、来季以降につながるチームの底上げという部分でも、初のJ1昇格を目指すにチームにとって大きな試合だった。