「首位と思えないようなサッカー」で町田がJ1昇格にあと1勝 主力FW不在を救った若手起用の狙いと奮闘

大島和人

2トップから「ベース」を作る

荒木(写真中央)は先制点も挙げている 【(C)J.LEAGUE】

 ボールが大きく行き交う中で、立ち上がりは町田がセカンドボールの獲得で優勢に立ち、高い位置のセットプレーを相次いで得る展開だった。町田は前半11分にコーナーキック(CK)の流れから荒木が先制ゴールを決める。41分に追いつかれたものの、前半ロスタイムの46分には下田がやはりCKの後波状攻撃からミドルを決めて勝ち越した。

 しかし後半は向かい風を受ける町田が、守勢に回る展開だった。黒田監督はこう説明する。

「1点を取ってからは少し守勢になりました。後ろに人数を溜めすぎたことによって、ファウルになったりロングスローを与えたりというのが増えすぎた印象はあります」

 GK福井光輝が好守を見せつつ、秋田のシュートがポストを叩く場面もあり、町田が1点リードを守って後半を終えた。90分を振り返れば町田の流れと、秋田の流れが入り交じる完全に五分の展開で、単純にチャンスを決めたか決めないかが勝負を分けた。沼田と荒木の自陣まで戻るハードワーク、「苦手」な仕事も含めた奮闘が、試合を成り立たせるベースを作った。

 沼田は言う。

「試合前から球際、強度とか切り替えの早さで絶対に負けるなと言われていました。自分たちのサッカーどうこう以前に、そのベースで勝てないと、確実に相手が優勢になるなと感じていました。そこに対する気持ちは、みんなすごく入っていました」

 J2内の順位争いと別に、町田はチーム内の競争も激しい。選手同士を競争させて、ある種の反骨心を引き出すのも、黒田監督のスタイルだ。『代役2トップ』にとって、秋田戦は自身の価値を証明する見せ場でもあった。同じく代表勢不在で戦った9月9日の栃木戦は、町田が0-1で敗れている。

 荒木にはそんな悔しい記憶を晴らそうというモチベーションもあった。

「栃木戦も『やってやるぞ』という気持ちだったんですけど、負けてしまいました。代表の3人がいないからと言って、それで勝てないとは絶対に言われたくなかった」

町田が秋田戦を乗り越えて得たもの

GK福井光輝もチーム内の競争に直面している 【(C)J.LEAGUE】

 町田は22日のロアッソ熊本戦に勝てば、2位以下の結果と関係なくJ1昇格が決まる。21日の清水次第では、熊本戦で優勝が決まる可能性もある。秋田戦の勝利は、残り4試合の山場で貴重な勝ち点3になった。

 下田は秋田戦をこう総括する。

「やりたいことをできたかというと、なかなかできないところもありました。だけど他のチームの試合がない中で、僕たちは突き放すチャンスでした。クラブとして(J1に)上がったことない中で、壁をどうにかして打ち破っていかないといけない。そういった意味で勝ち点3を取れたことが一番大きかった」

 荒木は28試合ぶりのゴールを決めて、勝利の立役者になった。一方で沼田はFWながら1本もシュートを打てず、得点にも絡めなかった。それでも戦術的な意味でチームを一番救ったのは、沼田だったかもしれない。主観も込めて評価すれば町田が強みを出せない、自分たちの狙いを出せない中で耐え切った立役者だった。

 彼はチームプレーヤーらしく、秋田戦をこう振り返る。

「自分がこんなに大事な一戦で、1トップに起用していただける――。そのやりがいはすごくありました。自分のやりたいことを出せればベストですけど、でも相手のストロングをやらせないところも意識していました。シュートゼロは難しい相手とはいえ自分の課題ですけど、まずはチームの勝利が一番でしたし、今日の勝利は自分たちの大きいアドバンテージになる。悔しさも少しありますけど、チームが勝てた喜びのほうが大きいです」

 今季の町田はレギュラーに届かない、出番に飢えた選手が大事な試合で起用され、チームを救うことが多い。全体のモチベーションが高く、緊張感や活気があるからだろう。秋田戦は優勝に近づくという意味でも、来季以降につながるチームの底上げという部分でも、初のJ1昇格を目指すにチームにとって大きな試合だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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