レバンテUDが子どもたち向けのクリニックを開催「日本の子どもたちに足りていない戦術面のレベルを上げるために来ました」
見違えるような成長を見せたものの、課題も……
コーチ陣の言葉に熱心に耳を傾ける子どもたち。午後の部ではサポートや判断スピードが劇的に改善したが、課題も残った 【舩木渉】
すると子どもたちの動きがみるみる活性化していく。5対2or5対3のロンドに入ると守備側の切り替えやボール保持者に対するサポート、ポジションを取る速さなどが劇的な改善が見られた。さらに正八角形のグリッドでの5対5+5になると、遠いところまで見たサイドチェンジのパスや狭いスペースでのサポートなども増加。指導の狙いが子どもたちのプレーにしっかりと反映されるようになった。
正八角形を活用した狙いも、自然と子どもたちに伝わっていたようだ。通常のピッチから4つの角を取ったような形にすることで「ゴール方向」と「フリーになりやすい余白」がなくなる。その状態で外側に立つ5人と内側に入る5人の合計10人という、試合と同じ人数が関与するボールの循環を作ると同時に、内側では攻守の切り替わりも発生する。
より正確かつ高速にスペースを認知して正しいポジションを取り、ボールを保持し続けるために適切な判断を下さなければならなくなる、そんな状況を作り出せるのが正八角形。その中での10対5の「ロンド」によって午前と午後のトレーニングから学んだ要素を複合的に活用できた子どもたちは、最後の7対7+フリーマンによるポゼッションゲームで午前中とは見違えるような成長を見せた。
ピッチの4分の1を使って行われたゲームでは、そこかしこで球際の競り合いが生じ、課題だった強度が向上。また、ボールにばかり集まるのではなく、少し離れた位置でパスを要求したり、より広いスペースに長い距離のパスでボールを展開して保持の時間を伸ばすような工夫も自然と現れる。
午前と午後のすべてのトレーニングを終えて、ブレサ・ピナ氏は子どもたちの成長ぶりを次のように振り返った。
「子どもたちは時間とともに自分が伝えたことをどんどんできるようになっていきました。形を変えて制限を加えることによって、同じような練習でも内容は別物になります。レバンテでは四角形、三角形、円形、六角形、ひし形、八角形……とあえて形を変えて練習することが頻繁にあります。例えばグリッドを四角形から八角形にすると、サポートの動きをより早くしなければならなくなり、ディフェンスの間を通すようなパスも増えます。
周りから見ていても練習が変わっただけでなく、子どもたちが変わっていったのがわかったと思いますし、午前と午後ともに目的を持った練習をすることで、彼らは確実に成長していました。今日の経験を活かして、子どもたちが所属チームでもっと成長してくれることを願っています。彼らの技術と今日取り組んだことをつなげることで、より進歩していけると確信しています」
目的を達成できた手応えがある一方で、最後まで課題として残ったものもある。それは子どもたちの「声」が小さいままだったこと。お互いに初対面の選手も多かったとはいえ、コミュニケーションはサッカーに不可欠なもの。「文化的な側面に理由があると思うので、驚きはなかった」というブレサ・ピナ氏だが、「今日、ほんの少し足りなかったのは『喋る』ことでした」と悔やむ。
「一番驚いたのは、自分が伝えたことを実行しようとする意欲を発揮させるまでに、多くの働きかけが必要なことでした。まず自分のチームメイトがボールを欲しがっているということを周りに伝えなければなりません。私は自分の意思を周りに伝えるために『喋ろう』と言い続けました。レバンテでは自分たちがボールを保持するために、常にボールを欲しがるような状態を作らせます。自分たちのサッカーをして目的を達成するためには、常にボールを要求し続けなければなりません」
この日の内容を今後どれだけ活かせるか
レバンテUDアカデミー大阪に所属する遠山くん。このキャンプで改めて「サッカーに対する気持ちや意識が変わった」と実感 【舩木渉】
では、実際に指導を受けた子どもたちはどんなことを感じたのだろうか。レバンテUDアカデミー大阪に所属する中学2年生の遠山幸大(とおやま・ゆきだい)くんは「いつもやっている練習に似ていましたけど、一つひとつの練習にしっかり内容が詰まっていると感じました」と充実感を滲ませ、こう続けた。
「パスとコントロールの丁寧さやボールを持っている選手への声かけが求められていて、どんどんレベルが上がっていくにつれて難しくなっていくのを感じました。これからにつながっていく経験になりました。
スペイン人からの指導を受けるのは初めてでしたけど、練習を通してセルヒオさんが言っていることも少しわかるようになりました。今後のサッカーに対する気持ちや意識も自分の中で少し変わったかなと思います。海外でどんなことが行われているのかを身近に感じられたのもよかったです」
レバンテは2016年から国際部を立ち上げて海外進出を積極的に進め、日本でもアカデミーを立ち上げた。レバンテUDアカデミー大阪では年に一度スペイン遠征を行い、今回のようなスペインから指導者を招へいしてのクリニックなど活発に人材交流を続けている。
コロナ禍が明けて本格的に再開した日本とスペインとの交流を、今後どのように発展させていくのか。レバンテ国際部のダイレクターとして来日したパストール氏は「日本とレバンテには似ている部分がたくさんあると思います。規律や敬意、勤勉さ、犠牲心といった価値観を共有していると感じています」と述べた上で、両国間のつながりの将来を次のように展望した。
「我々にとって日本にアカデミーがあるのは非常に重要です。大阪にアカデミーができたことによって、ラ・リーガの関係者の皆さんも(クリニックに)来てくださいました。こうした機会を通して日本の皆さんにレバンテのことを知ってもらうきっかけができたことを嬉しく思います。今回のクリニックをきっかけに、人材交流をより盛んにしていき、日本とスペインの関係を深めていければと考えています」
レバンテ国際部の活動は、ラ・リーガが投資ファンドCVCと組んで推進している「ラ・リーガ・インプルソ」の一環でもある。このプロジェクトではリーグの国際的な人気向上やファンエクスペリエンスの拡大、世界規模での若手選手の育成を目的に大規模な投資が行われており、持続可能な成長・発展戦略の一部としてレバンテと日本の関係性はこれまで以上に重視されるようになっている。パストール氏は続ける。
「レバンテのコーチたちが毎年日本に来ることで、指導者として成長するための機会を与えることもできます。同時に日本の指導者の皆さんにも我々の考え方を直接伝え、よりよい指導につなげてもらうこともできます。この関係は我々にとって重要な資産ですし、指導者や子どもたちが両国を行き来することがすべてにおいて前向きに働いていくのは間違いありません。そして、ラ・リーガやスペインのサッカーをもっとたくさんの人々に見てもらうためにも、レバンテと日本の関係が助けになれば幸いです」
トップチームのみならずラ・リーガの他クラブなどにも育成組織から多くの優秀な人材を輩出しているレバンテは、継続的に日本サッカー界との関係を深めていこうとしている。今回のクリニックもそのためのきっかけのひとつ。これからレバンテUDアカデミーを通じた両国の交流がどのように発展していくか注目だ。
(企画・編集/YOJI-GEN)