対戦相手は「日本のガード陣に驚くはず」 日欧を知るパトリックHCから見たホーバスジャパン

永塚和志

トム・ホーバスHC率いる日本代表にとってガード陣の働きが鍵となる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 4年に1度のバスケットボールの祭典、FIBAワールドカップがついに25日から開幕する。日本(世界ランキング36位)は25日の初戦でヨーロッパの強豪、ドイツ(同11位)と対戦する。

 富樫勇樹、原修太の2選手を日本代表に送り込んでいる千葉ジェッツのジョン・パトリックヘッドコーチは、この両国で長い指導経験があり、それぞれのバスケットボールについて造詣が深い。

 日本代表のトム・ホーバスHCとも親しいというパトリック氏に、ワールドカップを戦う日本代表について話してもらった。

W杯の成否はどれだけ健康でいられるか

渡邊雄太(中央)の故障が懸念されるが大会に間に合うのだろうか? 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――ホーバスHCは東京オリンピックで女子日本代表を銀メダルに導きましたが、コーチとしての彼と、彼の率いる男子日本代表のスタイルをどう見ていますか。

 実は、最近の日本代表の試合を見ておらず、今のトムのチームのスタイルをよく把握しているわけではありません。ドイツでは日本の放送が見られませんしね。

 ただボックススコアは見ていて、彼らが3Pを多く放っているのは知っています。私が指揮していたトヨタ(現・アルバルク東京)やヨーロッパのチームはすべてアンダーサイズだったのですが、得点や3Pの試投数でリーグトップの数字を記録していました。ですから、今の日本代表のスタイルはそれに近いものがあるようですね。

――ジェッツでプレーする原修太選手はこの夏、久々に代表招集をされていますが、代表のスタイルとジェッツのスタイルが似ているので適応にさほど苦労はしていないと話していました。

 なるほど、そうなのですね。それが本当なら、すばらしいですね。私の目標の一つは自分の選手たちを代表チームでプレーする手助けをすることですから。それはドイツでも、選手がNBAや代表チームにいく後押しをすることが大きなゴールでした。

 何度も言っていますが、原は日本でベストなディフェンダーです。渡邊雄太選手も素晴らしいディフェンダーですが、原もディフェンスには相当力を入れています。彼はディフェンスで武器となります。

――あまり最近の日本代表の試合を見る機会がないということですが、彼らがワールドカップで1次ラウンドを勝ち抜ける可能性についてはどのように思いますか?

 この大会での成否は選手がいかに健康でいられるかにかかっていると思います。もし1か月前にギリシャのことを聞かれていたとしたら、ヤニス(・アテトクンボ、ミルウォーキー・バックス)や(コスタス・)サルーカスらのいるギリシャが大会を制すると言っていたでしょう。

 ボックススコアしか見ていませんが、ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)が強化試合を欠場していますよね。あるいはプレーをしていてもほんの限られた時間しか出場していません。ですが、それでも日本は良いプレーをしていたと思います。

 ですが、もしチームがベストな状態になければ、事を難しくします。ドイツとフィンランド、オーストラリアとの組は、全体で見てもっとも難しい組かもしれません。

 ただ大会前で一番大事なのは選手たちがいかに健康でいられるかだと思います。強化試合は面白いものではありますが、重要ではありません。大事なのは100%健康で初戦のある25日に向けてモチベーションを高めていくことです。強化試合でどんな結果になるかは重要ではないのです。

日本は注目されていないからこそチャンス

ワールドカップ初戦で日本と対戦するドイツはアメリカとの強化試合でも接戦を演じた 【Photo by Waleed Zein/Anadolu Agency via Getty Images】

――日本ともドイツとも関わりの強いパトリックHCは、ワールドカップの初日に対戦する両国の試合には複雑な思いではないでしょうか。

 間違いないですね。日本は私にとってホームですしね。私は今、日本にいますが、家族はドイツにいます。それに2人の息子はドイツのU23とU20の代表チームでキャプテンを務めました。その下の息子はシニアの代表でもプレーをしました。私はドイツ代表のコーチ(ゴードン・ハーバート)もトムのことも知っています。私がドイツ時代に指導した選手たちの何人かはドイツ代表でプレーしています。

 そして今は、私の日本のチームで指導する選手が代表チームに入っています。ですから、いちファンとしてこの試合を見られることが嬉しいですし、どちらか一方の応援はできないですね。

――試合の予想はいかがですか。

 ドイツの選手たちは、日本のガード陣がいかに優れているかに驚くことでしょう。大きな選手たちにとって小さく、しかし速い選手とマッチアップすることには妙な感じを受けるはずです。日本はスピードにアドバンテージがありますが、ドイツにはサイズのアドバンテージがあって、アウトサイドのシュートもうまい。ヨハネス・フォウクトマン、ヨハネス・ティーマン、ダニエル・タイスといった選手たちはいずれもすぐれた3Pシューターです。八村選手がプレーしないとなれば、日本にとっては本当にタフな試合となります。

 私は八村選手のことを直接知っているわけではありませんが、ホームでのワールドカップですし、彼がいればグループステージ突破のより大きな可能性が生まれていたと思います。ですが、彼がいないとなれば、つまり日本代表が100%でなければ、彼らは「アウトサイダー」(競馬で言う大穴)だと思います。

――パトリックHCは国内外に多くの人脈があると思いますが、海外では日本代表のことは話題になってはいますか?

(首を振りながら)特に何も耳には入ってきませんね。しかし、それこそがチャンスだと思いますよ。日本代表はもしかしたら他国からあまり注意を払われていないかもしれない。でもどんなチームもホームでは自信を持って戦える。沖縄の試合ではファンの声援がものすごく大きくなることでしょうから、日本にはホームコートアドバンテージがあります。

 私はヨーロッパのとても高いレベルで指導をしてきましたが、日本の選手たちのバスケットボールのレベルの高さにもものすごく感銘を受けていますよ。日本には隠れたダイヤモンド、ダイヤモンドの原石がいます。

 だからこそ八村選手がプレーしないのは残念でしかありません。彼がいればチャンスが高まるからです。しかし、他の選手たちは八村選手に対してのようにはスカウティングされません。オーストラリアやスロベニア、スペインの選手たちは全員がよく知られています。

 人々は日本のボックススコアは見ていて、「ああ、彼らは3Pをたくさん打つな」といったようなことは承知しています。日本代表の大半の選手たちはBリーグの選手たちですが、海外の関係者たちはスタッツを見て彼らの数字がたいしたことがないと思うかもしれません。しかし数字は印象的ではなくともすばらしいプレーをする能力を持った選手たちもいるのです。

 ですから、私は楽しみですよ。日本リーグは過小評価されていると思っていますし、選手たちについても同様です。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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