“親日派”のオーストラリア人、名古屋D・デニスHCから見た日本代表「W杯は何が起こるかわからない」
ワールドカップに挑む日本代表は他国のコーチからどのように映っているのだろうか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
その中で、トム・ホーバスヘッドコーチの敷く「日本流」のスタイルは世界からどのように受け止められているのか。また厳しい戦いの中で日本が勝利を挙げるにはどうすればいいのか。
日本開催では2006年大会(当時の名称は世界選手権)ではニュージーランド代表のスカウティングを担当し、2016年からはBリーグで指導。現在は名古屋ダイヤモンドドルフィンズのヘッドコーチを務め、日本のバスケットボール事情に明るいショーン・デニス氏に、日本代表や母国・オーストラリア代表などについて語ってもらった。
トムのスタイルこそ日本代表が追い求めるもの
デニスHCは速いテンポで戦うホーバスHCのスタイルこそ日本に適していると言う 【REX/アフロ】
そうですね、彼とはしばしば話をしますよ。私はトムのやり方が好きで彼から大いに学ばせてもらっています。もし彼が私から刺激を受けているならば、うれしいですね。
(東京オリンピックで銀メダルを獲得した)日本女子代表と同じようなテンポとスタイルで戦う、トムのスタイルを気に入っています。日本にはサイズがありませんし、相手に高いプレッシャーをかけつづけることがディフェンスでは要求されますし、オフェンスでは選手の動きで撹乱する必要があります。そして、彼らのプレーを見ているとそこの理解度がどんどんとあがっています。
となると、八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)がいないことは本当に残念です。というのも彼ならばこのシステムの中で本当に良くフィットし、日本の助けになっていただろうからです。ですが、日本の若手の選手たちが成長して、女子代表のようにトムのスタイルにフィットできれば、いい戦いができると思います。
ーーホーバスHCのスタイルはデニスHCのスタイルと似ているとよく言われますね。
トムと私はよくこういうことを話すのですが、私が日本のBリーグに来てから7年になりますが、最高の結果をここで出すにはこのスタイルが最も適していると信じています。それはすばらしい「ブランド」のバスケットボールですし、ファンにも楽しんでもらえます。選手たちだってプレーしていて楽しいでしょう。昨シーズン、我々のチームにはけが人が多発し、シーズンを通して健康だったのは7人しかいませんでしたが、それでもこのスタイルで勝利を重ねることができました。
ですから、このやり方こそが我々が追い求めるべきものだと心から信じています。我々、名古屋ダイヤモンドドルフィンズのファンや日本代表のファンの反応を見ると、ターンオーバーを多く誘発し、自らは3Pを数多く決め、ペースとテンポの速いこのバスケットボールに大きな興奮を覚えています。
八村不在は痛いが何が起こるかはわからない
日本唯一のNBA選手として渡邊雄太がチームをどこまで牽引できるか 【YUTAKA/アフロスポーツ】
ドイツもフィンランドもヨーロッパでもかなり手強い2チームです。サイズで劣りポゼッションを増やすことが容易ではない日本にとっては、どう考えても勝利は簡単なことではありません。
トムの作りあげているチームでは何よりもポゼッションが重要です。ポゼッションを多くしてとにかく3Pを数多く放つことが彼らのやりたいことなのです。シュートの成功率よりも、数を多く打つことこそにより重きを置いています。
そして、ドイツとフィンランドを相手にそれをどれだけできるかはチャレンジです。ポゼッションで勝つためにはリバウンドで良い仕事をしなければなりません。日本はそのために体を張って、リバウンドを取ることで自分たちのやりたいアップテンポな展開とし、オフェンスで自分たちの得意なフリーダムな動きにしたいのです。もしそれができれば、勝利の可能性は上がってくるでしょう。
ーー今回、レベルの高いチームを編成し優勝候補の一角と呼ばれるオーストラリアは「死の組」と呼ばれるグループで、日本、ドイツ、フィンランドと戦います。
この組からどの2チームが勝ち抜けるか言い当てるとすれば、ドイツとオーストラリアと答えます。フィンランドにはNBA選手(ラウリ・マルッカネン)がいますが、彼らは危険ではあるものの、そこまで強くはないでしょう。
日本は八村の不在で相当、難しい戦いを強いられます。とりわけオーストラリアとドイツは身体能力とサイズのある選手たちが揃っていますから、塁がいないことで苦戦は必死です。
しかし、この大会方式では何が起こるかわかりません。日本で言うならば天皇杯のようなものです。天皇杯では毎年、コーチが良い戦術を用いるだとか片方のチームの調子が悪いなどといった理由でアップセットが起きますよね。その意味では、どの組にも危険が待ち受けていると言えるでしょう。
ですから大事なのは、相手チームをけっして見くびらずに必ず倒してやるんだという気持ちをもって大会に入ること。私の母国、オーストラリアだって、負けるべきではない敗戦を過去に何度も味わってきました。だから今の彼らは、どの試合に際しても準備ができていないということが許されない、そういうカルチャーができあがっています。