河村勇輝はバスケW杯で活躍できるのか? B1史上最年少MVPが立ち向かう高い壁

大島和人

河村は22歳で、昨季のBリーグMVP 【(C)JBA】

 FIBAバスケットボールワールドカップ2023(W杯)に向けた日本代表12名は平均年齢が26.4歳。東京五輪や前回のW杯中国大会から若返っている。そんなチームの最年少が22歳のポイントガード(PG)で、横浜ビー・コルセアーズに所属する河村勇輝だ。U17W杯の経験こそあるが、フル代表の世界大会はこれが初挑戦だ。

 河村は2022年3月に東海大を中退していて、昨季(2022-23シーズン)はプロのルーキーイヤー。その彼が新人王だけでなくMVPまで受賞したことは、大きなサプライズだった。ウインターカップを連覇した福岡第一高時代から全国区の人気者だったが、今や実力も伴う日本バスケの「顔」となりつつある。

河村がBリーグで越えてきた壁

 彼はBリーグの申し子と言い得る存在だ。東海大入学直前、2019-20シーズンから「特別指定選手」の制度を活用してプロの真剣勝負を経験している。当初から高速ドライブ、パスといった強みは明らかだった。

 一方で壁に直面し、それを克服してたどり着いた成長の証が昨シーズンだった。三遠ネオフェニックスでプレーした特別指定初年度は、アシストとほぼ同じ数のターンオーバーを献上している。横浜BCでプレーした大学1年時は1試合平均が6.0得点にとどまり、3ポイントの成功率は27.7%まで落ちた。

 当時はコロナ禍で対人プレーや実戦が制限された時期で、また彼の強みも研究され始めていた。今思えばペースの速いバスケで生きる河村と、セットオフェンスを重視するカイル・ミリングヘッドコーチ(当時)のズレもあった。加えて大きかったのが「身体と感覚のミスマッチ」だ。

 東海大でウエイトトレーニングに取り組んだ結果、身体のバランスが一時的に変化していた。現在は172センチ・70キロの登録だが、まだ成長中。取材者として今も会うたびに「また上腕、上半身が太くなった」と感じる状況が続いていた。彼は以前、このような説明をしていた。

「身体作りにずっと徹していた分、(身体を)コントロールする難しさもありました。やはり感覚は変わりましたね。上半身が大きくなればなるにつれて、ボールを飛ばす力も大きくなります」

 しかし2021-22シーズンは青木勇人HCの戦術にハマった。プレータイムは前年とほぼ同じだったが、1試合平均10.0得点、7.5アシストと一流の数字を残した。アシストとターンオーバーの比率は大幅に改善し、3ポイントシュートの成功率も41.8%とV字回復。2022年1月は現役大学生ながら月間MVPを受賞し、旬の状態でプロ入りを発表した。

昨シーズンは飛躍と挫折を経験

現在は3Pシュートの成功率も安定している 【(C)B.LEAGUE】

 河村にとって2022-23シーズンは飛躍の日々だった。1試合平均19.5得点、8.5アシストを記録するとともに、残留争いの常連だったチームをチャンピオンシップに導く大活躍。選手やメディアの投票により同シーズンのMVPにも輝いた。日本代表でも富樫勇樹とともに不動のPGとして地位を築いている。

 数字以上に印象的だったのは勝負強さとバスケIQだ。昨季の彼は第4クォーターの拮抗した展開で試合を決定づける“重みのある得点”が多かった。年上や外国籍を鼓舞し、適切な判断とコミュニケーションで動かすリーダーシップも発揮。相手の対応を見切り、勝負どころで冷静に的確なカードを切る老練さはベテラン以上だった。

 相手ディフェンス(DF)から河村を見た最大の脅威は、相手の右側から抜けていくドライブ。わずかでもスペースを空けると、一気にゴール下まで切れ込んでしまう。早いタイミングで「縦」「右」を切っても、この2シーズンは左斜めからのシュート確率が上昇していた。そんな技術的な成長もブレイクを支えている。

 ただMVPを受賞した1年の中でも悔しい挫折はあった。シーズン終盤の4月2日、滋賀レイクス戦で右太ももを傷め、川崎ブレイブサンダースと繰り広げていた中地区首位争いの佳境7試合に欠場。チャンピオンシップではセミファイナル(準決勝)進出に貢献したものの、川崎とのクォーターファイナル第2戦で同じ箇所を負傷してしまった。

 8月の強化試合は問題なくプレーしているが、7月のチャイニーズ・タイペイ戦、韓国戦に欠場し、周囲をやきもきさせた。ケガには不可抗力の部分もあるとはいえ「フルシーズンを戦い抜く」ことも河村にとっては難題だったはずだ。

 6月の取材ではこう口にしていた。

「技術・戦術だけではなく、大事な試合のタイミングで力が発揮されなかったことが、やはり昨シーズンの悔しさ。昨シーズンを超えるとなれば、もう日本一しかない。反骨心というか、悔しさをどれだけ持って戦い抜けるかが一番大事だと思う」

日本代表で変わる役割

仲間を引っ張る、生かすことはPGの大切な役割 【(C)JBA】

 河村はBリーグの顔で、図抜けたプレーを見せる若者だ。一方で今も「危機感」をしばしば口にする、心身とも発展途上のプレイヤーだ。いい意味で欲深く、自分の可能性を過小評価しないマインドの持ち主でもある。そんな若者にとって、W杯はその成長に弾みをつける絶好の場。プレーの質を上げ、幅を広げるために重要な経験値を得られるだろう。

 日本代表に入れば、横浜BCとは役割が変わる。彼もこう述べていた。

「元々、自分は他の選手を活かすのに特化したポイントガードなので、代表に来てそれをやるべきだと思っています。たくさん選択肢がある中で、色んな選手の特性を生かしてその選手が思いきりプレーできるように、僕はゲームメイクをできればいい」

 昨季の横浜BCは「どう河村の強みを引き出し、得点を取らせるか」という発想でオフェンスが作られていた。日本代表はシューティングガード(SG)にシュートの名手・富永啓生がいて、パワーフォワード(PF)にはNBAプレイヤーの渡邊雄太がいる。となればPGは「司令塔」に徹することが勝利の近道だ。彼もコメントのようにその役割に対して前向きで、難しさを感じている様子もない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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