河村勇輝はバスケW杯で活躍できるのか? B1史上最年少MVPが立ち向かう高い壁

大島和人

DFからの速攻を出せるか?

河村がDFの強みを発揮できれば日本は勝利に近づく 【(C)JBA】

 国際試合はサイズのハンデが大きくなる一方で、河村が持つ「スピードのミスマッチ」はBリーグ以上に生かせるはずだ。15日のアンゴラ戦や17日のフランス戦では積極的なゴール下へのドライブを見せていたが、それはW杯仕様のプレーだろう。

 もう一つ、W杯における大きなポイントはDFだ。日本代表が初戦で対時するドイツにはNBAのスタープレイヤーでもあるPGデニス・シュルーダー(ラプターズ)がいる。ドイツ代表でも攻撃の起点となるキーマンだ。

 河村は代表合宿がスタートした直後から、シュルーダーへの意識を口にしていた。

「オフェンスよりも、DFにフォーカスは合わせたい。特にシュルーダー選手とのマッチアップは、僕の中で一ついい経験になると思うし、その結果がチームの結果にもつながってくる」

 実はDFも河村の大きな武器だ。彼の特徴はフットワークを生かした食らいつく対人守備で、前から距離を詰めて振り切られずに「煽る」対応は抜群だ。昨季では1試合平均1.5本のステイールを記録しているが、これはB1のPGでも最多レベル。攻守にアグレッシブなホーバスHCのスタイルにもマッチする要素だ。

 高い位置から相手にプレッシャーをかけ、ターンオーバーを誘ってファストブレイク(速攻)に持ち込む展開が、河村をもっとも生かす展開だろう。もちろん相手はそれを出させない手を打ってくるが、スピードとプレッシャーDFについては「通用する」と太鼓判を押していい。

W杯は間違いなく有益な経験に

強豪との対戦が河村と日本バスケの未来につながる 【(C)JBA】

 現在の日本は渡邊雄太(サンズ)、八村塁(レイカーズ)をNBAに送り込んでいる。しかし2人はアメリカの大学で技を磨き、Bリーグを経験していない。河村はBリーグが2016年秋の発足とともにスタートさせた部活とプロの二重活動を認める「特別指定選手制度」を活用し、成長を早めてきた。彼が早くから壁を経験し、克服する機会を得たことは、日本国内の育成環境が整備されつつある証明でもある。

 河村は今オフに横浜BCと3年契約を締結したが、彼自身は海外挑戦への意欲を述べ、クラブ側もそれを容認している。実際に米大手代理人事務所ワッサーマンとも契約し、次のステップに向けた準備を開始しつつある。アメリカのNBA情報サイト『HoopsHype』が昨年11月に発表した海外のプロリーグでプレーするNBAドラフト候補ランキングにも、その名前が入っていた。

 彼にとってW杯は自らのプレーをアピールする場になるか? 成長の糧となる試練になるか? おそらくその両面がある大会となるだろう。

 河村は以前の取材でこう述べていた。

「W杯で試合に出させてもらうことになれば、世界基準の中で見えてくる課題と、逆に強みとなるものが見えてくる大会になる」

 課題と強みのどちらがより色濃く出る大会になるのか、それは分からない。彼の海外進出がいつになるのか、そもそも実現するのかも現段階では見通せない。ただW杯が特別なチャレンジになることはハッキリしている。Bリーグでは別格のバスケIQを発揮している河村だが、国際舞台となれば話は違う。壁を乗り越えてきた彼にとっても、W杯は今までにない“高さ”だろう。

 しかし自らの成長に貪欲で、壁が高いほどそれを糧にしてきた青年にとって、W杯の戦いはきっと有益なものになる。それは明確に言い切っていいはずだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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