3連覇ならず、涙の準優勝に終わった横浜 チームを引っ張り続けた緒方と杉山の絆

大利実

「緒方がいなければここまで来られなかった」(杉山)

テーマにしていたストレートの平均球速が140キロ台に乗った杉山 【大利実】

 杉山にとっての緒方はどんな存在か。

 決勝後の取材で、感謝の意を口にした。

「自分も緒方がいなければ、ここまで絶対に来ることはできなかったと思います。どんなときも、緒方がいつも先頭に立ってくれて、自分たちを引っ張ってくれました。本当に、緒方には感謝しかないです。9回のピッチングで、あそこをカバーできなかったのが、すごく悔しいです」

 9回の判定に関しては、「自分としてもびっくりしてしまった……」と素直な気持ちを明かす。

「村田監督からは、1年生のときから、『自分を持て』と言われてきていたんですけど、あそこで慶應の打線に押されてしまった」

 渡邉にはフルカウントから高めに浮いたチェンジアップを、レフトに放り込まれた。

「そこまでチェンジアップが合っていなかったので、低めにいっていたら空振りが取れたと思うんですけど、高めに浮いてしまった。今となってはあそこでフォアボールでも良かったかなと思いますけど、今言ってももう遅いので。あそこで抑えきれなかったことが、自分の実力かなと思います」

 帽子のツバにもグラブにも、『未完成』の文字を入れている。自分はもっともっと良くなる、という想いを込めて。この夏はストレートの最速が147キロにまで伸び、アベレージでも140キロ台前半をコンスタントに記録するようになった。春には見られなかった姿である。

「昨年12月からスピード強化をテーマに取り組んできて、トレーナーさんに体の使い方を教わったことが、今につながっています。コンスタントに140キロ台が出るようになったのは、自分でも成長したポイントだと思います。でも、高校での『完成形』は神奈川3連覇を果たして、甲子園でも勝つことだったので、それが叶わなかったのは悔しいです」

 今後の進路について問われると、「プロに行きたいと思っています」と、プロ志望届の提出を明言した。目標の投手に、DeNAのエース今永昇太の名を挙げる。

 緒方は、高卒プロを目指した時期もあったが、大学進学を決意。憧れるのは、MLBのスーパースター、ホセ・アルトゥーベ(アストロズ)だ。

 以前の取材で、緒方に「ライバルは?」と聞くと、「杉山遙希」と答えたことがあった。その理由は、「紅白戦やシートバッティングで、クリーンヒットが打てないから。遙希はすごいピッチャーです」。

 横浜を引っ張り続けたキャプテンとエース。この日の敗戦を忘れることは、一生ないはずだ。来年からは別のステージで、高みを目指していく。いつの日か、最高峰の舞台で戦うことを、ともに楽しみにしている。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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