「日本の生命線、リベロ&セッターにも注目を」 VNLベストディガー、山本智大が果たす仕事と進化
19時を過ぎる頃、ようやく待ち人たちが現れると、大きな拍手と歓声が起こり、胸に銅メダルをかけた選手たちがその中を堂々と歩く。最初は「誰が来るんですか?」と知らずにその場にいた人たちも、バレーボール選手たちが現れると笑顔で「おめでとう」と声をかける。大会初の銅メダル獲得は、広く世間に「日本の男子バレーは強い」と知らしめるきっかけになった。
大会を通してベストディガーランキング1位となったリベロの山本智大も、ジワジワ高まる人気を決戦の地、ポーランドでも感じていたと笑う。
「(3位決定戦が)終わって、Twitterを見たら“男子バレー”がトレンドに上がっていたので、来たな、と(笑)。石川(祐希)選手も髙橋(藍)選手も、ルックスもよくて素晴らしい選手なので取り上げられて当然だと思います。リベロや、セッターの関田(誠大)選手はなかなかスポットライトが当たりにくいポジションですが、日本の生命線でもあると思うので、どんどん来てくれるといいなと思いますね」
東京五輪を経て強く意識したコート内の統率
山本は帰国直後の取材対応でも笑顔を絶やさない 【写真:田中夕子】
だが期待はいい意味で覆される。ネーションズリーグ、ワールドカップと試合出場を重ねる中、山本は急成長を遂げる。特に秀でていたのがディグ(スパイクレシーブ)だった。データに基づくポジショニングに加え、ラリー中には天性の勘とも言うべき素早い動きでボールが来る場所へ位置取り、とにかく拾う。ワールドカップではレギュラーをつかみ、ブロックと連携した山本のレシーブから何度もチャンスへつないで見せた。
強打を拾うシーンはレシーブの中でも派手なプレーであり、28年ぶりに4位と躍進した日本代表の活躍と重なり、山本の評価も高まる。だがそうなれば当然、求められることのレベルも上がる。特に山本の課題とされたのが、サーブレシーブとセットだ。
サーブレシーブはローテーションによってリベロが守る位置も変わり、両隣にアウトサイドヒッターが入ることもあれば、片方に2人が並ぶこともある。サーブを打つ側とすれば当然、守備専門のリベロは狙いたくないし、レシーブをしてから攻撃に入るアウトサイドヒッターのリズムや体勢を少しでも崩したい。十分な状態で助走に入れないように、と前を狙ったり、人と人の間、しかも右側、左側、どちらが不得手かを理解したうえで、的確にウィークポイントを狙う。
そんな相手の思惑を崩すべく、リベロも守備範囲を広げ、大きく左側に寄ったり、右側に寄るなど常にサーバーとの駆け引きが繰り広げられているのだが、その中で1本、リベロがいる位置にサーブが来て、相手にポイントを献上すれば「リベロなのにレシーブできないんだ」という目が向けられる。
隣の選手をフォローすべく広いポジションを守らざるを得なかったから。それ以前に相手が放ったサーブが素晴らしかったから。コートの中では理由も共有できているから「切り替えよう」と思えるプレーも、見る人も同じとは限らず、時に厳しい批判も向けられる中でプレーする反面、目立たぬ好プレーに注目されることは滅多にない。
それでもリベロとして、いかに仕事を果たすか。自身のレシーブ力を向上させるのはもちろんだが、自分が動くことに加え、周りも動かす。東京五輪を経て、コート内の統率が重要だと実感した山本が積極的に取り組んできたことであり、ネーションズリーグでもミドルブロッカーの小野寺太志はこう話した。
「今はどのチームもショートサーブを打ってくるので、ミドルがどこまで取りにいくか。このボールは誰か、というのを後ろから的確に指示してくれる。僕は比較的(レシーブが)できるほうなので、範囲は広めに『ここまで行ってくれればあとはとるから』と山本選手に言われるので、それぞれの役割が明確でコートの中がスムーズに動いているのを感じます」