「日本の生命線、リベロ&セッターにも注目を」 VNLベストディガー、山本智大が果たす仕事と進化

田中夕子

最高のライバル小川智大との切磋琢磨でさらなる高みへ

リベロ山本のディグからの攻撃展開が日本の強みの1つだ 【 Getty Images】

 日頃から積極的にコミュニケーションをとる機会をつくり、コートの中でも外でも必要な会話を増やす。並行して、自身が必要な技術も向上させる。サーブレシーブに加え、東京五輪を終えてから山本が時間をかけて取り組んできたのがオーバーセットだ。

 通常ならば1本目のレシーブから2本目はセッターがセットしてアタッカーにつなげる。だが1本目をセッターがレシーブした場合や、セッターがセットをする体勢が整っていない時にはリベロもセットをする。ルール上、リベロはアタックラインの前方ではアンダーでのセットしかできないが、高い位置からボールが出るほうがアタッカーも目線を下げずに攻撃準備へ入りやすい。そのためアタックラインぎりぎりのところで踏み切ってオーバーセットをするリベロも多いが、山本はオーバーでのセットが得意ではなく、より安定性と正確性を求め、オーバーが選択できる場面でもアンダーを選択することのほうが多かった。

 だがさらに高いステージを目指す以上、チームとしてはもちろん、個々のレベルも上げなければならない。その1つが山本にとってオーバーセットの安定感を増すことであり、全体練習とは別に時間をかけて取り組んできたという。

「東京オリンピックが終わって、(22年の)世界選手権が終わってからはとにかくたくさんオーバーセットの練習をしました。自分の技術が上がって幅が広がれば、できることがもっと増えると思うし、まずはアタッカーにベストな状態で打たせたい。最初は苦手意識もありましたけど、だから練習が必要だと思ったし、積み重ねる中で少しずつコツや感覚をつかんできました」

 絶好の手本もいた。

「(日本代表でリベロの)小川(智大)選手がとにかくうまいので。まだまだ全然追いつかないですけど、Vリーグで戦う時にも小川選手のプレーを見ていろんなことを学ばせてもらいました」

 誰より近くで互いを高め合える最高のライバルがいる。だからこそ、もっと強くなりたい。もっとうまくなりたい。重ねた練習の成果はネーションズリーグでいかんなく発揮され、今秋の五輪予選でもきっと、ここぞ、という勝負を決める一点は山本のレシーブから生み出されるはずだ。

 リベロとセッターが日本の生命線――。

 笑顔の陰に秘める、負けん気とプライド。リベロに、山本の動きや声、プレーの1つ1つに注目して試合を見るだけでもきっと、新たなバレーボールの楽しみが広がるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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