専門家たちが証言する石川祐希の進化「バレーボール選手にとって理想的な身体に近づいている」

田中夕子

ステップアップを重ね、「イタリアの四強で常に戦える自分でいる」ことが明確になった 【Photo by Giuseppe Cottini/Getty Images】

 一朝一夕でできるものではなく、積み重ねたからこそケガをしにくい身体になった。では次、ここからさらに目指すステージへと何を高めるか。今季、石川祐希が大きなテーマとして掲げてきたのが「より大きな身体づくり」だった。

 プロ選手は自らの身体が資本。世界で勝負するための身体づくりとして、石川がまず取り組んだのはケガをしない身体をいかにつくるか、ということ。前編でも記したように、セルフケアに時間をかけ、トレーニングで鍛えるべき筋肉へより効率的なアプローチをすべく、栄養面においても必要な栄養素をしっかり摂るようになった。その結果、年々スケジュールや自らにかかる負荷が高まる中でも膝や腰など、慢性障害は少しずつ軽減した。

 ラティーナからシエナ、パドヴァ、ミラノと所属クラブもステップアップを遂げたように、年々石川の立ち位置は代わり、主軸として定着。アウトサイドヒッターは攻撃と守備の両面で中心となるポジションであり、当然ながら運動量は多い。高く跳ぶ、強いスパイクを打つ、競技面で常に高いパフォーマンスを発揮するだけでなく、そのレベルを維持する。常に出力し続けるためには、蓄えるタンク自体を大きくしなければならない。

体重、骨格筋量…明らかに大きくなった身体

 今シーズンを迎えるにあたり、何を目指すか。石川の栄養サポートを行う(株)明治の案浦美保代氏とのミーティングでも掲げたテーマは明確だった。

「身体をもう少し大きくしたい、と。栄養サポートを始めた際はケガをしない身体づくりというのが最初のテーマだったので、大きくすることでかえってケガにつながるのではないかという不安もあったようなのですが、チーム内での活動量を考えると身体を大きく、エネルギータンク自体を大きくすることで、今以上の持久力を発揮することができる。イタリアでプレーし続ける中で、石川選手の中でも四強で常に戦える自分でいるための大きさ、高さ、強さのイメージ、それらすべてを維持し続けなければならないということが明確になったので、不安も消え、具体的な数値目標も出てくるようになりました」

 身体を大きくする、と考えたとき最もわかりやすく数字で示されるのが体重だ。18年にプロとなって明治の栄養サポートが始まった当初は85キロだったが、翌年、さらにその翌年と着実に増え、現在は88~89キロまで増えた。着目すべきは、一気に増えたのではなく計画的に増やしたことに加え、骨格筋量は16年に計測した42.5キロから昨年夏の時点で46.6キロまで増えた。つまり、ただ体重が増えただけでなく、脂肪を除く筋肉量が増加したことで全体の体重が増加し、身体自体に厚みと大きさが増した。

 専属メディカルトレーナーのスポーツケアルーム/二光治療院の野口嵩広氏もこう証言する。

「背中の広背筋や僧帽筋、股関節周りの大殿筋やハムストリングス、バレーボールに必要な筋肉が着実に増えて、明らかに身体が大きくなった。股関節周りが強くなれば早く、強く打つためのジャンプ力が増し、背中の筋肉が発達したことで空中での安定感が増し、テイクバックの力も強くなったのでコースの打ち分けできる幅も広がった。まさにバレーボール選手にとって理想的な身体に近づいていると思います」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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