ネーションズリーグで初のメダル獲得の快挙 バレー男子代表が諦めず進んできた道のり

田中夕子

構築された戦術と積極的スタイルが日本全体に波及

セッターとして日本の攻撃を操った関田誠大(左)。積極的な姿勢を貫いて攻撃を成熟させていった 【写真:REX/アフロ】

 進化を遂げた背景。そこには、取り組むべき明確なテーマが常に掲げられていたことも大きい。

 戦術面に目を向ければ、サーブで攻めるのは大前提。そこからブロック&レシーブが連動する組織的なディフェンスでボールをつなぎ、1つのポジション、1人の選手に偏るのではなくすべての攻撃が活きるように、その時々でベストな選択をする。まず日本にとって攻撃面で大きな武器となったのが、それまでは弱点とされてきたミドルブロッカーの速攻を多用すること、連動して、バックセンターからの高速バックアタックを積極的に使うこと。

 日本にとって新たな武器を構築するうえで、不可欠だったのが関田と、東京五輪にも出場した藤井直伸だった。

 最初は合わなくても恐れず使う。積極的な姿勢は後に日本の武器となり、日本代表の戦い方を見た高校生や大学生も今では当たり前のように、ミドルからの速攻とバックアタックを特別な攻撃ではなく当たり前のパターンの1つとして組み込むようになった。

 セッターとして自身の持ち味を活かし、周りの選手を活かす。関田と藤井の存在があったから、Vリーグでプレーする多くのセッターも同じように積極的にミドルを使い、バックアタックを使ってきた。当然ながらミドルブロッカーにもより多彩な技の引き出しや高さ、バックアタックに入るアウトサイドヒッターにもスピードと打力、打ち分ける技術が求められる。開催国で出場権が与えられている東京五輪という他に代え難いモチベーションの動機があったことを差し引いても、日本代表のスタイルが日本全体へと波及した結果、代表選手だけでなく日本の男子バレー自体が飛躍的な進化を遂げた。

「誰が出ても強いバレーができる」

フルセットの激闘の末にイタリア代表を下して銅メダルを獲得。歓喜の輪が広がった 【写真:REX/アフロ】

 そしてそこに髙橋藍、大塚達宣といった大学生で日本代表に選出された新戦力も加わった。それぞれが年齢や経験を問わず、前向きに自身の武器で勝負し、チーム内で活発な競争が芽生える。スタートで出ようと、途中からであろうと、ワンポイントでも、求められた場面でいかに自分の役割を果たせるか。その結果が、銅メダルを獲得したネーションズリーグでは最も顕著に表れていたのは周知の通りだ。

 歓喜から1日、リモートで現地から取材に応じた髙橋藍が言った。

「誰が出ても強いバレーができる。要所で変わる選手がそれぞれの役割を果たしてチームの流れを変えるし、どの選手が出ても同じようにその選手の特徴を活かせるバレーができる強さは発揮できました。練習ではポジション争いがあるので刺激されるから、試合でレベルアップして、いい結果を出せることにもつながっている。銅メダルは、全員で取れた結果です」

 1つ1つのピースがつながり、つかんだ日本男子バレーボール界の勝利。晴れやかな笑顔が、五輪をかけた予選で、さらにその先でさらに輝き、誇らしげになること。ここからまた、どんな進化を遂げるのか。楽しみも期待も、未知なる世界へ広がるばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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