パリへの決意 水泳部の入部式と代表壮行会を開催
【日本大学】
チームを自分の力で良い方向に導きたい
「主将には、自分から立候補しました。僕は1年生の時から水泳部の寮に入っていなかったので、キャプテン候補という感じではありませんでした。ただ、入学後はチームに対しても、自分に対しても非常に悔しい思いをたくさんしてきたので、ここは自分が主将になり、来年のインカレに向けてチームも自分もより良くしていきたいと、自分なりの思いがありました。たぶん、ほかの部員たちはびっくりしていたと思います」
入部式前の慌ただしさの中で、そう話してくれた瀬良紘太主将(スポーツ科学部・4年)。就任当初に比べ、練習中も日常生活でも部員同士互いに声をかけ合っている場面が増えてきたと感じているという。
「僕はあまり堅苦しいのが好きではないので、『やる時はやる、ふざける時はふざける』といったメリハリをしっかりつけていきたい。そうすれば、いざという時にしっかり力を発揮できると思うので、そこを意識して自分の行動で見せていきたいと考えています。主将がそうしている、そう言っているからやってみようか、というくらいの気持ちで、みんなが取り組んでくれたらいいなと思います」
当然のことながら、シーズンの一番の目標は9月5日に始まるインカレ(競泳)での2年ぶりの男子総合優勝だ。
だが瀬良主将は、「まだ競技力が足りていない」と見ている。
「本気で天皇杯を奪還しにいく姿勢をもっと出していきたい。そうすれば自己ベストを出せるようになると思うし、それが積み重なっていけば、きっと天皇杯奪還を実現できると信じています」
さらに「個人でもインカレのレースで優勝をめざしています」と話す瀬良主将。
「大学に入ってから苦しんだ時期が続いてきたことを周囲も知っているので、僕が個人で優勝すれば、チームの士気も必然的に上がってくるのではないかと思います。新入生たちも練習に参加し、高いレベルで上級生たちと競い合っています。僕らも負けじと頑張って、先輩の意地を見せていきたいと思います」と笑った。
入部式で新入部員に歓迎の言葉を贈る瀬良主将。 【日本大学】
100回目のインカレ めざすは王座奪還40回目の優勝
スタッフ一同の紹介、藤森裕基部長(文理学部教授)の挨拶に続き、マイクを握った上野広治監督(スポーツ科学部教授)はスタンドを見上げながら部員たちに、こう檄を飛ばした。
「もう一度、水泳部のことを振り返ってもらいたい。これまで99回のインカレで、39回勝ってきた(男子総合優勝)けれど、100回目の今年はどうか?昨日でインカレまであと151日。泣いても笑っても、この151日を頑張らないと、自分に自信を持てないし、苦しい練習も乗り越えられない。それでは勝つことができない」
さらに、新入部員たちには「努力の末に五輪出場を勝ち取った選手、夢を実現した選手たちが、君たちの目の前にいます」と語りかけた上野監督。「歯を食いしばって4年間を過ごし、自分が立てた目標を達成してほしい。文武両道、初心を忘れず貫いてください。活躍してくれることを心より願っています」とエールを贈った。
競泳の新入部員たち。一人ずつ紹介され、抱負を述べた。 【日本大学】
上野監督はパリ五輪代表選手たちにも「選ばれて終わりではない。東京大会の本多選手のようにメダルを獲ってほしい」と思いを伝えた。 【日本大学】
瀬良主将は言う。
「昨年以上に仲間を信じ、力強く応援して、みんなで勝利を分かち合いたい」
部員122名の思いを一つにして、さぁ、「水の覇者」の称号を取り戻しに行こう。
日本代表として全力で泳ぐ
司会を務めた水泳部OGである伊藤華英氏(経済学部・2006年度卒)から、200mバタフライ代表の寺門弦輝選手(スポーツ科学部・4年)、4×200mフリーリレー代表の柳本幸之介選手(スポーツ科学部・3年)の在学生に加え、東京五輪に続く2大会連続出場となる小堀倭加選手(スポーツ科学部・2022年度卒)と、初出場の眞野秀成選手(スポーツ科学部・2022年度卒)が紹介され、この日不参加だった本多灯選手(スポーツ科学部・2023年度卒) 、池江璃花子選手(スポーツ科学部・2022年度卒)の名前も読み上げられた。
壮行会で日本代表として紹介される選手たち。左からパリ五輪代表の眞野選手、小堀選手、寺門選手、柳本選手、ジュニアパンパシフィック選手権代表の辻森選手。 【日本大学】
また、フリーリレーメンバーとして代表入りとなった3選手は、いずれも個人種目での出場がならなかったことに悔しさをにじませつつも、「しっかり決勝に残って世界の強豪たちと戦い、いい成績を残せるように頑張ります」(柳本選手)、「東京五輪で果たせなかった決勝進出が絶対の目標。自分の泳ぎを決勝の舞台でしたい」(小堀選手)、「自分らしいレースをすること、試合を楽しむことを考えて頑張りたいと思います」(眞野選手)と、チーム・ジャパンへの貢献を誓った。
さらに、8月にオーストラリアで開催されるジュニアパンパシフィック選手権の日本代表に選出された辻森魁人選手(スポーツ科学部・1年)は、「初めての競泳代表で緊張すると思いますが、全力で試合を楽しんで、その先のA代表につながるような泳ぎをしたいと思います」と意気込みを語った。
最後は水上応援歌「水の覇者 日大」を部員と参列者の全員で合唱し、入部式および壮行会を締めくくった。
パリ五輪へ、それぞれの思いと決意
競泳 男子200mバタフライ代表 寺門 弦輝(スポーツ科学部・4年) 【日本大学】
「準決勝が終わったあと、その日の泳ぎが思った以上に悪くて、もう決勝はダメだ、とネガティブな気持ちになっていました。でも、決勝前までに日大の同期が励ましてくれたので、気持ちを立て直して臨むことができました。パリ五輪を決められて本当にうれしいです」
会心のレースだった。決勝前に決めたのは『ラスト50mに懸ける』作戦。この種目の第一人者でもあり、先輩でもある本多灯選手(スポーツ科学部卒)に前半からどれだけ先行されても焦らなかった。150mのターンの時点では、本多選手との差が約1秒ほど。ここからが寺門選手の見せ場だった。身体ひとつ分あった差を一気に追い上げて本多選手に並びかけると、最後はタッチ差で逆転勝利。まさに作戦がピタリとハマった結果となった。
「今振り返ってみても、タッチしたあとは本当にあの一瞬に今までの感情が全部出た、という感じでした。本当にうれしかったです」
高校時代から努力を積み重ね、ひとつずつ階段を上るようにして一歩一歩成長してきた寺門選手。その努力が一気に爆発したきっかけとなったのが、1冊の本との出会いによるメンタル面での急成長だった。
「心を整える方程式、という本だったのですが、そこに『パフォーマンスは身体の状態×心の状態』という言葉がありました。これがすごく腑に落ちたというか、とても自分にしっくりきました」
幼少期から練習は人一倍頑張っていた寺門選手。練習通りの力を出せればもっと良い記録が出てもおかしくないのに、なぜか思うような結果を残せないことも多かった。それは一体どうしてなのか。その答えが『身体も心も頑張り過ぎていた』ことだった。
練習でも試合でも、頑張ろうなんて考えなくても身体は勝手に頑張ってくれる。もう身体は十分に追い込んでいるのだから、心まで追い込む必要はない。心にはもっと余裕を持って、単純に泳ぐこと、競うことを楽しむくらいに考えたほうが良い。すると、スッと肩の力が抜けた。
「練習の厳しいところでもキツいことを頑張る、という考え方ではなく、チャレンジする自分を楽しめば良いや、というくらいの気持ちの余裕を持てるようになりました」
楽しいから頑張れる、頑張った結果が試合で成果として表れ、またそれが楽しいから次の練習も頑張れる。この好循環が、寺門選手を夢にまで見た五輪という大舞台にまで導いた。
「パリ五輪の目標は、あまり欲張らずに、決勝進出が目標です。決勝にさえ進んでしまえば、8位以下になることはありませんから。高望みせず、決勝進出だけを狙います。それで決勝では、実力を出し切るだけです」
本多選手とのデッドヒートを逆転で制し、自己ベストとなる1分54秒07で優勝した寺門選手。 【photo: Hiroyuki NAKAMURA】
男子4×200mフリーリレー代表 柳本 幸之介(スポーツ科学部・3年) 【日本大学】
東京五輪後から、柳本選手はリレーメンバーではなく、ずっと個人種目での派遣標準記録を突破して五輪に出場することを目標としてきた。まさに本命レースとなる、男子200m自由形。準決勝をトップで通過した柳本選手は決勝前、極限まで集中力を高めていた。
「僕がこの種目に懸けていることをみんなが分かってくれていたので、すごく応援してくれていましたし、自分自身も本当にここで頑張らないといけない、と思ってかなり集中していました」
しかし、気合いが入り過ぎたことが、柳本選手にとってマイナスに働いてしまった。というのも、3年前の東京五輪の選考会のときはコロナ禍だったこともあり、会場は無観客で静まりかえっていた。今回は有観客で、毎レースごとに大歓声が沸き起こるほど盛り上がっていたのだ。
「こういう盛り上がる雰囲気は好きなので、自分のやる気と応援の力が合わさって、ちょっと張り切り過ぎてしまいました。それがレース中の力みにつながってしまい、結果的に自分の理想とした泳ぎとレースができず、目標タイムには届かなくて悔しかったです」
だが、このときマークした1分46秒84は自己ベスト。結果は柳本選手自身が望むものではなかったかもしれないが、自己ベストという記録が、3年前よりも確実に成長していることを証明してくれている。
ここまでの道のりは順風満帆ではなかった。実力を出し切れなかった東京五輪を経て、「もう一度世界の強豪たちと戦いたい」とトレーニングに励むも、日本大学進学直前に足首の靱帯を損傷。練習をしたくてもできない、もどかしい日々を初めて味わった。
「泳げないことで、あらためて自分は水泳が好きなんだな、という確認はできました。でも、思うように泳げなかったり、結果が出せなかったりするのは、しんどかったですね」
怪我が治ってからは、一心不乱にトレーニングに励んだ。肉体改造にも取り組み、高校時代に比べると筋力も大幅にアップ。また、スポーツ科学部で学ぶ日々もプラスになることが多かった。
「授業もそうなんですけど、同級生にも様々な競技の選手たちがいるので、競技の違いなどを話す中で学ぶことはたくさんあります。もちろんすべて自分の競技に生かせるわけではないのですが、一度全部自分の頭の中に入れて、その中から自分に合ったものを選び、生かすようにしています」
生活のすべてを糧にして、柳本選手は世界と勝負をするために、2度目の五輪に挑む。
「パリ五輪までの一日一日を大切に頑張ることはもちろん、自分ができる最大限の努力をしていきたいと思います。大学の先輩たちも代表チームで一緒なので心強いですし、切磋琢磨して僕も結果を残せるように頑張ります」
【 photo: Hiroyuki NAKAMURA】
女子4×200mフリーリレー代表 小堀 倭加(スポーツ科学部・2022年度卒) 【日本大学】
今までの小堀選手であれば、ここで一気に気持ちが落ち込み、あとに続くレースに影響を及ぼしていたかもしれない。だが、世界の舞台で戦い続けてきた経験と、スポーツ科学部での学びによって気持ちを前向きに切り替えることができた。
「400m自由形の翌日にあった、200m自由形の予選と準決勝で良い泳ぎができたことも良かったのだと思います。ここで気持ちをリラックスさせることができて、絶対に五輪に行くんだ、という強い気持ちを持って200m自由形の決勝と、400m個人メドレーの決勝レースに臨むことができました」
大会3日目、先に行われた400m個人メドレーでは自己ベストを大幅更新。派遣標準記録を突破していたものの3位に終わり、またも代表入りを逃してしまう。その30分後、笑顔で200m自由形の決勝の舞台に立った小堀選手。ここでも会心のレースを見せ、1分58秒22の自己ベストで優勝を果たす。ネガティブな気持ちを引きずらないメンタルの強さによって引き寄せた200m自由形の結果が、パリ五輪のリレーメンバーとしての選出につながったことは、言うまでもない。
「大学で受講していたスポーツ心理学の授業で、どうしたらネガティブ思考をプラスに変えられるか、ということを学びました。今大会ではそれを生かすことができました」
個人種目を戦えない悔しさはあるが、リレーメンバーとして選ばれたからには、チームとして目標に掲げる4×200mフリーリレーの決勝進出に向けて全力を注ぎ込む。
「パリ五輪では、個人としては今回出した記録を超えるタイムで泳ぐことが一番の目標です。選ばれたリレーメンバーの4人が力を合わせれば、必ず決勝の舞台には立てると思うので、決勝進出をめざして持てる力を出し切れるように頑張ります」
【 photo: Hiroyuki NAKAMURA】
男子4×200mフリーリレー代表 眞野 秀成(スポーツ科学部・2022年度卒) 【日本大学】
しかし、昨冬のトレーニング期に突如スランプが訪れる。トレーニングは積めているはずなのに、試合になると思うような泳ぎができずにタイムが出せない。取り組みに工夫をしてみるものの、なかなか改善が見られない日々が続いてしまう。
そんな不安を抱えたままで迎えた、パリ五輪への切符を懸けた国際大会代表選手選考会。専門種目である200m自由形の予選、準決勝を順調にクリア。勝負の決勝レース。プレッシャーで押しつぶされそうになるも「やるしかない」と腹をくくった。
思い切ったレースで前半から攻め、100mを2位でターン。後半、苦しいところで得意なキックを生かして追い上げてくるライバルたちを振り切り、タッチ差で4位に滑り込んだ。その結果、パリ五輪の4×200mフリーリレーのメンバーとして選ばれた。
「パリ五輪の代表入りはうれしいという気持ちと同時に、本当に心からホッとした気持ちでいっぱいでした」
不安な状態でも、しっかりとパリ五輪の代表権を勝ち取れたことは、自力がついていることの証明に他ならない。ここまできたら、悩んでなんかいられない。あとは、全力でやるだけだ。代表入りできたことで気持ちが吹っ切れた眞野選手は、決意と熱意のこもった真っすぐな眼差しでパリ五輪に向けた抱負を話してくれた。
「五輪までは細かいことは考え過ぎず、とにかく目の前の練習をこなしていくことに集中していきたいと思います。それに、リレーメンバーには後輩の柳本幸之介選手(スポーツ科学部・3年)もいます。柳本選手とは日頃から仲も良いので、力を合わせて決勝の舞台に進めるように全力を尽くします」
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