新スタジアム開業に向け進化を続けるV・ファーレン長崎 イベントで観客をもてなすクラブの思いとは――
2024年に開業予定の長崎スタジアムシティの完成予想図 ※施工上の都合等により今後デザイン含め変更の可能性があります 【提供:ジャパネットホールディングス】
コストがネックだった仮装を救った“本物”
櫛引一紀選手が長崎電気軌道の制服を着た仮装でポーズを決めたパネルがスタジアム前でサポーターを出迎える 【写真提供:V・ファーレン長崎】
そう話すのはイベントの総括を行う中井友美さんだ。本格的な衣装でなければ、選手たちを“その気”にさせることができず、かといって多大なコストをかけるわけにもいかない。相反する事象の両立は難しく、一時は企画中止も検討に挙がったという。しかし、身近なところに“本物”があった。それがスポンサー企業の制服だった。
「真新しさとコストという観点で考えたときにパートナー企業さまの制服などをお借りして選手になり切ってもらう。それができたらおもしろそうだよねとアイデアラッシュの中の一つで案が出ました」(中井)
スポンサーさまの制服ならPRも兼ねるから恥ずかしさはない
「本物の制服を着たことでスポンサーさまのことをさらに意識するようになった」と櫛引一紀選手 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
「これまでは選手たちがどうしても『これを着るの?』という雰囲気になってしまい、それが表情に出てしまっていました。しかし、スポンサー企業さまから借りれば、当然“本物”。『こんな素材なんだ』とか『こういう風に着るんだ』と選手たちも楽しんでくれて、乗り気でやってくれるというのはありました」
イベントを企画した大津龍太さんは写真撮影時の選手たちの変化について振り返る。仮装とはいえ、制服は実際にスポンサー企業の方々が着用している本物。リアリティがあるぶん、選手たちからは気恥ずかしさは消え、何よりも自分たちを支えてくれているスポンサー企業のためにという思いから積極的にポージングや表情作りを見せたそうだ。
今回、この企画でモデル役を務めた櫛引一紀選手は「ああいう風にいわゆる本物の制服を着る機会というのはなかなか無いので、その職種の人になれたような感覚で楽しかったです。実際に着てみることでスポンサーさまのことをさらに意識するようになりましたし、ほかの選手たちが違うスポンサーさまの服を着ているのを見て『あれも良いな』って思うところもあって良い企画だなと思いました」と振り返る。
また、同じくモデル役を務めた澤田崇選手も「コスプレって感じだと気恥ずかしさがありますけれど、この企画のようにスポンサーさまの制服だとPRを兼ねている部分もあるので『しっかりやらないといけない』という気持ちにもなるし、スポンサーさまのことをより近くに感じやすくなったというのもありますね」と話している。選手たちにスポンサーの存在を見つめ直すきっかけを与えるとともに従来の仮装イベントとは違ったやる気も生み出している。
試合の際、スタジアムで流れるスポンサー紹介のアナウンスで企業名を聞いたことはあっても業態など具体的には分からなかった。しかし、この企画を通じて選手のスポンサーに対する理解を深め、双方向性をより強めた点はまさにWIN-WINの関係と言えるだろう。
コロナ禍で生まれたスタンプラリーはアプリのダウンロード促進にも寄与
スマートフォンのアプリを使ってのスタンプラリーも好評を得ていた 【写真提供:V・ファーレン長崎】
「コロナのときはとにかく人が集まらないようにすることを意識していました。このパネルの企画も最終的には同じところに人を集めるのではなくて、スタジアムのいろいろなところに置くことで人が同じ場所に留まることがないようにということでスタンプラリーとして活用しました」(大津)
「クラブとしてアプリのダウンロード促進にも力を入れて取り組んでいたので、それと合わせてアプリでスタンプラリーができたらいいよねというのがこの企画が誕生した背景でもあります。コロナ禍だからこそ、この企画が生まれたというのはあると思います」(中井)
スタジアムでのスタンプラリーのスタート地点にはクラブ公式アプリと明治安田生命のウォーキングアプリのダウンロードスポットを設置。スタンプラリー企画を紙ではなくアプリで実施することにより、ダウンロード促進にもうまくつなげている。
また、試合日以外でもパネルはスポンサー企業の会社や店舗に飾られており、特に店舗を持つ企業の場合はそのパネルを見るためにサポーターが足を運び、実際にその店舗で買い物をする。そういった好循環も生み出した。
「特に生鮮食品系だと多くの方が店舗に訪れるのでサポーターの方々がパネルと写真を撮ったり、スポンサー企業の方々に感謝の思いを綴っていたりというのをSNSで見ることができました」(中井)