J1月間MVPはここまで8得点9アシストの神戸・武藤嘉紀「今ほど優勝をしたいと思ったことはない」

舩木渉

ヨーロッパのスタンダードを神戸に還元したい

「自分が活躍したい」から「チームを勝たせたい」へ、年齢を重ねて負けず嫌いの表現方法も変わった 【YOJI-GEN】

――若い頃の武藤選手からはがむしゃらにプレーして、何がなんでも自分がゴールを決めるんだという強い執念のようなものを感じていました。実際にそうやって結果を残したからこそヨーロッパ移籍も実現できたと思います。今は「より確率の高いプレー」を選ぶようになって、自身のパフォーマンスの変化や成長をどのように捉えていますか?

 31歳になって、個人が目立つよりもチームを勝たせたいという気持ちがかなり強くなってきましたね。昔は自分が活躍して海外移籍したい、日本代表になりたいという気持ちが前のめりすぎて、「自分がゴールを決めてチームを勝たせればいいじゃん」というマインドでしたけど、今は周りに信頼できる選手たちがいる。そして、神戸を優勝させたいし、何よりも目の前の試合に勝利できる可能性が高いプレーを選択することを心がけています。

 やっぱり僕がゴールを決め続けて調子が良かったとしても、周りの選手たちがゴールを決められなくてメンタル的にうまくいっていなかったら、チームとして本来の力を発揮できないですよね。サッカーは1人でするものではないので、みんながいい状態であれば、それに越したことはない。だから他の選手にゴールを決めさせることも重要ですし、そうやって最後にパスを選べれば、逆にチームメイトが自分でシュートを打ったら7割、僕に預けたら10割でゴールを決められる場面でパスを出してくれると思っています。

――武藤選手は「超」がつく負けず嫌いですよね。でも、「誰よりも多くゴールを決めたい」から「とにかく試合に勝ちたい」へと負けず嫌いの表現方法が変わったのではないかと。

 間違いないです。今ほど「リーグ優勝をしたい」と思ったことはないし、だからこそ何がなんでも負けたくない。試合に負けた日は本当に寝られないですし、誰よりも生まれながらの負けず嫌いであるという自負もあります。なので、とにかく目の前の試合に勝つためにベストな選択を続けられればいいなと思っています。

――負けず嫌いな一面は、守備にもよく表れているのではないかと思います。武藤選手が繰り出すプレッシングにはJリーグでも屈指の強度と質の高さを感じます。でも、ご自身にとっては普通のことですか?

 あれはもう普通ですね。ヨーロッパでは前線から守備のために走ることをかなり強く要求されていましたし、ハードワークできなかったら次の日にはベンチ送りでした。強度高くプレスを続けることの意味も知っていますし、ヨーロッパのスタンダードを神戸に還元したいと思っています。自分の姿勢を見ている若い選手たちが、「もっと頑張ろう」と思ってくれていれば嬉しいですね。

――ヨーロッパから日本に戻ってきた選手には、もう一度Jリーグに適応することも求められます。ただ、武藤選手はいい意味でJリーグに合わせようとせず、ヨーロッパでやっていたことをそのまま表現しようとしているように感じるんです。

 おっしゃる通りで、あえて合わせないようにしています。「こいつがいたらチームが強くなる」と思ってほしいし、「Jリーグに帰ってきて、気持ちよくやっているな」と思われたくない。自分が攻守両面において違いを作らなければいけないと考えていますし、一生懸命プレーして結果で価値を証明するのが僕の役目だと自負しています。

あれだけ絶望したのは久しぶりだった

22年1月の代表合宿に招集されたが、日本代表での試合出場となると19年まで遡る。今年こそ、止まった時計を動かしたい 【写真は共同】

――今シーズンのパフォーマンスを見ていると、日本代表復帰への期待も高まります。昨年は直前のケガでEAFF E-1サッカー選手権に出場できず、カタール・ワールドカップの舞台にも立てませんでした。今、日本代表は武藤選手にとってどんな存在になっていますか?

 もちろん、日本代表は常に目標にしています。カタール・ワールドカップであれだけ素晴らしい試合をした日本代表を見て、心から嬉しく思いましたけど、同時にそのピッチに立てなかった悔しさは人一倍ありました。いい結果を残し続けて、最後に逆転でワールドカップのメンバーに選ばれたいと意気込んでいたのに、E-1選手権直前の試合で大きなケガをしてしまった。あれだけ絶望した日は本当に久々でした。だからこそ、もしまた日本代表に戻れたら、そんなにも嬉しいことは他にない。

 そして、ワールドカップに出場するためのチケットは、誰かからもらうものではなく、自分でつかみ取るしかありません。自分の力でつかめなければ、何も起きない。現時点で3年後のワールドカップのことは何も考えていません。まずは日本代表に戻らなければいけないし、それよりも大事なのは神戸で結果を出すことだと思います。来るべき日のためにやるべきなのは、ピッチで結果を出し、チームを勝たせ続けることだけです。僕自身、目先のこと以外はあまり気にしないタイプなので、とにかく今やるべきことをやって、その先にいい結果が待っていればいいなと思っています。

――武藤選手にはまだ所属クラブでタイトルを獲得した経験がありません。ただ、今シーズンはJ1で優勝争いに絡んでいて、大きなチャンスがあります。これから本格的に突入していく後半戦に向けた決意を聞かせてください。

 今シーズンは何がなんでもタイトルを獲りたいですし、僕自身リーグ優勝をしたことがないので、想いは人一倍強いです。だからこそチームのために捧げられるものはすべて捧げて、出せるものをすべて出す。自分に鞭を打ちつつ、どんなに苦しくても走り続けて、チームを勝たせられる選手になりたいし、チームが優勝することが僕にとって何よりも大事な一番の目標なので、それを成し遂げられるように日々頑張っていきたいと思っています。

――苦しいときに気持ちで踏ん張れるのは、武藤選手にとって大きな強みですよね。

 自分自身でもそう思います。苦しいときは「もしここでサボって、走らなかったことが負けに繋がってしまったら、1週間沈んだ気持ちになるんだぞ」と自分に言い聞かせます。結果がどうであれ、苦しくても勝つために死ぬ気で走って、やり切って試合後にぶっ倒れたほうがいいですから。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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