専門家たちが証言する石川祐希の進化「バレーボール選手にとって理想的な身体に近づいている」

田中夕子

トレーニング効果を高める大切な日々の食事

栄養バランスのとれた食事。ごはんは必ずスケールで量り、朝は300、夜は500グラムを摂取する 【写真提供:(株)明治】

 トレーニングメニューは所属するミラノや日本代表で提示されるものが主となるが、その効果を高めるために重要なのが日々の食事とセルフケア、そして睡眠を含む休養。まず食事に目を向ければ、案浦氏が「バランスに長けている」という通り、大きな改善点はない上に元々の摂取量自体も多く、1日の食事での摂取カロリーは約4000キロカロリー。朝と夜は自炊がメインとなるが、その際も必ずごはんの量をスケールで量り、朝は300、夜は500グラムを摂取する。一般的な茶碗一杯のごはんが150グラムであることを考えると約2~3倍の量だ。

 エネルギーだけでなく、筋肉を増やすにはたんぱく質も必須であるため、毎食肉や魚を摂取し、ごはんに加え、主菜、副菜とおかずは2品を目安にしているが、野菜をたっぷり入れたスープに鶏肉を入れるなど工夫を凝らす。もともとこの状態で身体づくりに取り組んできたが、さらに「大きく」するならば、もうひとつプラスしなければならない。そこで案浦氏が提案したのは、一食分の量を増やすことではなく、栄養を摂取する回数自体を増やすことだった。

「もともと食事自体はしっかり摂れているので、体重、筋肉量を増やすならば栄養補給の回数を増やすしかない。入れられるとすれば練習前後と寝る前のタイミングしかありません。これまでも練習前にはバナナを食べたり、練習後にプロテインを摂ることは習慣となっていましたが、ポイントは寝る前です。ヨーグルトにハチミツを入れることを推奨して、実践してもらいました」

 摂取した後に活動が続く練習前や練習後と異なり、就寝前の補食を入れる目的はエネルギーとたんぱく質を摂取すること。ヨーグルトは調理の必要がなく手軽に食べられることに加え、含まれる乳たんぱく質からホエイとカゼインを摂ることができます。吸収の速いホエイに比べ、カゼインは吸収のスピードは劣るが持続率が高いため、体内に残る時間が長い。ゆっくり身体を休める就寝時はまさにうってつけであり、「寝ている間にゆっくりと身体をつくってくれる」と案浦氏は言う。

「遠征時などはヨーグルトを選ぶ時には高たんぱくのものを探してもらったりして、効率よく栄養を摂る工夫をする。カルシウムやたんぱく質を摂取するのであれば牛乳も効果的ですが、発酵食品のヨーグルトは腸内環境にも良い影響があるため、アスリートには積極的に摂ってほしいですね。遠征時など夜食を準備するのが難しい場合もありますが、その時はプロテインを代用するのも手です」

テクニックだけでない、石川の本当の凄さ

 日本代表の主将として見せるパフォーマンスは、ただ石川のセンスやテクニックが長けているということだけでは収まらない。日々取り組み、継続してきた地道な努力によって、つくりあげてきた身体の強さ、大きさがあるからこそ発揮できるものだ。

 石川が高校時代から中大時、プロになった今に至る課程を知る野口氏が言う。

「ユースに選ばれる年代からプロとして世界と渡り合うまでの軌跡を、僕は石川選手を通して見せてもらってきました。今の世代に『石川選手はこうだったよ』と伝え、今からいきなり同じことをするのではなく1日5分でもいいからストレッチをする習慣づけの大切さを説くと、響き方も全く違います。バレーボールに対する向き合い方、セルフケア、食事、睡眠。石川選手の凄さの裏側にある“自分との向き合い方”を少しでも伝えられるように。競技成績を残すことだけでなく、石川選手の今の姿から、バレーボール界にたくさんのものをつなげていきたいです」

 世界最高峰の舞台で、世界最高の選手となるべく戦う。その挑戦を共に歩む専門家たちの証言が表す、石川の強さ。

 間もなく始まるネーションズリーグで、どんな姿、身体を見せるのか。そしてこれからへどうつながっていくのか。いくつもの楽しみが、広がっていくはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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