連載:WBCで話題!あの代表選手のいま

侍ジャパンの前に立ちはだかった“ドヤ顔”左翼手 メキシコ代表のあの男が導いたMLB史に残る快進撃

村田洋輔

WBC準決勝・メキシコ戦。この“ドヤ顔&腕組み”ポーズは日本の野球ファンを恐れさせた 【Photo by Mary DeCicco/WBCI/MLB Photos via Getty Images】

MLB開幕後も“ドヤ顔&腕組み”ポーズ健在

 大会のクライマックスとなった大谷翔平vs.マイク・トラウトを筆頭に、数々の名場面が生まれた第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)だが、侍ジャパンを応援していた日本の野球ファンに最も強烈なインパクトを残した選手は間違いなく、メキシコ代表のランディ・アロザレーナだろう。

 メキシコ代表との準決勝、侍ジャパンは3点を追う5回裏に先頭の岡本和真がレフトへ大飛球を放ったものの、アロザレーナがフェンス際でジャンプ一番、鮮やかな本塁打キャッチに成功。無表情の「ドヤ顔」は世界中の野球ファンに大きなインパクトを与えた。その直後には試合中にもかかわらず、投手交代の合間に即席のサイン会を開く余裕も見せ、二死満塁から近藤健介のレフトフライを捕球すると、外野席に背を向けたまま、ボールをスタンドに投げ入れた。

 その後も要所で侍ジャパンの打者が放った打球はことごとくアロザレーナのグラブに収まり、侍ジャパンが吉田正尚の一発で3対3の同点に追いついた直後の8回表には、山本由伸からライトへの二塁打を放ち、二塁ベース上で腕を組んでまたも「ドヤ顔」を披露。次打者アレックス・バードゥーゴの二塁打で勝ち越しのホームを踏んだ。

 最終的に侍ジャパンが村上宗隆の一打で劇的な逆転サヨナラ勝ちを収めたものの、もしメキシコ代表が勝利していたら、アロザレーナは永遠に「侍ジャパンの天敵」として日本の野球ファンの記憶に残っていたかもしれない。

 キューバ出身ながらメキシコ代表の一員としてWBCに初出場したアロザレーナは、不動のリードオフマンとして全6試合に出場し、打率.450、1本塁打、9打点、OPS1.507の大活躍。初のベスト4進出を果たしたメキシコ代表を牽引し、文句なしの満票で大会ベストナインに選出された。

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 アロザレーナは大会が終了してレイズに再合流したあと、「どんな瞬間も大きすぎることはないんだ、と言いたいね。僕はただフィールドに出て、自分の知っているプレーをするだけさ」と大舞台で気負いすぎることなく、あくまでも自然体でプレーしていたことを強調。「この大会は本当に楽しかった。優勝できればよかったけれど、僕たちはメキシコ代表として本当によく頑張ったと思う」とWBCを振り返った。

 レイズのケビン・キャッシュ監督は「大会を通して、世界中の人々が彼のもたらす喜びや彼のプレースタイルを目撃したと思う」とコメント。MLBによると、WBC期間中にアロザレーナのインスタグラムのフォロワーは299%、ツイッターのフォロワーも105%増加したという。

 レイズからはアイザック・パレデスとジョナサン・アランダの2人もメキシコ代表に加わっていたが、パレデスは「彼は間違いなく、ショーをするのが好きなんだと思う。僕も彼のことが大好きになったよ」とコメント。アランダは「彼は自分のプレースタイルを貫き、メキシコの人々に受け入れられたんだ。彼はファンのことを愛していたし、ファンも彼のことを愛していたね」とキューバ出身のアロザレーナがメキシコの人々のハートをガッチリと掴んでいたことを明かした。

プエルトリコとの準々決勝で攻守にわたって活躍し、メキシコ代表を初のベスト4へと導いたアロザレーナ(中央) 【Photo by Daniel Shirey/WBCI/MLB Photos via Getty Images】

 そしてWBCの興奮冷めやらぬなか、MLBの2023年レギュラーシーズンが開幕すると、アロザレーナが所属するレイズは球界の主役となった。なんと1982年ブレーブスと1987年ブリュワーズに並ぶ、近代MLB(1900年以降)のタイ記録となる開幕13連勝を達成したのだ。13試合の合計117イニングのうち、わずか6イニングしか相手チームにリードを許さず、開幕から9試合連続で4点以上の差をつけて勝利するなど、投打両面で充実の圧倒的な強さを見せつけた。

 アロザレーナは3番打者ないし4番打者として連日スタメン出場。開幕から10試合連続安打をマークするなど、開幕13試合で打率.314、3本塁打、16打点、OPS.928の好成績をマークしてチームの快進撃に大きく貢献した。WBCで注目された「腕組みポーズ」を要所で披露し、今や「腕組みポーズ」はアロザレーナのトレードマークとなっただけでなく、レイズの快進撃の象徴となった感すらある。

 3割を超えるアベレージを残しているメジャー3年目の若き天才打者ワンダー・フランコをはじめ、日替わりでヒーローが誕生したレイズだが、アロザレーナは開幕3戦目、日本時間4月3日のタイガース戦で4回裏に先制のソロアーチを放ち、今季初本塁打を記録。今季初めて追う展開を強いられた開幕5戦目、同5日のナショナルズ戦では、2点ビハインドの8回表にこの試合2本目のタイムリー二塁打を放ち、二塁ベース上で腕組みの「ドヤ顔」を披露した。

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著者プロフィール

神戸出身。2001年、イチローのマリナーズ移籍をきっかけに本格的にMLBに興味を持つ。2016年からMLBライターとしての活動を開始し、2017年から日本語公式サイト『MLB.jp』編集長。2021年にはSPOZONE(現SPOTV NOW)で解説者デビュー。ジャンカルロ・スタントンと同じ日に生まれたことが密かな自慢。

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